遠き昔より、「耕して天に至る」と形容されてきた「遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑」。「急斜面に石垣を積み上げて作られた階段状の畑地は、眼前に広がる宇和海の美しさもあいまってまさに絶景。「日本農村百景」に、また2007年7月には全国で3例目の「国の重要文化的景観」に選定されました。」HPより
「耕して天に至る」・・・このフレーズに心を鷲づかみにされた私たちは、宇和島での外せない立ち寄り地として、この場所を選びました。
「魚見の丘」から見下ろす「水荷浦湾」。海の向こうに見る山肌の白さに??と思いながらも、まだこの時点では、噂の絶景を見られるという期待感で一杯でした。
ですが実際に現地について駐車場から見えた景色は・・・あの白い山肌の正体を知ったときの衝撃は・・・・
私たちは言葉を失い、しばらくは息をするのさえ憚られるほど、ただ黙ってその場に立ち尽くしていました。
これを段々畑と呼んで良い物なのか・・高さ1メートルほどの石垣は、はるか山頂まで続き、もっと驚愕なのはその山頂部分が目視できると言う事実。それは取りも直さず、切り立った急斜面であることの証。
観光案内のページには「歴史の重みと、壮観な造形の美に圧倒される」とありました。私たちもネットでここの写真を見たとき、単純に「凄い!」と思ってやって来たのです。
けれども、これを「造形の美」と呼ぶには、あまりにもその状況が過酷過ぎて、言葉が出ないのです。腕を伸ばして、たったこれだけの幅しかない畑を耕し、さらに耕地を求めて上に上にと石垣を築きあげてゆく。
海辺に面した集落では、おそらく男衆は漁に出ていた筈。それではこの畑を耕してきたのは家に残る女・子供・・・生きていく糧の助けとするべく耕されてきた段々畑。それでも・・これほどまでに急な山の斜面を切り拓かなければならなかった水荷浦の地形の厳しさ。
頂上付近で作業をしている人の姿が見えた時は、思わず声にならない声を飲み込み・・ 見上げている自分の体が小刻みに震え、足が竦み・・・思わずその場にしゃがみこんで動けなくなってしまいました。
頂上まで上る気力なんてとっくに消えうせ、ご亭主殿の後ろ姿に手招きされて下へ・・それでさえこんなに足裏がむず痒くなる光景なのに・・
観光案内にあるように、確かにこの光景は圧倒的な凄さを持って、私たちの心を鷲づかみにしました。見ていると、何故かポロポロと涙がこぼれて、そのまま我慢していると、声を上げて泣いてしまいそうになるほど・・。
「耕して天に至る」・・・この後に続くのは「以って貧なるを知るべし。」
身近に平地があるのなら、誰が好き好んで天に至る高さに畑を作るものか・・決して裕福ではなかった漁師の家に育った私にも、こんなに過酷な条件での暮らしは想像も出来なかった・・
それでも・・と、思い返します。こうして重要文化的景観となった事で、様々なものが生みだされ、それは間違いなくここの暮らしに反映される筈だと。
観光も含めて、この景観を守る為の様々な取り組みがなされていると聞きました。それはとりもなおさず、ここで生きてきた方たちの、財産となるべきもの。人々がそこに生きた証の遺産として、大切に守り残して欲しいと、心から願っています。
訪問日:2013年3月25日
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