tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-22 20:34:46 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
12.白い下着
へたへた崩れ落ちたぼくは、どれくらいの時間そうしていたのだろう。しんと静まり返った家の中で、ぼくはゆるゆる立ち上がった。どこかにいるかもしれないやつらの仲間がやってこないうちに、ぼくはこの家から逃げだそうと思った。やつらが犯行をビデオで撮っていたのは、「犯行の場面を撮影して売るのが目的」としか考えられない。きっと、ビデオの売買ルートにはマフィアの組織かなんかがあるに違いない。ただ、逃げる前に、死んだヨーコに別れを告げたかった。彼女の死体が警察に発見されるにせよ、地下組織に処分されるにせよ、ヨーコの裸を人の目にさらしたくなかった。ぼくは、階段をノロノロあがった。階段には、さっきは気づかなかったが、誰のかわからない人間の切断された足が転がっている。みんな殺されてしまったんだ。2階の寝室に戻ると、ベッドに全裸で横たわるヨーコの体に、ベッドの下に丸めてあった毛布を広げてかける。ヨーコは眠るようにして、ベッドにいた。ギリシアの大理石の彫像を思わせるような真白い肌。下腹部に大きく開けられた傷口と、切断された腕が無ければ、まるで何事もなかったように見える。青白く見える顔つきが安らかなのは、致命傷に至る前に気を失ったためかもしれない。ヨーコの体は、まだ、ずいぶんと温かみを残しているように思えた。
床に転がっている血だらけのビデオカメラを拾い上げた。ぼくは、中に入っているテープをとりだした。このテープを持ち出せば、ぼくが此処にいたことは誰にも知られまい。念のため、肉切り包丁を拾い上げ、片隅に脱ぎ捨ててあった女性の水色のワンピースに包んだ。見ると、女性用の白いレースの下着もそばに落ちている。ぼくは、1階に降りると、ヤルダの胸からナイフを抜きとり、これも肉切り包丁とともにワンピースに包んだ。ヤルダは完全に息絶えていた。
家のドアをあけると、外は白み始めていた。また、猛烈な暑さの一日が始まる。体中の痛みをこらえて、ぼくは夜明け間近の外へ一歩、足を踏み出した。庭で寝ていたシベリアンハスキーが、物音を聞きつけて、うなり声をあげながら近づいてくる。薄暗闇のなかで、犬の銀色の目が怒りに燃えて光っている。ぼくは、その目をにらみつけていた。かみついて来るなら来い。ぼくは、脇に抱えていた肉切り包丁の柄を握り締めた。一歩、前に出る。ぼくの進んだ分だけ、シベリアンハスキーはうなり声をあげながら後ずさりをする。距離は変わらない。木戸にたどり着いたぼくは、シベリアンハスキーを睨み付けていた視線をふとはずした。犬も、それを見てうなり声を止める。木戸を開けるとシベリアンハスキーは、こっちを警戒しながらもとの寝床に戻っていった。
外に出て、ぼくは全身が血だらけであることに気づいた。これで町をあるけば、警察がすぐに駆けつけてくる。できれば、人知られずにシチリアから出て行きたかった。警察に捕まったら最後、ぼくの氏名や国籍などが漏れて、一生、どこかの地下組織に命を狙われることになるかもしれない。ぼくは、着ていた血だらけのテーシャツとチノパンを脱ぐと、チェックのトランクス一丁になった。腹に巻いていた、パスポートが入ったウエストバッグはそのままに。この街では、そうした格好で若者達が良く歩いていた。
街角のゴミ置き場で、ビデオカセットのプラスチックを半分にぶち折って録画テープを引き出すと、グジャグジャに丸めて脱いだテーシャツとチノパンに包んで捨てた。ワンピースに包んだ肉切り包丁とナイフは、置いてあったゴミの詰まったダンボールの中に入れて隠す。これで、ぼくがあそこにいた証拠はどこにも残らないはず。そして、ぼくはややもすると意識を失ってしまいそうになりながらも、ホテルまでの早朝の道のりをなんとか帰っていった。

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-21 20:24:43 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
11.闇の中
その時だった。
