今回の名護市長選で、玉城デニー知事を支援する「オール沖縄」勢力は、通常は知事選の前に開く各派の「調整会議」の枠組みを早々に取り入れ、岸本洋平氏の選対を後方支援しつつも、秋の知事選を見据えて動いていた。ただ今回、この枠組みは「明らかに機能していなかった」(選対関係者)。「革新内での主義主張が強まり、意見を腹六分、腹八分でまとめきれなくなっている。かじ取り役のリーダーもいない」。内部で危機感が広がった。

 告示後の18日、名護市内の公民館には知事を支える県政与党会派や政党の幹部、労働組合や岸本選対の関係者らが集まった。報道各社の情勢調査で、暮らしを重視する相手候補の「先行」が報じられた直後。基地から経済へと戦略を転換すべきかが主な課題だった。

 「基地より子育て支援策を強調すべきだ」「新基地が完成したら100機のオスプレイが飛び交う。根気強く訴えれば市民にも伝わる」。議論は百出したが、結局、落としどころを見いださないまま散会した。ある参加者は「各政党や会派が言いたいことを言って、方向性は示さない。意見をもらえず選対を困らせただけだった」と振り返る。「いったい、何のための会議だったのか」。別の参加者は嘆く。

 県政与党幹部は、基地も経済も両方重視して訴えれば勝っていたかもしれないとの考え方だ。「腹八分でまとまって答えを出せるのがわれわれの強みだったはずだ」と先行きを案じる。

 危機感は組織内部の問題にとどまらない。

 名護市長選挙から一夜明けた24日の衆院予算委員会。岸田文雄首相は選挙の結果について「地域経済振興や住民福祉向上を訴えられたと承知している」と答弁した。

 「粛々と(工事を)進める」「選挙は結果が全て」。前首相の菅義偉氏が官房長官時代、名護市長選などの結果に対して発した言葉と同じ発言だったが、特に問題視はされなかった。「なにくそと、県民の怒りを買うような菅氏と違い、岸田氏は良心的にさえ映ってしまう」。与党幹部は世論の受け止め方が変わったと指摘する。

 辺野古の埋め立てや沖縄関係予算減額など「安倍・菅政権とやっていることは何も変わらないのに、権力に対する世論の怒りが弱まっている」。与党幹部は、自公打倒に向けた大きなハードルを実感したように語った。

(名護市長選取材班・山城響)

(写図説明)岸本洋平氏の打ち上げ式でガンバロー三唱する「オール沖縄」勢力=22日、名護市大北