ミリタリーテイストはトレンドになるかどうかは別にして、毎シーズンいろんなブランドが発表する。この秋、セレクトショップの店頭でチラホラ見かけるのが、「MA-1」だ。
第2次大戦後、戦闘機がジェットタイプになって高空域を飛ぶようになるとコックピットは密閉され、パイロットには風よけより冷気を遮断する必要性が生じた。そこで開発されたのが特殊ナイロン素材を用いたMA-1のフライトジャケットである。
デザインはフロントジップで襟と袖がリブになり、左袖にペンや煙草が入れられるようにまちポケットが付いている。
リバーシブル仕様で、表地はセージグリーンまたはブラック。裏地はオレンジ。保温材としてポリエステルの中綿が入る。シンプルかつ機能的で、ミリタリーウエアとしてはベーシック中のベーシックと言える。
我々の世代では、アメ横の中田商店で売られていたサープラスまがいの「レプリカ」が有名だ。また1986年制作の映画「トップガン」がヒットした直後には、ちまたではなぜかアルファインダストリーズ社製のMA-1を着ている人々を数多く見かけた。
主演がトム・クルーズだったので人気アイテムになったのかとビデオを借りて確かめたが、トム・クルーズがMA-1を着ているシーンはなかったように記憶している。
きっと、映画にあやかって雑誌がフライトジャケットの特集したことで火がついたのではないだろうか。その辺は定かではないが。
筆者が再びMA-1に出会ったのは、それから何年か後。仕事でイタリアのミラノに出張した時、街中でMA-1タイプのブルゾンを着ている人と何人もすれ違った。
こちらはナイロンではなく、シリコンラバーのような素材が用いられていた。デザインはディテールこそ一緒だが、肩から袖のラインがスッキリしたシャープなフォルム。漆黒のマット地が石造りの聖堂群に映えて、こちらの方が筆者の好みだった。
帰国後、某専門店チェーンのバイヤーと話す機会がありその話をすると、たまたま同時期にミラノ出張していた別のバイヤーも同じ光景を見かけていたという。
出張したバイヤー曰く、「コレクションでデザイナーが発表したアイテム。ミラノの人たちが着ているのはそのコピーではないか」とのこと。併せて、日本でも当たるかもしれないので、仕掛けられないかと検討中」とのことだった。
その後、この専門店の店頭に商品化された「ミラノMA-1」が並んだのかどうかは、確かめていないのでわからない。
米国タイプの大ヒットから30年、ミラノスタイルから20数年。この秋、セレクトショップの店頭には、米国タイプの焼き直しから、表地がカモフラージュ柄やポリエステル強撚糸のものまでラインナップされている。
レディスでは共地のコートやスカートも登場。一部のブランドではカットソーなどの異素材もあるが、大半は素材にポリエステルを使った米国タイプのテイストだ。
セレクトショップと言っても、大手はトレンドを仕掛けようとする時、大概オリジナルで生産する。今回のMA-1もそのようで、ここまで来ると完全にOEM業者への丸投げか、定番踏襲の安易な企画に思えてならない。素材使いが何よりの証拠だ。
オリジナルやレプリカがあくまでナイロン100%にこだわるのに対し、セレクトショップは「ポリエステル」がほとんどだからである。
某グローバルSPAも、固有名詞こそ使っていないが、ボンバージャケットという名称で同系のデザインを販売している。こちらも素材はポリエステル100%になっている。
ボンバーとは爆撃手という意味。第2次大戦までは爆撃機の爆弾投下口からはもろに風が入ってくるので、ボンバーはムートンの襟が付いた防寒用のレザージャケットを差した。
だから、ボンバーと聞くと、どうしてもレザー&ムートンが思い浮かぶ。デザイナーブランドの中には、ムートンはそのままで身頃だけ厚手のコットンギャバに替えたものもあったほどだ。
最近は爆撃機もハイテクになり、爆弾投下室も密閉された二重構造で、ジャケットもナイロン素材で十分なのだろうか。
それとも、レギュレーションからMA-1と表記する以上、素材はナイロン限定、仕様もミリタリー規格に合わせないとならないのか。