チョウがダイニングの扉を開けて中に入ってきた。手に何かをぶら下げていたが、それはマネキンの首に見えた。チョウはぼくを見ると、うれしそうに奇妙な笑い声を発しながら近づいてくる。ぼくはこの事態が飲み込めず、茫然自失になっていた。チョウは手に持っていたマネキンの首をぼくに投げつけてきた。床にころがったそれを見ると、それは目を固く閉じたタカオカの生首だった。首の切り口のところから、血がしたたっている。驚いてへたり込んだぼくを見て、またチョウは甲高い奇妙な声で笑うと、ドイツ語でなにやら言ってくる。おもむろに腹にチョウからけりを食らい、ぼくは悶絶した。息がまったくできなくなってしまった。倒れたぼくの背中をチョウはさらにけりつけてくる。チョウは身動きができないぼくを肩に担ぎ上げると、ダイニングを出て二階につながる階段を上り始めた。必死で抵抗を試みるが、手足を縛られているので逃げられない。階段を上りきったすぐの部屋にぼくは運び込まれた。チョウは担いでいたぼくをベッドに投げ下ろす。投げ下ろされた時、ぼくの背中にベッドの上にあった、なにか柔らかいものがあたった。横を見るとシャワーカーテンを敷いたベッドの上には無残な姿のヨーコがいた。もう、息絶えているようで、ピクとも動かない。彼女の真っ白い全裸の体がそこにあった。腕を切断されて、敷かれたシャワーカーテンの上には血だまりができている。ぼくは、彼女の血だまりの感触を背中に感じて、ようやく事態を飲み込むことができた。ぼくは殺される。
そばで、一部始終をビデオカメラで撮影していたヤルダが、ニタニタ笑いながら近寄ってくる。チョウは、ぼくをうつぶせにすると、後ろ手に縛ったぼくの手を広げ、指をつかむとそれをねじ上げた。
指が折れそうな激痛が全身を貫いた。チョウは、片手で床に落ちていたペンチを拾い上げると、掴んでいたぼくの指にペンチの刃を押し当てた。そして、徐々に力を入れていく。
指先に激痛が再度走り、ぼくの喉から悲鳴が漏れていた。殺される。
ぼくは、ありったけの力を振り絞り、体を回転させ、仰向けになった。チョウの興奮して赤黒くふくれあがった顔が目に入る。その顔は、ケタケタ奇妙な声をあげながら、なおも笑っていた。
ぼくは、体をはねて、ありったけの力でチョウの顔に頭突きを食らわせた。額に強い衝撃が走り、見事にチョウの顔面にヒットした。その勢いで、チョウは後ろに吹っ飛んだ。鼻を抑えて起き上がるチョウ。すぐさま鼻血が吹き出てきて、チョウの顔は真っ赤になった。
ベッドの上の血で、ぼくを後ろ手に縛っていたロープが緩みだしていた。立ち上がったぼくは、ベッドの上に放り出してあった大きな肉切り包丁をめがけて、縛られた後ろ手を体ごとぶつけていった。ざっくりと手首が切れた感触があったが、手を縛っていたロープが切れた。
肉切り包丁をぼくは掴むと、足のロープを切った。切った手首から、おびただしい血が吹き出ている。
肉切り包丁を手にしたぼくを見て、チョウは、血だらけの顔で笑いながらなおも近づいてきた。手には、ナイフが握られている。ぼくは無我夢中で肉切り包丁を手に持つと、腰だめにしてチョウにぶちあたっていった。どうせ死ぬのなら、せめてこいつも一緒に地獄へ落としてやる。
包丁の先に、チョウの腹部のいやな感触があった。みると包丁は根元までチョウの腹に突き刺さっていた。ぼくは、ひざでチョウをひざでけりながら、包丁を引き抜いた。チョウは、自分の腹の傷のところからでてくる内臓を信じられないと言った目で見ている。
そのとき、ヤルダがビデオカメラを手に殴りかかってきた。額に衝撃があり、ぼくは崩れ落ちた。顔面をねらって、蹴ってきたその足を包丁で振り払った。包丁はヤルダの軸足のかかとにざっくりとささったが、ぼくは肩口をけられたショックで包丁を手から離してしまった。
ヤルダがもんどり打って床に倒れると同時に、這って部屋のドアに逃げ出した。
チョウがナイフを手に迫ってくる。ぼくは、跳ね起きると、ナイフを持ったチョウの手めがけて、思いっきり蹴りを入れた。ナイフがけし飛んで、チョウの腹に蹴りが入った。また、チョウの傷口から、血とともにグロテスクな色の内臓がはみ出てくる。ぼくは、床に転がったナイフを手にすると、チョウの喉を突き立てた。チョウが首を押さえるが、喉からは血が噴出すとともに、空気が漏れてシュウシュウ音がする。
ぼくは、這って部屋を出て行こうとするヤルダを追った。階段を転がり落ちたヤルダに追いつくと、背中から心臓をめがけてナイフを突き立てた。鈍い感触があり、ナイフは跳ね返された。ヤルダは意味不明の言葉で悲鳴をあげている。ぼくは、もう1度、同じ場所にナイフを突き立てた。今度は、根元までナイフの刃がめり込み、ヤルダは大きな声でうめくと動かなくなった。

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-20 20:30:19 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
10.混濁した意識の中で
ふと、気がついて時計を見るともう夜の11時。テーブルでは、タカオカとニシザキが酔いつぶれ、居眠りを始めている。アヤカの姿は見えない。ヨーコがチョウとヤルダに囲まれて、談笑している。しかし、ヨーコもかなり辛そうにしている。睡魔をこらえながら彼等の様子を見ていたが、2~3秒意識が飛んでしまいそうになる。そろそろ帰ろうよと言ったつもりだが、眠すぎて体が言うことをきかない。そのうち、ぼくは睡魔に支配され、急速に意識を失っていく自分がわかった。
