tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

1ドル100円では日本経済は厳しくなる

2016年07月08日 11時10分19秒 | 経済
1ドル100円では日本経済は厳しくなる
  変動相場制というのは、「制」などという字がついていますが、制度でもなんでもなく、経済活動の基準である通貨の価値を機関投資家などのマネーゲームのプレーヤーに勝手に決めさせる、責任者のいない放任状態です。

 以前から、通貨価値が勝手に変動する中で経営活動や経済活動をするのは、メートル原器が勝手に伸縮する中で構造物の設計や構築を行うようなもので、まともな状態ではないと書いてきました。

 1ドル120円あたりで落ち着いてくれるかと思っていた円レートが、この所の世界のごたごたで100円になりました。国際投機筋が「とりあえず円を買っておこう」と考えているからだそうです。

 日本の企業も、日本経済のかじ取りをする政府・日銀も、早速これに対応しなければなりません。
 具体的に言えば、日本の賃金を含むコストも、あらゆる物価も、一律に2割近く国際価格で高くなったということです。

 訪日客や日本商品爆買いにはたちどころに影響が出ます。多くの企業は、為替レートの変動を想定して、かなり堅実な経営姿勢をとってきていますが、$1=¥100は、どこの企業でも予想しなかった円高でしょう。

 輸入価格が下がる分は有利という人もいます。確かにそうです。しかしコストのウエイトを考えてみれば、輸入原材料などは、統計の取り方にもよりますが、せいぜいGDPの1割前後、これが安くなってもGDPの7割近い人件費の上昇のほうが、日本経済により大きなコスト高を齎すことは明らかです。

 当然企業は人件費の抑制に動くでしょう。いわゆる黒田バズーカの第2弾で日本経済が喜んだ分は帳消しになりました。今、企業は( たぶん労働組合も)、安倍さんにあおられて賃上げ、賃上げと浮かれないで良かったと考えているでしょう。

 日銀は、マイナス金利導入以来、効果が出るには多少時間はかかるが、効果は必ず出る、さらなる金融政策はまだまだ打てるといった発言でしたが、現実は国際投機資本の先読みされて、それ以来円高傾向が進んでいます。何か新兵器があるのならと思いますが、どうも無いようです。

 安倍政権の、アベノミクスのエンジンをさらに吹かしてという景気振興策も、1ドル100円という重しをぶら下げられては息切れ症状でしょう。
 これもこれまで書いてきていますが、金融政策、財政政策だけでは、今日の経済は動きそうにないのです。
 経済政策も、経済学も、役に立つ適切な道具を持っていない状態ではないでしょうか。

 選挙も終盤で、結果がどう出るかわかりませんが、本当の意味で 国民の声を聞き、国民の納得する政策がとれるように改めて考え直すことが、今の政府には要求されているようです。

 変化する環境の中で、トップの思い込みだけで進んで、社運を傾ける企業も散見される今日の経済社会です。
 国際社会という環境が大きく変化する中で、自画自賛のアベノミクスで突き進んで、日本の国運を傾かないようにするのは、政権の責任なのでしょうかそれとも、投票権を持つ日本国民の責任なのでしょうか。

日本は「普通の国」に堕すのか?

2016年07月07日 13時14分48秒 | 国際関係
日本は「普通の国」に堕すのか?
 文字にするのもつらいことですが、今回のバングラデシュの事件は多くの日本人の心を暗くしたようです。

 バングラデシュの発展のために、率先して献身していた人達が、何故にあのような運命を辿らなければならなかったのか。
 バングラデシュは親日的で、私の経験では、気持の優しい人々の国といった印象です。今回の報道の中でも、バングラデシュの人々が「申し訳ありません」とか「済みません」と言っているのを何度も聞きました。

 犯行はISの活動の一環ということですが、私の気持ちをまさに「暗澹と」させたのは、自分たちは「日本人だ」という発言が無視され「有志連合の一員」と決めつけられた様子が報道されたことです。
 マスコミ上では「日本人が狙われた」などというものまであります。

 「日本人だ」といった背景には、「日本人なら理解してもらえる」という意識があったはずです。その背後には「日本は戦争をしない国で、我々は、この国の役に立つために来ているのだ」と理解してもらえるのではないか、という気持ちがあったことは明らかです。
 しかし、今、ISの頭の中ではすでに「日本は敵」「戦争の相手国」という意識になってしまっているのでしょうか。

 アフガ二スタンで医療や灌漑・農業の進歩のために、正に献身している中村哲さんという方がおられます。その方は
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日本は、軍事力を用いない分野での貢献や援助を果たすべきなんです。現地で活動していると、力の虚しさ、というのがほんとうに身に沁みます。銃で押さえ込めば、銃で反撃されます。当たり前のことです。でも、ようやく流れ始めた用水路を、誰が破壊しますか。緑色に復活した農地に、誰が爆弾を撃ち込みたいと思いますか。それを造ったのが日本人だと分かれば、少し失われた親日感情はすぐに戻ってきます。それが、ほんとうの外交じゃないかと、僕は確信しているんですが。

