tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-08 19:05:00 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

17.刺青
現在、デジャヴ現象を説明するメカニズムとして以下の3つが考えられている。
1.海馬傍回の突発的な神経活動
脳内の空間処理と"慣れ"の感覚を処理する部分である海馬傍回における小さな発作が原因であるとするもの。
2.第二視覚路の遅延
視覚情報は二つの経路を通過して認識される。一つは後頭葉にある視覚皮質へと直接届き、もう一つはそれより若干遅れて、後頭葉へと向かいながら脳の様々なエリア、特に頭頂葉を経由する。第二視覚路の刺激が何らかの理由で特に遅れた場合、脳はこれら二つの視覚路からの情報を、それぞれ別の体験として認識することがデジャヴの原因と推測するもの。
3.不注意による錯覚
二度目の訪問時、海馬はその景色を見た事がないものとして意識的に処理するが、一方で短期記憶の中には、前回の訪問時に見た景色の情報がいまだに残されており、それを「見た事がある」と認識することによるもの。
いまのところ、どの説が正しいのか、決着はついていない。しかしながら、デジャヴは実際に見た視覚イメージの脳内処理の問題にすぎず、予知とは本質的に異なることは確かだ。

「アヤカさんって、ドイツ語がペラペラなのよ」
「ウン、知っている・・」
ぼくはそう答えてから愕然とした。なぜ、ぼくはそのことを知っているのだろう。現実と夢がごちゃごちゃになってきて、ぼくはひどく混乱していた。食事を終えるとまだ昨日の疲れがとれないのか、強烈な眠気が襲ってくる。身体の芯に眠気が残っている感じだ。午後は、ホテルに帰って、ゆっくり静養しよう。
<午後、ホテルで昼寝したいんだけど・・・>
<また、うなされるんじゃない?>
<そうなんだ。それが心配>
<うなされたら、起こしてあげる。わたし、結構音に敏感なのよ>
彼女は、まだ日本にいたころ、一人下宿の部屋で真夜中に変質者に入られたらしい。彼女が物音に気がつくと、男は寝ていた彼女のタオルケットを割り箸でつまんで持ち上げていたと彼女は言う。でも、それって、すごくやばいんじゃないの・・・。無事だったそうだからよかったけど。

「ねえ、後ろの席の人。腕に変な刺青しているの。」
「え?」
「ダメよ。見ちゃ。」
彼女の言葉に後ろを振り返ったぼくを、彼女はたしなめた。
ぼくは、カメリエーレ(ウエイター)を探す振りをして、後ろの方向に目を配る。
ひとつ離れた、テーブルにストライプのシャツを着たジプシー風の男が一人で食事をしていた。
袖を捲り上げた腕に日本語らしい漢字の刺青が見える。
「坊主」。字が左右反転していた。
ぼくは、全身に鳥肌が立つのを感じると同時に、ひどく長い真夏の夜になりそうな予感に襲われた。

FIN


小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-07 17:59:46 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

16.ベージュの下着
ぼくらは強烈な日差しの下で、メッシーナの町並みを、ぶらぶら歩いた。街角で出会った子供達は陽気でシャイで素直な子が多かった。旅をするときに一番楽しいのは土地の人に直に触れることが出来る瞬間。たとえ、言葉があまり通じなくても笑顔で心が伝わることが多い。その仲のよい姉弟はおばぁちゃんと家の外で遊んでいた。さらに通りを歩いていくと魚や野菜、肉を売っている市場(メルカート)があった。魚市場では、水揚げされたばかりのウニやマグロ、タコやイカが並び、伊勢エビやシャコはピチピチとはねていて、どれもおいしそう。じろじろ見ていると、ウニ売りのお兄さんが試食させてくれたりする。
そして、市場の近くで見つけたトラットリアに立ち寄り、巨大な餃子のようなカルツオーネと、これも伝統料理のクスクスをヨーコと二人でシェアして食べる。本来、クスクスはアラブ料理だが、アラブとの交流の要所だったシチリアでも郷土料理とされているようだ。米のように小さい山盛りパスタに魚介類のたくさん入ったスパイシーなスープがかかっている。暑さで食欲がなかったぼくは、ヨーコに無理やり食べさせられて一息つく。
ヨーコとは、いろいろな話をした。彼女には25才の婚約者がイギリスで待っていること。男は、イギリス人ではなく、日本人であること。ぼくが、たばこを吸う時に、左手で火をつけるのを見て、彼女が知り合う男の人はみんな左利きであることなどなどなど。
<彼女はいる?>
彼女の質問に、
<いつでも、片思いなんだ>
と答えるぼく。
そんな時、いつも恋を諦めるのかという彼女の問いに、酒を飲んで忘れるよと答える。彼女も失恋の経験があるらしい。グラスなみなみについだウィスキーを一気飲みして、ひどい目にあったと彼女は言った。
<こんな可愛い人を振るなんて、馬鹿な男もいるもんだ。>
ぼくは、外国に飛び出してくる前に、いろいろあったであろう彼女の人生に思いをめぐらせ、そして、その男に猛烈なジェラシーを感じていた。

