去年のエマ・ストーンでも感じたけど、アメリカの女優さんは桁外れにパワフルだ。アカデミー賞が一番凄い賞だなんて思ったことないが、美しいだけでスクリーンを飾った往年のハリウッド女優の時代はとっくに過ぎた今や本物の実力と鋭い感性を持ち合わせた一握りの努力家がオスカーを抱く
この作品で振幅の激しい女性を演じたマイキー・マディソンは弱冠25歳の新人とも言える駆け出しだ。それなのに、こんなにも印象的な女性を見せられたら、日本の女優がやっている体当たり演技なんてものは学芸会の真似事にしか見えなくなる
ショーン・ベイカーと言う才人が一人で作りあげた小品に陽の目が当たるのは、若き主演女優賞の誕生共々アメリカらしい公正さだ
一昔前なら性労働従事者に焦点を当てた映画がアカデミーを取るなんて考えられなかった。人種差別問題や戦争後遺症に苦しむアメリカの実態を描いた社会性とは違うけど、アメリカのみならず世界各国にいる性労働従事者にどう響くのか興味深い
来店したロシアの放蕩息子に気に入られ、家まで遊びに行ってみれば大豪邸。アニーの住む高架線路脇のアパートとはまるで違う世界の住人だ。一週間専属契約で一緒に過ごすうちに、ノリで婚姻届にサインして夫婦になる。放蕩息子はアメリカの永住権が欲しいし、アニーは大富豪の生活が約束される
遊び呆けている二人は放蕩息子のロシア人ママの登場で破談になるのだが、ママが怖くて逃げ出した放蕩息子を探し出すまでの顛末が面白い。序盤、金持ちのイケすかない若者の集団だった遊び仲間たちも、結局は底辺で生きる労働者だったり護衛のロシア人も金に縛られた上下関係に苦しんでいることが分かってくる
わたくしがその意味を理解できなかったのは、放蕩息子とその一家に愛想を尽かし元の高架線路脇のアパートに帰ってきた時に流す涙の訳
ロシア人の護衛に股がりながら慟哭するアニーは、アノーラとして生まれ変わろうとしているのか?
ラストの慟哭になんだか救われた
その意味が分からなくとも、心が動かされる映画は素敵だ
ただ、今回も感じた外国映画に対するジレンマ。アメリカの性産業の現状、ロシア人とアルメニアの関係、多民族国家のコミュニティどれも知識もなければ、感覚も理解できない。これらが肌感覚で分かればこの作品をもっと楽しめただろうに