再び、朦朧としているが、まわりの状況がわずかにわかるほどに意識が戻ったときは、ぼくはダイニングに置いてあったソファーの上に寝かされていた。しまった、寝込んでしまったと慌てたが、体がしびれて動かない。焦点のなかなか合わない目を見開いて周りを見渡すも、かろうじてわかったのはまわりには誰もいないことだけだった。体を起こそうとして、ぼくは手足に全く力の入らないことに気づいた。なにかがおかしい。混濁した意識の中で、ぼくはとりあえず何かできることがないかを探った。部屋の天井を通して、おそらく直上の部屋であろう2階から、だれか女性の悲鳴が聞こえる。そして、床を踏み鳴らす物音。くぐもった話声。何か良からぬ事態が発生しているようだ。
自分の指先に意識を集中してみる。左手の人差し指を動かすイメージを必死に脳内で作り上げる。かすかに指先が反応しそうな感触が返ってくる。ゆっくり、ゆっくりと人差し指を動かす努力を続ける。指の反応がだんだん大きくなってくるのがわかった。人差し指の動きにあわせて、左手の指全体が徐々にではあるが動かせられるようになってきた。手のひらを握り締められるようになって、ぼくは気づいた。ぼくは両手首を後ろ手で縛られている。足もなんとか持ち上げるまで動かせるようになったが、足首も何かで縛り上げられているようである。
2階から聞こえていた物音は、大きな悲鳴とともに急に途絶えた。その後、床の上を歩き回っているらしい足音が時より聞こえてくる。
ぼくは、ソファーに腰掛けて立ち上がる努力をした。ソファーの上の腰をずらすと、両足が床の上に落ちた。そこから、ひざを曲げて立ち上がる体勢まで持っていく。なんとか上半身を起こして、ソファーに腰掛けた状態になることができた。ここから、上体をさらに前にかがませて、立ち上がる準備をする。時間がかかったが、なんとか立ち上がることができた。寝ているのと、立ち上がったのでは精神的にずいぶん違う。視野が高くなった分、気持ちが前向きになる。なんとか、事態に対処するため頑張ってみようと。

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-18 19:59:40 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
9.不思議な地点
遠い昔、シチリアはギリシアの植民地として栄えた。その後、紀元前3世紀にカルタゴと覇権を争って勝利を収めたローマ帝国に統治された。476年に西ローマ帝国が崩壊した後、ヴァンダル王国、オドアケル王国、東ゴート王国、ビザンティン帝国と次々に支配者を替え、9世紀にはイスラム(サラセン)帝国の制圧下に置かれた。それがこの島に東方の優れた学問や芸術をもたらすことになる。かの有名なアルキメデスは、シチリアのシラクサの輩出である。
さらに11世紀になるとノルマン人が支配するようになり、12世紀末には神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世が妻の縁(彼の妻はシチリア王女だった)で、島の領有権を主張して強引に版図に組み入れて、シチリアは黄金時代を迎える。なんともめまぐるしい。ゲーテにとってシチリアは、ヨーロッパではなく、アジアやアフリカを意味しており、「世界史のかくも多くの活動半径がそこに向けられているこの不思議な地点」と言っている。
施政者の交代はその後も続く。この島がたどったこの特異な歴史の道のりは、各時代のそれぞれ異なる民族が遺した文化遺産をみれば理解できる。例えば、古代ギリシアの野外劇場、ビザンチンモザイクで飾られた黄金色の礼拝堂、アラベスク風の装飾の赤いドーム、あるいはイスラムとノルマンの折衷様式(アラブ・ノルマン様式)のパレルモの大聖堂などの考古学的に重要な遺跡や美術的価値の高い教会建造物が、日本でいえば四国ほどの大きさのこの島に一堂に会している。
また、シチリアが「地中海の十字路」と呼ばれるのは、前述したように古代より幾多の民族が植民支配を重ね、その結果としてさまざまな文化の香りが漂うからであるけれども、その歴史を反映してシチリア独特の食事文化も発展している。「食べる時は扉を閉めろ。話す時は後ろを見よ」という、シチリアの諺がある。フランスやスペインの支配下にあった時、島民に重税を課し、反乱を避けるために密偵を放された時代の島民の知恵で、値段の安い茄子、鰯、パスタなどを使った料理がたくさん生まれたのだ。