彼女の前ボタンの水色のワンピース。どこかで見たことがあるような気がしていたが、それが、悪夢の中で現れたものかもしれないとぼくはふと思った。あの悪夢はいったい何を暗示しているのだろう。ひどく、気になってぼくは彼女に質問した。
「ヨーコさん。どうしても聞きたいことがあるんだけど。」
「なあに?なんでも聞いていいわよ?」
「えーと。あの・・・」
「なによ、はっきり言いなさいよ。」
「怒らないで聞いてくれる?」
「怒らないって。」
「あの、下着の色。なに?」
「え?。わたしの?」
「・・・」
「きょうはベージュよ。」
「そうか。よかった。」
「なによ。」
ぼくは安心した。ぼくがホテルで見た悪夢は、でたらめなのだ。ぼくは、正夢を見た経験などないと記憶する。悪夢のあの部屋で見た下着の色は、白だったはず。つまり、ぼくが見た夢は現実とは異なっている。だから、見た夢は予知ではないし、第一、夢で見たようなあれほどの惨事は現実には滅多に起こるはずもない。
ぼくは、なんだか安心してうれしくなった。デジャヴと予知はまったく異なる現象である。よく、飛行機に乗る前の晩に飛行機が墜落する夢を見て、搭乗を取り止めて命拾いをしたなどの話を聞くが、これは予知でありデジャヴとは異なる。予知は、科学的に説明がまったくできないオカルトの世界の話である。
一方、たとえば生まれて初めて入った部屋で、過去に来たことがあると感じるそれでは、その隣の部屋を様子を知ることは無い。現象の説明はともかく、予知とデジャヴは、その感受のメカニズムがまったく異なる。


小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-06 18:59:07 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

15.水色のワンピース
「大丈夫?また、うなされていたわよ」
前ボタンの水色のワンピースを着たヨーコが、ベッドに腰をかけ心配そうにぼくを見ていた。ぼくは、ホテルのダブルベッドの上で寝ていた。窓からは、シチリアの陽光が差し込んでいる。時計を見ると昼過ぎだった。
「あー夢か!」
ぼくは、なんとも嫌な悪夢の残滓にやりきれない思いを募らせていた。夢の名残のせいか、体中に痛みを感じるような気がする。寝違えでもしたのだろうか。手首を見ると、やや赤くはれているようにも見える。
<どんな夢を見てたの?>
ヨーコの質問に<落下する夢>と答える。本当の夢の内容は、言うにはあまりにもひどすぎた。
<落っこちる夢って、何かを失ったりすることへの不安や恐れの現れじゃなかった?>
<フロイトにしろ、ユングにしろ、きょう日、夢判断を信じる人はいないっすよ>

中国の想像上の動物の獏は、形は熊に似、鼻は象の如く、目は犀の如く、尾は牛の如くで、頭小さく、人の悪夢を食らうと言う。其の皮を敷き、或いは絵に描いて持てば邪気を避けるらしい。ぼく心に住み着き、さきの悪夢を食らえば食べきれないほどの量かもしれない。夢は白黒と言われていたように思うが、先ほどの悪夢は、血の色が妙に印象的なフルカラーだった。普段、夢を見ないか見てもすぐに忘れてしまうが、よっぽどタカオカの言っていたダルマの話が強烈に心に焼きついていたのだろうか、妙に辻褄が合った長い長い夢に不思議な感覚を覚えていた。ヨーコが目の前にいる今と、さっきの悲惨な悪夢とどっちが現実なんだかしばらく混乱していたのだ。夢は実体験を元に見るものと思っていたが、一度も体験した事の無い未体験の事まで見るのであろう。いつしか見たスプラッタ映画などリアルな映像により、未経験の体験まで自分の体験として記憶してしまっているのであろうか。

