今年の春闘は「経営側主導」と言ってもいいほど経営側が積極的です。経団連からは「賃上げは社会的責任」といった声まで聞こえてきます。
トヨタ自動車は、部品調達価格は来年にかけて上ってもOKというサインを出して、部品のサプライチェーン各段階の企業の賃金上昇での部品納入価格上昇を認めているという意向を公にしています。
これは、これまで納入価格引き下げが命だった下請け産業企業にはこの上ない朗報でしょう。そこで働く人たちの賃上げ期待は大きく膨らむでしょう。
組合側の自動車総連の部品・下請け企業は「(賃金上昇の)価格転嫁の波を業界全体に広げていくチャンス、その活動を活発にしているようです。
勿論こうした雰囲気は自動車産業だけでなく、日本中の産業企業に拡がって行く様相で、それには「公正取引委員会の賃金上昇の価格転嫁の指針」の発表も大きな支援になっているでしょう。
逆に従業員の方からは、「賃金が上がるのは嬉しいが、そんなに『上げる、上げる』で大丈夫ですか」といった意見があったりするようです。
こうした状況はまさに象徴的ですが、日本企業はこの所長い間コストカットが至上命題と考えていて、それが当たり前にようになっていたからでしょう。
こうした企業のコストカット意識と、政府の年金を含む将来不安発言が、日本の家計をして「消費を削って貯蓄が大事」という意識を一般化し長期にわたる消費不振によるデフレ経済を作って来ていたのです。
その結果がゼロ成長経済で「親の代より良い生活は出来ない」という意識の一般化という沈滞した日本社会でした。
一方、企業の方は、低コストによる国際競争力の強化や、増加した海外投資の収益で利益は比較的順調、それにこの所の円安が加わって、未曾有の高収益企業が続出という状態になり、物価の安い日本にインバウンド殺到といったオマケにもつながりました。
その結果、一部大企業にも「これは少しおかしい。賃上げの余力もあるし、従業員に元気を出してもらうためにも、少し賃上げをした方がいいのではないか」という意識が生まれたのが去年の春闘辺りからです。
そして、経団連からも「賃上げは社会的責任」という言葉が出ることになったのです。これは経営サイドとしても本来は当然で、生産活動の成果である付加価値(GDP/GNI)を将来の生産活動が安定した拡大再生産になるように労使で最適に分配するというのは「経営者の役割」というのが経営学の示す所なのです。
つまり、今年は経営側も気が付いて、日本経済が成長を取り戻すように「適切な労働分配に修正しよう」という特異な年ですから労使で大いに話し合って、積極的に賃上げをすることが、労使双方、日本経済にとって最も重要なことなのです。
以上が今春闘の課題、これからの健全な労使関係構築の試金石だとこのブログは考え、期待しています。