HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

陳腐化へのランウェイ。

2023-07-26 06:41:35 | Weblog
 東京ガールズコレクション(TGC)の地方開催の一つ、「CREATEs presents TGC KITAKYUSHU 2023 by TOKYO GIRLS COLLECTION」が10月7日に開催される。7月6日にはタレントの中条あやみが開催地の北九州市を訪れ、プレスプレビューが行われた。同イベントは新型コロナウイルスの感染拡大で一時は開催を見合わせていたが、昨年から復活。2年連続での開催となる。

 昨年はオンライン配信も含め約155万人が鑑賞し、経済波及効果は約20億6,000万円と試算された。イベントは人気タレントによる客寄せ興行に過ぎないが、北九州市はともかく福岡県までもが税金を投入する以上、何らかの大義が必要になる。そのため、地元の大型商業施設と連携したり、特産品「小倉織」のショーを並演するなど、地域色を出そうと躍起だ。「TGC地方創生プロジェクト」とも連動させ、地元への誘客も狙う。



 ただ、内容はいたって陳腐化している。旬のタレントがSPA系のトレンドファッションを身につけてランウエイを歩き、要所要所で音楽や映像などのアトラクションを加え、「フェス」としての体裁を整えるだけでマンネリ化は否めない。そこで今年はキッズモデルも出演させる。福岡県在住の5歳~12歳(※応募時)の子供を対象に事前にオーディションを行い、8月の公開最終審査を経て、受賞者はTGC北九州の出演が決定する。新鮮さはそれくらいだ。

 すでに出演タレントは第1弾が発表済み。プレスプレビューに参加した中条あやみをはじめ、コメンテーターとしても活躍するトラウデン直美、他には嵐莉菜、岡崎紗絵、景井ひな、菊池日菜子、せいら、菜波、村瀬紗英、ゆうちゃみらが決まっている。昨年のTGC北九州では、新川優愛が妊娠を理由にドタキャンした。2019年には道端アンジェリカが夫が恐喝容疑で逮捕されたことを受け、出演を取りやめている。

 主催自治体の北九州市や福岡県としては、イベント開催に支障が出ることだけは避けたいだろうし、その旨はタレントをブッキングするW TOKYO側にもクギを刺していると思われる。北九州市は今年、武内和久新市長が就任した。厚生官僚出身ではあるものの市政運営の経験も実績もないことから、一つ一つの事業成功が行政手腕の通信簿になり、TGC北九州も含まれる。タレントの不祥事は懸念材料だろうが、こればかりは首長にも予測はできない。



 中条あやみは今年、IT実業家と結婚した。言うなればミセスがガールズコレクションに出演するのも妙な話だが、彼女が客寄せの中心であるのは間違いない。主催者としてはドタキャンだけは避けたいはずだし、事務所のテンカラットとしても、“その辺り”はしっかりコントロールしていると思う。ただ、彼女以下のタレントになると、事務所が管理していると言っても、私生活や素行までのチェックは難しい。新川優愛や道端アンジェリカのケースがあるからだ。

 別のガールズコレクションでは、出演タレントが駐車違反を70回も繰り返し、反則金も滞納していたことがイベント後に発覚した。おそらく関係者は事前に把握はしていたと思うが、旬の人気タレントであればイベント出演の方が優先される。この手のイベントにはそうした闇の部分が隠れているとも言える。

 一方、過去のTGCで、中条あやみと人気を二分した三吉彩花。彼女は昨年、デザイナーのジョルジオ・アルマーニが世界から選ぶ12人の女性、「クロスロード」に選出された。ラグジュアリーブランドに起用されると、モデルとしての格とギャラがアップする。そのため、所属事務所のアミューズはTGCへの出演、その地方営業は控えるようになった。だが、彼女のような人気タレントが出演しなければ、イベントの来場客が減少することもあり得るのだ。

 この手のタレントやモデルは毎年、何百人もがデビューする。事務所としては新人をTGCの地方営業でも何とか出演させて知名度を上げたいのが本音だろう。だが、誰もが人気タレント、不動のコンテンツになるわけではない。自治体はイベントの大義に地方再生などの御託宣を掲げるが、タレント頼みでは非常にリスクが高いことも、十分に考えておかなけれならない。


冠スポンサー・タカギの降板が意味するもの

 もちろん、イベントには莫大な開催資金を支援するスポンサーの存在が不可欠だ。TGC北九州は2015年の初開催から19年までは地元北九州市の浄水器・散水用品メーカー(株)タカギがスペシャルパートナー、いわゆる「冠スポンサー」に就いていた。ガールズコレクションの主な対象はZ世代である。タカギが製造販売するカートリッジ式の浄水器、洗車や庭の水撒き用の散水ノズルは、この世代がメーンで購入する商品ではない。