「ほかの皆は?」
聞くと、タカオカとニシザキとアヤカはバスでタオルミーナに出かけたらしい。洗濯物がたまっていたヨーコは、でかけずにホテルで洗濯。
「心配だったんだから・・・」
ヨーコは言う。今朝、タカオカとニシザキに案内されてホテルへ到着した彼女は、彼女達の部屋のはずのダブルベッドで寝ているぼくを見て、しかも、あまりにもうなされているので心配になったらしい。
「ありがとう」
ぼくは、朝、部屋にチェックインするや、ベッドで眠りこけてしまったようだ。そうか、ホテルから一歩も外に出ていないのか。ぼくは、平穏な現実に今いることに感謝の気持ちで一杯だった。
「洗濯物があったら一緒に洗濯して上げるわよ。ただ、バスルームに干してある下着は見ないでね。」
ヨーコが言う。
「いいよ。それよりお腹が空いた。どっか食べに行こう。」
「いいわよ。何が食べたい?」
「チーズとスパゲティ以外」
「変な人」
ヨーコが答える。結局、ぼく等は、メッシーナの町の市場めざして、ぶらぶら市内見物をすることにして出かけた。


小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-05 19:44:52 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
14.てめえ!殺す!
アヤカは、車から降りたぼくを指差し、ドイツ語でなにやら騒いでいる。アヤカが手錠などで拘束されていないことを不思議に思いながら、ぼくは警官達に取り囲まれ肩を掴まれて建物の中に入った。歩いている間中、なおもアヤカがドイツ語でわめき散らしている。ヤツが何を言っているのか全くわからない。と、そのときになって、ぼくはアヤカがわめいている猟奇殺人の容疑者になっていることに気がついた。どうやら、アヤカはぼくが犯人だと訴えている様子なのだ。
最初の内は、アヤカが何を言おうが、ぼくは被害者なのだから少し調べれば何が起こったのかはっきりするだろうと思っていた。しかし、冷静になって考えると、いま、ぼくには自分の無実を証明するものがなんにも無いことに気づいた。明確な証拠となるべきビデオテープは、いまごろ、ゴミ回収車が回収した後であろう。しかも、ぼくは凶器となったナイフと包丁を隠滅している。ただし、逆に言えば、ぼくが殺人を犯したという明確な証拠も無い。
アヤカが、なおも声高にぼくを指差してわめき続けている。ぼくを犯人にして、アイツにどんな利益があると言うのだ。そこで、ぼくは気づいた。みなに頼まれてホテルへ荷物をとりに戻ったアヤカは、ヤルダの家で一人だけ早めに寝たことから惨事を逃れた。朝、起きたらみんなが惨殺されていた。猟奇的な殺人の犯人は、このぼくである・・・。こう主張することで、ヤツらの犯行を隠せるし、ぼく一人に罪を着せる事ができる・・・。アイツの狙いがわかった時、ぼくは逆上していた。
「てめえ。ふざけるな!」
アヤカに掴みかかったぼくは、うしろの若いカラビニェリに取り押さえられる。なおも、あばれるぼくは大勢の警官に押さえ込まれ、身動きできない。
「やめろ!」
無我夢中でもがいたぼくは、そこで目がさめた。目の前に、心配そうな顔で覗き込むヨーコがいた。

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-04 19:41:10 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