武器など絶対に使用しないで、平和を具現化する。それが具体的な形として存在しているのが日本という国の平和憲法、9条ですよ。それを、現地の人たちも分かってくれているんです。だから、政府側も反政府側も、タリバンだって我々には手を出さない。むしろ、守ってくれているんです。9条があるから、海外ではこれまで絶対に銃を撃たなかった日本。それが、ほんとうの日本の強味なんですよ。
www.magazine9.jp/interv/tetsu/tetsu.phpより
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と言っておられます。銃を撃たない、武器輸出もしない日本という、世界に向けてのソフトパワーが日本を守ってくれているという意識は日本人のどこかにあるのではないでしょうか。
 それは、私の気持ちからすれば、争いの無かった縄文1万有余年の、日本人形成のプロセスが記憶された日本人の海馬の働きと共存しているように思われます。

 今、日本では、ソフトパワーに頼ることをやめ、ハードパワーを持つ国になるべきだとの考え方が台頭しています。かつてそれで大失敗したのに・・・。 
 それは「日本が普通の国になることだ」といった主張もあります。しかし日本は普通の国ではなかったのです。「私は日本人だ」という叫びにそれは明らかに表現されています。
 
 喧嘩があれば、その一方に加担するのがいいのでしょうか。
 日本には「喧嘩両成敗」という伝統があります。どちらが悪いというのではなく「両方が悪い」というのが公平だという知恵です。

 日本は争いのなかった縄文の原点、喧嘩両成敗という知恵、さらに和を以て貴しとなすの気持ちを具現した(100年先の世界を見た)誇るべきものを持った国で、「普通の国」に成り下がってはならないというのが、日本人の本当の気持ちなのではないでしょうか。

2パーセントインフレ目標は撤回を

2016年07月05日 13時57分20秒 | 経済
2パーセントインフレ目標は撤回を
 政府・日銀のインフレ目標「2パーセント」の達成が延び延びになり、このところの円高傾向で、日本経済の視野の先の先へと遠退いて来ています。
 現実に全く合わない目標はもう撤回して、物価についての新しい、より合理的な考え方をベースに目標を決め直すのはどうでしょうか。

 「インフレターゲット2%」などと政府・日銀が掲げ始めたころから、このブログでは疑問を呈してきました。
 もともとインフレターゲットというのは、インフレが高進しないように「低く抑える」ターゲットというのが常識です。
 
 しかも、2パーセントというのは如何なる インフレの定義によるのか明示されていません。消費税を上げれば物価は上がります。現に2014年には消費者物価は3パーセント上がりましたが、それは目標達成はならないとのことでした。
 ならば海外物価が上がって 輸入インフレで2パーセントを達成すればいいのかというとそれもダメでしょう。最近のように海外物価が下がって、物価が上がらないのはどうしましょう。さらに円高で物価が下がる可能性が大きいですが・・・。

 インフレには多様な種類(原因)があります。海外物価や、為替相場の変動による価格変動は日本経済にとっては与件で、国内政策ではどうにもなりません。
 国内政策で対応可能なのは 自家製インフレ(ホーム・メイド・インフレ)だけです。これは経験的にはほとんどの場合「賃金インフレ」で、生産性上昇を超える賃金上昇が原因です。

 「2パーセントインフレ目標」というのは、いわば腰だめで、「賃金も上がって物価も上がる」という状況が一般的になって、それが2%ぐらいになれば、国民が「景気がいい」と「感じるだろう」といった程度のものだったと思っています。
 しかし、今、物価は上がりません。世界経済の不振、資源価格の下押しでマイナスになったりしています。しかし自家製インフレに最も近い「コアコア」の消費者物価は、1%未満ですがプラスです。

 預金も国債も利息が付かず、年金の手取りは減っていく中です。物価が2%も上がったらたまりません。まずは物価の上がらないことを願うのが庶民の本音でしょう。
 消費者物価上昇は出来るだけ小さくて、経済が健全に成長するというのが、経済的にも経済学的にも理想でしょう。

 かつてそれに近い状況が日本でもありました、神武景気(昭和31~32年前後)で、その後岩戸、いざなぎ、いざなぎ越えと神話の名前の元祖です。戦後の超インフレ期のあとですが、昭和30年~34年の消費者物価上昇率は年平均1.3%、同期間の平均実質経済成長率は7.8%というパフォーマンスの良さで、当時は「数量景気」などと言われました。
 ちなみのその後の日本経済は自家製インフレ高進期に入り、それが、第一次オイルショックまで続きます。