 にも関わらず冠スポンサーに就いたのは、創業者の高城寿雄会長にとって北九州市に育ててもらったという地元愛と地域振興の一助になればとの強い思いからだ。ところが、経営をご子息に譲って事業を継承させるスキームが躓き、(株)日本産業推進機構との業務提携にまで発展。これにより高城会長が代表職を退任した。カリスマ経営者が去るとこうなるというどこかの流通グループにも似た構図だが、同社はTGC北九州の冠スポンサーも降板した。

 本来ならタカギに代わる地元スポンサーを獲得すべきなのだが、北九州市は鉄冷えと呼ばれる製鉄業の衰退や企業の移転で、人口は100万人を大きく割り込み、市場の縮小と景気の低迷が続く。また、政令市の中では最も高齢化が進み、増え続ける福祉・医療費により財政は厳しい。つまり、生産人口の若年層が街を出ていく傾向があり、経済系メディアからは「稼げない街」とのレッテルを貼られている。


 
 TGC北九州はこうした状況から脱却するために若者に注目してもらうイベントでもある。一応、今回のプレスプレビューでは北九州市に本拠を置くタクシー会社「第一交通産業(株)」の田中亮一郎社長の顔も見られるが、冠スポンサーではないようだ。イベントをメーンでスポンサードできる企業が地元で見つからないのだから、如何ともし難い。それは同市の景気低迷、構造不況がズシリとのしかかっていることを如実にあらわす。



 昨年は冠スポンサーが就かないでの開催だった。今年は地元北九州市ではなく、福岡市に本拠を置く美容家電の商社「クレイツ」が初めて就いた。しかし、数千万から億とも言われるスポンサー料を払える企業は、地方にはそうそうない。また、それを払ったからと有り余るリターンなどは期待薄だ。同社がタカギのように2回目、3回目とスポンサーを継続できるかは全く不透明と言える。それはゴルフイベントのKBCオーガスタなども同じである。

 支援する公共団体では北九州市、福岡県の他に「北九州市都心集客推進委員会」が名を連ねている。こちらは北九州市が作成した「北九州市新成長戦略」の中で、平成25年9月から「都心部における集客交流の強化」を重点目標として、「都心部に年間300万人の集客」を目指すアクションプランを履行する組織だ。

 TGC北九州もその一つになるという位置付けなのだろう。ただ、TGC自体の集客人員は多くても1万人強。目標の0.4%にも満たない。年間300万人の集客が気の遠くなるような数値であるのがよくわかる。



 昨年、TGC北九州が再開したことで、同イベントと提携する熊本市でも、今年春にはTGCが再開されると考えられた。TGC熊本は2019年春に初開催され、第2回目も開催予定で準備が進んでいた。だが、20年春には新型コロナウイルスの感染が拡大したため、「延期」扱いとなった。北九州市がTGCを再開した一方、熊本市は再開しなかったのである。

 理由は何か。あくまで予測の域を出ないが、第1回目の開催で期待したほどの広域集客、経済波及効果がなかったこと。新型コロナウイルスが完全に終息したとは判断できなかったこと等などが考えられる。しかし、延期扱いになっている以上、来春に第2回目が開催される可能性は捨てきれない。仮に開催が決定事項となっているのなら、8月中には熊本市でもプレスプレビューが開催されるはずだ。

 熊本市は北九州市に比べると、若者のファッションへの関心は高いし、若手の事業者もビジネスには熱心だ。ところが、自治体が開催の大義とする「地域への誘客」や「にぎわい創出」にTGCが全く繋がっていない点が問題と言える。そもそも、客寄せ興行を開催したからといって、地元のアパレル販売に恩恵などあり得ない。大学教授などが試算する経済波及効果も盛った数値で、ほとんどのファッション事業者はリターンはないと口を揃える。

 熊本市はコロナ禍が落ち着いたものの、中心市街地への集客は以前の状態には戻っておらず、商店街では空き店舗が目立つ。6月に発生した不可解な殺人事件も中心部の地盤沈下が一因と見られ、治安悪化はテナントビルの入居率にも影響する。客寄せ興行に税金を投入する前に中心部への客足を戻す施策を実施し、夜間でも安心して歩ける街にするのが先決だろう。

 災害からの復興や地域の賑わい創出などを目的にスタートしたTGCの地方開催。だが、地元自治体が掲げた目標達成には遠く及ばず、ルーチンに回数だけが積み重なった状況にある。それはTGC自体が頭打ちで完全に潮目を迎えていることを意味するのではないだろうか。


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