どんな仕事でも専門家や専門的知識を持った人を「プロ」と尊敬の念を持って言う。何人かのそういう人に出会ってきた。50年近く前に出会ったその人は強く印象に残っている。当時は化学プラントで3交替勤務をしていた。職場の超重要機器のコンプレッサーに振動が出た。下請けの担当者は測定器など使用せず素手で各所を触り「ここのライナーを交換」という。薄いうすいライナーを交換したら振動はぴたりと止まった。
こんなことを思い出したのは、玄関前のアプローチのタイル張り目地に亀裂が出来た。補修依頼をしたら下見に来た業者がハンマーで何カ所かを軽くたたいた。「一部の個所でタイルが浮いている。下地からやり直す必要がある」という。推定できる原因をいくつか示し「全体を作り直すのがいい」と診断、工事を依頼した。
タイルを剝がし、下地のコンクリートを除くと、打音で診断の通り下地に問題があった。やってきた業者の役員が何も話さないうちに下地を見て「27、8年前の建築ですか」と問う。その通りだと答えると、この施工方法は当時までは許可されたが、問題があり今は別の工事方法と教わった。
触手で大型機器の振動原因を探り補修、ハンマーの打音で異常個所と原因を推定、工事現場を見て家の新築年を推定する、どれも知識と経験を積み重ねて来たから出来るのだろう。こうした仕事をやがてはAIが担うのだろうが、そのデータを積み重ねるのはプロの仕事だろう、そんなことを思いながら仕事を眺めている。