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-15 20:59:43 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
8.イタリア流
男の家を目指して、大通りをみんなで歩いていくと、次第に道路を行く自動車の喧噪がひどくなってきた。車が数珠つなぎになって、その渋滞の車がみなクラクションを鳴らし続けているのだ。もう、夜の8時で、通勤ラッシュには時間帯が合わない。どうやらこの渋滞は、突発的なアクシデントがあって市内の交通路が一部止められたためらしい。この国では、クラクションはエンジンの次に必要な車のパーツのようだ。これがイタリア流。男の家は、駅と反対側でカイローリ広場かさらに広い通り沿いに北西へ20分ほど歩いた住宅街にあった。
そのあたりの住宅は高さ2メートルぐらいの白い壁の塀で囲われて、塀には赤い小さな木戸がついている。木戸をあけるとぶどうの木などを片隅に植えた土の庭があり、大きなシベリアンハスキーがぼくらを出迎えた。夏の南イタリアに、シベリアンハスキーは気温が高すぎてかわいそうな気もする。きっと、日本と同様に、イタリアでもオオカミみたいな犬が流行った時期があったのだろう。ただ、夜の薄暗い庭で、銀色の目を光らせているオオカミ犬の姿は少し恐い。
男の家は、この夏の間借りている1軒屋であった。家具はほとんどない。こんな家の借り賃がいくらぐらいするのか想像もつかないが、どうやらヤルダに対してジプシーみたいな印象を受けたのは間違っていたようだ。少なくとも、家賃を払えるだけのお金はあるようだ。ヤルダは、やはりドイツ語を話す40代の中国人の男とその家をシェアしていた。家の中に入ると、チョウと名乗る背の高いその中国人が出てきて挨拶をする。
一般に、イタリアの家の室内は意外と暗い。ホテルでも小さな白熱電球や間接照明が彼らの好みである。活動はもっぱら外で開放的にというイタリア人、家の中はゆったりと休んだり物事を考えたりするところなのだろう。ぼくらはダイニングに置かれた広いテーブルに案内され、用意してあった発泡性ワインとチップスで乾杯をした。グラスの数が足らないらしく、ワインを小さなコーヒーカップで飲むことになったが・・・。ドイツ語がわからないぼくらは、アヤカの通訳が頼りだった。したがって、アヤカが会話の中心にいつもいた。なかなか会話に参加できないぼくらは、アヤカとヤルダとチョウの3人の会話をだまって聞いているしかない。逆に、こうなると、何かいたたまれないものを感じてしまう。だから、ぼくは家族の会話なんかに興味がない長男、のような感じで、会話に加わりたいけれども加われない、そんな様子でずっといた。そんなぼくらを気にしてか、時折、ヤルダが英語で話しかけてくる。しかし、ドイツ語なまりはひどくて、なかなか話が通じない。それでも、ヨーコは多少なりとも理解できるらしく、会話が成立している様子である。だから、たまに会話に参加できるのは、この時だけ。
ただし、こんな初対面での会話にはパターンがある。これまでヨーロッパを回って、しょっちゅう質問されてきた事柄は、ベストファイブをあげれば次のとおりである。
1.来たのは旅行で?ビジネスで?
2.ヨーロッパに来てどれぐらい?
3.どこの国の料理が好き?
4.日本のどこから?
  (もっとも、彼等はTokyoしかしらないが・・・)
5.カンフーは得意?
また、社交辞令ではなく、個人的に興味を持たれた場合は<何歳?何座?>のような質問が加わることもある。東洋人はひげが薄く、しかも髪の毛が多いせいで若く見えるようである。実際の年齢を言うと驚かれることがある。欧州では、若くして頭がはげる人が多い。そのせいか、ローマでは、酒に酔った若者達が、店のショーウィンドウに飾られていた男性用のかつらを見て大声で騒いでいたのを見た。彼等にとって髪の毛が薄くなることは、意外に大きな問題なのかもしれない。
ヤルダとチョウからの質問も、大体こんな感じであった。彼等からすれば、ぼくらに対する興味よりも、むしろ会話のためのネタなのだろう。途中、アヤカとヨーコが手伝って、食事を運んでくる。晩餐は、チーズと生ハムの前菜、パスタ、それと恐らく街中の惣菜屋で買ったのであろうプラスチックの容器に入った牛肉のトマト煮と進んだ。アヤカが頑張って通訳するが、話好きのチョウの会話スピードには到底追いつかない。
「シチリ島の見所はどこ?」と質問すると、チョウは笑いながら指を立てて左右にチッチッとふり、「ノー」の身振りをする。ヤルダとドイツ語のやり取りがあって、しかし、結論らしきものはなし。
この時出された料理はどれも美味しかった。とくに、前菜のモッツァレラは、一口食べると乳の甘い香りが口の中全体に広がった。生まれてこのかた食べたなかで、もっとも美味な乳製品だったと思う。