どちらにしても、ファッションアイテムとしてのMA-1は、メンズならアメカジの延長線という感じで、インナーやボトムをいろいろ替えれば、今年風の着こなしは十分に楽しめると思う。
問題はレディスである。MA-1は狭いコックピットの中でも動きやすいのと、空気の層を作って保温効果を高めるため、ふわっとした丸みがかったフォルムが特徴だ。
ショップに展開されている商品を見ると、米国タイプをサイズダウンしたようなもの。カラーも同系のセージグリーンやネイビーで、着丈は中途半端に長い。
それをギャザースカート、つば広帽なんかを合わせたコーディネートを提案しているが、はたしてこの冬にこんな格好の女の子たちが街中を闊歩するのだろうか。
外し崩しのテクニックと言ってしまえばそれまでだが、いくら太めのアイテムが復活しそうと言っても、上下が同じラインでは明らかにバランスはおかしい。それとも、みんなが似通った格好なら、気にならないのか。
素材に光沢があるので、嫌が上でもアイテムは目立ってしまう。それにインナーやボトム、小物をどう組み合わせるのか。セオリー通りの着こなしなら、ボトムはスキニーなど細身のパンツの方がスッキリ見えるのだが。
個人的には企画の段階からなぜこだわらなかったのかと思う。同じポリエステルを使うなら、MLBジャンパーの逆で、表地全体をバイヤスのキルティングにしてみるとか。工夫はあっただろう。
素材を替えるなら、それこそシリコンラバーでスタイリッシュにまとめたり、逆にミックスツイードを使って高級感を出したりとか。
あるいはポリエステル素材を使うにしても、思いきってブラックのショート丈にしてみるとか。米国タイプのままの企画では、少しイージーではなかったか。もっとファッション性を追求しても良かったのではないか。
現状では売場の編集を含め、着こなし提案がアイテムがヒットするか、しないかのカギを握る。しかし、組み合わせるアイテムがそれほどあるとは思えないので、結果がどうなるのかに注目している。
一方、メンズはブランド毎に「アレンジ」が加えられ、何とか今年風の匂いを出そうとの腐心が見える。他のアイテムと組み合わせ、いろんな着こなし提案がなされれば、そこそこヒットするのではないだろうか。
おそらくサープラスのレアものを含め、アルファ社やアビレックス社が製造するレプリカにこだわるのは、ハイエージのアメカジファンか、ミリタリー心酔者などごく一部だ。
大手セレクトショップの商品部サイドでも、「多くの若者はそこまでブランドにこだわらないだろう」との共通認識だったではないか。でなければ、これだけ多くのショップが同時にMA-1を打ち出すはずがない。
言い換えれば、大手セレクトショップのSPA化がますます先鋭化した。またはAMS化によるODM調達が際立った結果だとも言えるだろう。
これまでユニクロが冬にはフリース、ダウンジャケットとヒットさせてきたので、大手セレクトショップとしてもマーケット連合を組んでトレンドアイテムを仕掛けようという狙いなのか。
政治の世界では、安保法案が与党の合意で今週中にも成立しそうである。それに対して、戦争法案?廃案に向けた市民&学生グループの示威行動が賑やかだ。
ミリタリーウエアであるMA-1=戦争賛美なんてさらさらないと思うが、法案可決後に活動主体の若者が着ている姿をさらせばどうなるだろう。
逆にネトウヨから「言うことと着るもののパラドクス」「低偏差値ゆえのセンスレス」などと揶揄される書き込みがないとも限らない。
まあ、X-girlのモチーフとなったキム・ゴードンが所属したバンド、ソニックユース。そのCDデザインをパクったTシャツを着ながら、自らの正当性を訴えるのだから、なおさらである。
メンズでは他にトレンドになりそうなアイテムが見当たらないし、セレクト各社が仕掛けているということは、「コツン」くらいのヒットにはなるだろう。
それに触発されてアルファやアビレックスのレプリカにもスポットが当たれば、MA-130年周期説と言えなくもない。
トップガンの頃と同じような光景が街中に甦るかどうかはわからない。でも、冬場のクリーンヒットとなれば、メンズのセレクトではショールカラーのベルテッドコート以来かもしれない。
