
「岩国の民俗と俚諺(りげん)」(発行 昭和49年12月、 発行所 岩国市立岩国図書館)の「お土産のことなど」の中に酒類について短い文章がある。「今日、市内には銘酒が多く、黒松(村重)五橋(酒井)桜泉(桜泉)周東美人(菊元)新菊(八百新)成寿(藤本)福竜(富士田)名橋正宗(塩屋)があり、いずれも酔心地と舌ざわりのよさは逸品であるといわれております」。いま続いているのは村重、酒井、八百新、合併で岩国市に加わった金雀(堀江)獺祭(旭)の5酒造と思う。
和食には日本酒、この固定観念は過去のもので、現在の日本酒は和洋食どちらにも合うという。和洋食の食材や調理法の違いを思えば、その両方で美味くいただけるということは、日本酒の味巾が広くなったのだろうか。見たことはないが、映像で海外の店に並ぶ日本酒も珍しくなくない。
県内では酒の醸造が需要に追いつけないという嬉しい現象が起きている。県内の酒造りへの研鑽が評価されているのだろう。品不足の一つに酒米の不足が原因といわれ、行政による酒米作りの講習が開かれている。米価の値下がりなど困惑する米農家の経営に寄与すれば幸いだが、不足する量は可なりという。たまの晩酌で日本酒ならぐい飲み2杯の輩では消費に寄与していないが、県産酒の拡大は喜ばしい。
錦帯橋近くには3軒の造り酒屋があった。今は蔵は解かれその面影はない。その最後の蔵解体は6年前の秋だった。造り酒屋のシンボルでもある煙突、重機がその首を動かすたびに崩れ落ちる、もの寂しさを感じながら見ていたことを思い出す。フェイスブック「おいでませ山口館」では「山口の酒を世界に発信し交流の輪を広げよう」と呼びかけている。忘年会シーズン、飲み過ぎには注意しよう。