13.二人のカラビニエリ
ホテルの玄関ドアを押してフロントに行くと、昨日フロントをやっていた男がいた。いつ見ても同じ男なので、ひょっとしたら、このホテルのオーナー兼フロント係なのかもしれない。フロントデスクでペーパーブックに目を落としていた男は、全身血だらけでパンツ一丁のぼくの姿を見てぎょっとしたようだ。
<大丈夫か?>
と声を掛けてくる。
<OK。大丈夫。部屋をチェックアウトしたいんだけど・・・>
ぼくの返事に、フロントの男は怪訝な顔をした。
<夕べ、あなた達のグループの一人の女性が、みんな別のところに泊まることになったと言ってチェックアウトしていったが・・・>
フロントの男によると、夕べ11時頃にアヤカがフロントに来て、<食事を招待された男のところにみんな泊まることにしたので、みんなの洗面道具などの身の回りの荷物を持って行きたい。ほかの荷物は明日本人が取りに来る>と言って、いくつかの荷物を持って行ったとのこと。念のため、連絡先の電話番号のメモも置いていったらしい。部屋に通されると、ぼくは自分の荷物を確かめた。案の定、金目のものはすべて盗られている。
どういうことなのだろう。フロントの男は嘘をついているようには見えない。本気で心配してくれている様子である。<このフロントの男も、一味の仲間?> ぼくは、そう考えて、すぐに打ち消した。
このホテルは、昨日の朝、ぼくも歩いて探した。だから、このホテルに勤めるこの男が一味である可能性は低い。とすれば、アヤカが一味か?そう言えば、みんなの反対を押し切ってあの家で食事をすることを強く主張していた。とすれば、すべてがローマでアヤカと出会った時から仕組まれた罠だったのだ。ぼくらは、やつらが仕掛けたくもの巣のような罠に、能天気に絡め取られて行ったのだ。ぼくは、覚悟を決めた。ヤツらと戦ってやる。敵の正体を暴いてやる。

<実は、トラブルに巻き込まれてしまった。昨晩、あの男の家で殺人があったんだ>
ぼくは、部屋のドアのところにたたずんでいたフロントの男を振り返り、警察に連絡してくれるよう頼んだ。フロントの男は、洗面所のタオルを取ってぼくに渡すと、部屋の受話器をとりあげ警察に電話を始めた。電話の相手にイタリア語で手短に話すと、受話器を置いた。警察は早朝なのに、すぐに来てくれるらしい。
洗面所の鏡の中に、異様にやつれて青白い顔をした自分の姿が映っている。ぼくは、とりあえず、タオルを濡らして体中にこびりついた血をふき取った。手首から、まだ血がにじんできたが、フロントの男が持ってきた包帯で止血をした。手首の傷は、ざっくり骨まで行っているようで、白い肉片が覗いていた。自分の荷物をひっくり返し、残っていた衣類を身につける。そうしている内にサイレンが聞こえ、薄いモスグレーの上着に斜にかけた白いベルト濃紺に、濃紺に赤い線などが入っているズボンの制服をきた2人のカラビニエリがやってきた。腰からぶら下げた警棒を携帯している。ときどき、フロントの男の通訳の助けを借りながら、ぼくは彼等に昨晩起こったことを掻い摘んで英語で説明した。殺人(murder)ということで、話を聞いていた2人のカラビニェリに緊張が走る。話をしているうちに、警官のトランシーバーに無線がはいった。無線機に耳を傾けていた警官が言った。
「本署に来てくれ」
鼻の下に髭を生やした年配の方のカラビニェリは、ぼくの怪我を心配したものの、警察署まで来てくれと言う。警官とともに、ぼくはアルファロメオ155のパトカーの後部座席に乗り込んだ。車の性能がいいのか、単に運転が乱暴なのかわからないが、体がシートにめりこむほどの加速をつけてパトカーは走りだした。赤信号も交差点も、赤灯をまわしながら猛スピードでメッシーナの街を通り抜ける。
・・・いったい、どうなっているんだ。ぼくは不安になった。いったい、どこへ連れて行こうとしているか。ぼくの不安を知ってか、もう一人の若いカラビニェリが猫なで声で話しかけてきた。
<おまえは、イタリアへ何しに来たんだ?>
 ぼくは、放心しながら答えた。
<Trip (旅行)>
 すると、今度はこう言ってくる。
<日本のどこに住んでいるんだ?>
「・・・・」
 ぼくの不安をよそに、相手はさらに質問を重ねてくる。
<Tokyoは、ホンシュウにあるけど……他の島は何ていうんだ?>
職務質問だったのだろうか、あいまいに返事をしているうちに、パトカーは、駅前の一方通行の道をぶっ飛ばして警察署(Questura)らしき所に到着した。
パトカーを降りると、建物の中から偉そうな人が出てくる。10人近い署員が、ワイワイガヤガヤ言いながらぼくらを迎える。その中に、アヤカがいた。