
坂の上の向こうに白い煙が立ちのぼっているのが見える。乾燥注意報発令下の野火ではと思い、火元の見えるとこまで急ぐ。野火ではなく畑での「くぐし」だった。久しぶりに見る光景なので撮っておこうと、相棒の手のひらサイズのデジカメを向ける。
あいにく風が強くて、白い煙は四方八方、上下左右と白いバレリーナのように舞い、いい構図にならない。気ままな風に任せてしばらく待っていると仰角45度の方向に煙がのぼり始めた。シャッターを押す一瞬だけで、風の向きはすぐに変わった。その一瞬は、私の撮る姿勢に根負けした風が恵んでくれた粋な計らいだった。
「くぐし」は子どもの頃から知っていた。畑作業ではしょっちゅう「くぐし」をしていた。これは通用する言葉なのかと調べるが手持ちの3種類の辞書には載っていない。ネットで検索すると「日本焚火学会」にその記載があった。「刈った草を燃やすもの」と短い説明、私の経験も説明の通りで、周囲に火が広がらないように気を付けていた。
学会の記載に枯れ草は焚くな、とある。特に風の強い日には飛び火で思わぬ災害になる。私は会社勤めの日曜農作業、刈ったらその日にくぐしていた。機械化され広い農地では、日本農業の原点に通じる「くぐし」の煙は立ちのぼらないだろう。風に舞う白い煙を眺めながら、何昔も前のことと合わせいろいろと思う。