●東電福島第一原発事故 その3――メルトダウン(炉心溶融)は始まっている
文藝春秋編 日本の論点PLUS 2011.04.14 更新
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福島原発はどうか。冷却水が循環して、冷温停止中の5、6号機を除き、1~4号機は炉内3カ所、貯蔵用プール4カ所に使用途中と使用済みの燃料集合体を合計2724本かかえている。炉内で生成したさまざまな同位体(アイソトープ)が放射線を放って、安定した物質に変化する際に出す熱(崩壊熱)を冷却しなければならないが、自力でそれができずに外部のポンプ車などの注水に頼っているのが実情だ。地震による炉心の緊急停止(4号機は定期検査中で未稼働)以降、注水作業は、高い放射線環境のもとでおこなわれてきたが、注水はけっして十分ではない。炉内でも貯蔵用プールでも、燃料棒(集合体)はたびたび空気中に露出し損傷していると考えられている。東電では、とくに1号機がひどく全体(集合体292本)の70%が損傷、同じく2号機(同587本)は30%、3号機(同514本)は25%が損傷と推定している。
現段階では、福島第一原発は再臨界の可能性はないといわれているが、もう一方の問題である崩壊熱の処理は簡単ではない。核分裂反応が止まっても全出力の7%程度、100万kWhの原発なら7万kWhの熱源が残るのである。これを除いていかないと、温度が上昇して炉は空だき状態となっていく。それが極端に進んだのが炉心溶融、メルトダウンだ。温度上昇は燃料棒のさや(ジルカロイ被覆管、融点1850度)を溶かし、燃料ペレットをくっつけ、さらに燃料ペレット(融点2700~2800度)をも溶かしてコリウムという液体の金属混合物を形成する。コリウムは炉の底に溜まり、融点1500度、厚さ16センチの合金鋼製の圧力容器を溶かして外側の格納容器に落下し、そこをも貫通していく。
福島原発がもし炉心溶融した場合、スリーマイル島の原発事故のように自然に落ち着いてくれるかどうかは、じつは不明だという。おそろしいのは、この過程で大規模な水素爆発や水蒸気爆発が起きたとき、爆発で格納容器が破壊されれば、大量の放射性物質が外部に飛散する。福島第一原発の圧力容器内は、現在そうした高温にはなっていないというが、圧力容器内の温度は冷却作業に応じて変化していることを忘れてはならない。
ジルカロイ被覆管は温度が上がると、1200度あたりから急速に腐食がすすみ、水素を発生する。燃料の損傷が著しい1号機では、発生した水素が格納容器内に溜まってきている。これが酸素と結合するとふたたび水素爆発を引き起こす可能性がある。以前の水素爆発は建屋内であったが、格納容器内での爆発となると、事態はいっそう深刻となる。そこで緊急にとられた処置が、格納容器に不活性の窒素を入れ、爆発を回避する方法(2号機、3号機も同様の安定化処置が行われる予定)である。
・・・・・・・(略) (宇津見 健=うつみ・けん 『日本の論点』スタッフライター) |