第2次大戦後、戦闘機がジェットタイプになって高空域を飛ぶようになるとコックピットは密閉され、パイロットには風よけより冷気を遮断する必要性が生じた。そこで開発されたのが特殊ナイロン素材を用いたMA-1のフライトジャケットである。
デザインはフロントジップで襟と袖がリブになり、左袖にペンや煙草が入れられるようにまちポケットが付いている。
リバーシブル仕様で、表地はセージグリーンまたはブラック。裏地はオレンジ。保温材としてポリエステルの中綿が入る。シンプルかつ機能的で、ミリタリーウエアとしてはベーシック中のベーシックと言える。
我々の世代では、アメ横の中田商店で売られていたサープラスまがいの「レプリカ」が有名だ。また1986年制作の映画「トップガン」がヒットした直後には、ちまたではなぜかアルファインダストリーズ社製のMA-1を着ている人々を数多く見かけた。
主演がトム・クルーズだったので人気アイテムになったのかとビデオを借りて確かめたが、トム・クルーズがMA-1を着ているシーンはなかったように記憶している。
きっと、映画にあやかって雑誌がフライトジャケットの特集したことで火がついたのではないだろうか。その辺は定かではないが。
筆者が再びMA-1に出会ったのは、それから何年か後。仕事でイタリアのミラノに出張した時、街中でMA-1タイプのブルゾンを着ている人と何人もすれ違った。
こちらはナイロンではなく、シリコンラバーのような素材が用いられていた。デザインはディテールこそ一緒だが、肩から袖のラインがスッキリしたシャープなフォルム。漆黒のマット地が石造りの聖堂群に映えて、こちらの方が筆者の好みだった。
帰国後、某専門店チェーンのバイヤーと話す機会がありその話をすると、たまたま同時期にミラノ出張していた別のバイヤーも同じ光景を見かけていたという。
出張したバイヤー曰く、「コレクションでデザイナーが発表したアイテム。ミラノの人たちが着ているのはそのコピーではないか」とのこと。併せて、日本でも当たるかもしれないので、仕掛けられないかと検討中」とのことだった。
その後、この専門店の店頭に商品化された「ミラノMA-1」が並んだのかどうかは、確かめていないのでわからない。
米国タイプの大ヒットから30年、ミラノスタイルから20数年。この秋、セレクトショップの店頭には、米国タイプの焼き直しから、表地がカモフラージュ柄やポリエステル強撚糸のものまでラインナップされている。
レディスでは共地のコートやスカートも登場。一部のブランドではカットソーなどの異素材もあるが、大半は素材にポリエステルを使った米国タイプのテイストだ。
セレクトショップと言っても、大手はトレンドを仕掛けようとする時、大概オリジナルで生産する。今回のMA-1もそのようで、ここまで来ると完全にOEM業者への丸投げか、定番踏襲の安易な企画に思えてならない。素材使いが何よりの証拠だ。
オリジナルやレプリカがあくまでナイロン100%にこだわるのに対し、セレクトショップは「ポリエステル」がほとんどだからである。
某グローバルSPAも、固有名詞こそ使っていないが、ボンバージャケットという名称で同系のデザインを販売している。こちらも素材はポリエステル100%になっている。
ボンバーとは爆撃手という意味。第2次大戦までは爆撃機の爆弾投下口からはもろに風が入ってくるので、ボンバーはムートンの襟が付いた防寒用のレザージャケットを差した。
だから、ボンバーと聞くと、どうしてもレザー&ムートンが思い浮かぶ。デザイナーブランドの中には、ムートンはそのままで身頃だけ厚手のコットンギャバに替えたものもあったほどだ。
最近は爆撃機もハイテクになり、爆弾投下室も密閉された二重構造で、ジャケットもナイロン素材で十分なのだろうか。
それとも、レギュレーションからMA-1と表記する以上、素材はナイロン限定、仕様もミリタリー規格に合わせないとならないのか。
