芥川賞作家である中村文則が書いたミステリー小説。
わたしは。ミステリー小説をあまり好まないので、純文学的な側面から、読んだ感想になります。
はじめは、フリーライターの主人公が、猟奇殺人(二人の女性を焼き殺す)で死刑判決を受けた男の本を書くために調査をしていく過程が書かれています。
殺人者としての写真家、その真実の一端を知る人形作家、そしてライターの主人公と、彼の依頼人である編集者と、表現者が登場します。そして、芥川龍之介の『地獄変』に登場する絵師のように撮影しようとした写真家が殺人犯として投獄されたのです。
主人公のライターは、取材をつづけ、関係者に会うたびに、「あなたは、この事件についての本は書けない、なぜなら、彼らの胸中にたどりつけないから」と言うようなことを言われ続けます。
そして、物語半ばで、本を書くことを諦めることになります。
カポーティは『冷血』を書いた後、小説が書けなくなった……主人公は、カポーティのようにはなれなかったのです。
殺人を行うのも、創造して創作物にするのも、ものすごいエネルギーがいるようです。
最後の最後に、お洒落なオチがついているのも、この本の魅力です。