
まもなく「女優 岡田茉莉子」という自叙伝が出版される。自叙伝だから本人が書いたものであるが、それに至った気持ちが文藝春秋11月号に「女優とは、優れた女と書く」というタイトルでおよそ1200字ほどの随筆が載っている。
母は宝塚歌劇の男役スターという母子家庭に生まれ、戦前戦後の苦しい時代を生きた。父の存在を知ったのは高校生のとき見たサイレント映画「滝の白糸」。母にその映画の話をすると表情がかわり「主演している岡田時彦」その人が私の父であると教えた。このときから女優になることが運命づけられていた、と断定している。
18才で映画女優としてデビュー、157本の映画、65作品の舞台、テレビドラマは多数出演したものの、映画女優という存在が消えつつあることから自伝タイトルを「女優 岡田茉莉子」にしたという。
彼女は女優という言葉に強い誇りを抱いている。女優とは「優れた女」と書く。これはスターやタレントとは異なり「女性として優れていなければならない」そうした思いから「女優を書き加えさせていただきました」と丁寧に断っている。多くの人に支えられたとも書いている。
自らが自叙伝に「女優」という冠をつけている。そこには最近の軽い感じのタレント層の振る舞いに対して言外に警鐘を鳴らしているようにも読み取れる。発売を待ちたい。
「母さん、あの帽子どこへ行ったんでしょうね」のセリフが映画の代名詞になっている「人間の証明」、岡田茉莉子の映画を見たのはこれが最後のような気がする。
(写真:自伝の表紙・文藝春秋書籍情報より)
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