どちらにしても、ファッションアイテムとしてのMA-1は、メンズならアメカジの延長線という感じで、インナーやボトムをいろいろ替えれば、今年風の着こなしは十分に楽しめると思う。
問題はレディスである。MA-1は狭いコックピットの中でも動きやすいのと、空気の層を作って保温効果を高めるため、ふわっとした丸みがかったフォルムが特徴だ。
ショップに展開されている商品を見ると、米国タイプをサイズダウンしたようなもの。カラーも同系のセージグリーンやネイビーで、着丈は中途半端に長い。
それをギャザースカート、つば広帽なんかを合わせたコーディネートを提案しているが、はたしてこの冬にこんな格好の女の子たちが街中を闊歩するのだろうか。
外し崩しのテクニックと言ってしまえばそれまでだが、いくら太めのアイテムが復活しそうと言っても、上下が同じラインでは明らかにバランスはおかしい。それとも、みんなが似通った格好なら、気にならないのか。
素材に光沢があるので、嫌が上でもアイテムは目立ってしまう。それにインナーやボトム、小物をどう組み合わせるのか。セオリー通りの着こなしなら、ボトムはスキニーなど細身のパンツの方がスッキリ見えるのだが。
個人的には企画の段階からなぜこだわらなかったのかと思う。同じポリエステルを使うなら、MLBジャンパーの逆で、表地全体をバイヤスのキルティングにしてみるとか。工夫はあっただろう。
素材を替えるなら、それこそシリコンラバーでスタイリッシュにまとめたり、逆にミックスツイードを使って高級感を出したりとか。
あるいはポリエステル素材を使うにしても、思いきってブラックのショート丈にしてみるとか。米国タイプのままの企画では、少しイージーではなかったか。もっとファッション性を追求しても良かったのではないか。
現状では売場の編集を含め、着こなし提案がアイテムがヒットするか、しないかのカギを握る。しかし、組み合わせるアイテムがそれほどあるとは思えないので、結果がどうなるのかに注目している。
一方、メンズはブランド毎に「アレンジ」が加えられ、何とか今年風の匂いを出そうとの腐心が見える。他のアイテムと組み合わせ、いろんな着こなし提案がなされれば、そこそこヒットするのではないだろうか。
おそらくサープラスのレアものを含め、アルファ社やアビレックス社が製造するレプリカにこだわるのは、ハイエージのアメカジファンか、ミリタリー心酔者などごく一部だ。
大手セレクトショップの商品部サイドでも、「多くの若者はそこまでブランドにこだわらないだろう」との共通認識だったではないか。でなければ、これだけ多くのショップが同時にMA-1を打ち出すはずがない。
言い換えれば、大手セレクトショップのSPA化がますます先鋭化した。またはAMS化によるODM調達が際立った結果だとも言えるだろう。
これまでユニクロが冬にはフリース、ダウンジャケットとヒットさせてきたので、大手セレクトショップとしてもマーケット連合を組んでトレンドアイテムを仕掛けようという狙いなのか。
政治の世界では、安保法案が与党の合意で今週中にも成立しそうである。それに対して、戦争法案?廃案に向けた市民&学生グループの示威行動が賑やかだ。
ミリタリーウエアであるMA-1=戦争賛美なんてさらさらないと思うが、法案可決後に活動主体の若者が着ている姿をさらせばどうなるだろう。
逆にネトウヨから「言うことと着るもののパラドクス」「低偏差値ゆえのセンスレス」などと揶揄される書き込みがないとも限らない。
まあ、X-girlのモチーフとなったキム・ゴードンが所属したバンド、ソニックユース。そのCDデザインをパクったTシャツを着ながら、自らの正当性を訴えるのだから、なおさらである。
メンズでは他にトレンドになりそうなアイテムが見当たらないし、セレクト各社が仕掛けているということは、「コツン」くらいのヒットにはなるだろう。
それに触発されてアルファやアビレックスのレプリカにもスポットが当たれば、MA-130年周期説と言えなくもない。
トップガンの頃と同じような光景が街中に甦るかどうかはわからない。でも、冬場のクリーンヒットとなれば、メンズのセレクトではショールカラーのベルテッドコート以来かもしれない。