  デフレは正常な経済メカニズムを破壊しますが、インフレも亢進すれば同じで、インフレはデフレより良いが、インフレ率は低いほどいい、ということでしょう。

 現状の1%未満のコアコア消費者物価上昇率などはベストの状態というべきで、その中で、経済成長を高め、金利もプラスの正常化を実現し、かつての数量景気を超え、経済や生活の質の向上よる実質成長をいかに実現するかという本格的な経済政策に日本人の持てる知恵を発揮する時が来ているように思います。

金融政策の副作用は金融政策では直らない

2016年07月04日 13時55分50秒 | 経済
金融政策の副作用は金融政策では直らない
 アベノミクスで日本経済は回復しているという政府の主張ですが、その背後で、金融政策は、ゼロ金利からマイナス金利へと不況時代の政策をますます進化させています。

 万年赤字国のアメリカですら、何とか金融を正常化して、まともな経済循環に戻そうと金融緩和策の終焉、テーパリングから金利引き上げに向けて困難な努力をしていますが、安倍政権も日銀も、異次元金融緩和を進めるだけで、金融正常化の可能性については全く触れていません。

 こうした政策の方向は、つまるところ、アベノミクスの成功は金融緩和によるところがほとんどだから、金融を正常化(引き締め方向)したら、忽ち不況に逆戻りするのではないかという恐れが政府・日銀にあるからでしょう。

 しかも、金利を引き上げたら、政府の国債の利払いは大変なことになって、財政再建などは夢のまた夢になったらどうしようということもあるのでしょうか。
 
 しかし、日本経済が、リーマンショックの緊急避難から脱出し、健全な成長軌道に乗ってきているというのであれば、いわば経済活動へのドーピングのようなゼロ・マイナス金利政策は出来るだけ早く終了していくためのシナリオを国民に示し、経済活動自体の正常化を目指すべきでしょう。

 アベノミクスの中では全く論じられていませんが、金融政策による経済の活性化は、必然的に格差の拡大を齎します。格差の拡大は、また、必然的に消費活動の萎縮を伴います。
 これは古い資本主義の中ではマルクスが指摘し、今の資本主義の中でもピケティが指摘している通りでしょう。

 そして、この問題を解決することは「金融政策では出来ない」ということも明らかでしょう。金融政策の副作用を金融政策で是正することは本来不可能なのでしょうから。

 前回も触れましたが、世界中で何か問題が発生するたびに、今回はイギリスのEU離脱問題ですが、折角、日銀の金融政策で実現した円安は、消されていく(円高進行)様相です。
 現状では、国際投機資本は$1=¥120円は円安に過ぎる、 もっと円高にしてしかるべきと考えているように感じられます。
 そうした環境の下では、ますます金融正常化などは政府として言い出せないことになるでしょう。

 このジレンマからの脱出のためには、これまでも繰り返し書いてきていますように、国民の将来不安を解消するための政策(政策というより 政府の態度という方がいいのかもしれません)が必要とされているのでしょう。

 「十分説明を尽くせば国民は解ってくれる」と安倍政権は言いますが、国民の意見を聞かず、自分の考えだけをいくら十分に説明してもそれは「洗脳」でしかありません。
 日本国民は賢明ですから、その辺は本能的な段階ですでに解ってしまうのでしょう。真の意味で「国民に寄り添う」政権の態度が必要なのではないでしょうか。


経済実態と合わない政策が問題では

2016年07月01日 12時50分49秒 | 経済
経済実態と合わない政策が問題では
 選挙戦たけなわですが、与党サイドのアベノミクス礼賛と、野党共闘の安全保障問題も争点に、という噛み合わない相対発言(対話にならない言いっ放し)が、マスコミでも街頭でも騒々しく響いています。

 アメリカの選挙戦でも、イギリスの国民投票でも、相手をけなす発言が多く聞かれ、先進国の市民や政治家の矜持はどこへ行ったと言いたいような、印象を受ける場面が往々見られましたが、そんな社会の退歩が日本でも感じられることは、大変残念です。

 ところで、この所の経済情勢ですが、ますます思わしくないような展開になっているようです。
 大きな問題は円高でしょう。$1=¥120でアベノミクスを謳歌した与党ですが、円安で起きる経済回復は、必然的に格差の拡大を伴います。
 円安というのは、国際的に見た日本人の賃金水準(日本経済の最大のコスト)を下げて、国際競争力をつけ、経済成長を実現しようということなのです。

 確かに大企業中心に企業収益は著増、自己資本比率を飛躍的に高めた企業も続出です。次は、そうした企業が生産性を上げ、賃金所得の上昇、消費も拡大して経済が全体的に底上げされるというのが順調な成長過程です。

 このプロセスはアベノミクスで言えば、第二の矢、第三の矢が担当するところですが、残念ながらこれが機能しませんでした。
 その最大の原因は「将来不安」でしょう。将来不安の原因は大きく2つあるように思います。
 その一つは、21世紀はアジアの世紀と言いながら、最大のプレーヤーである中国との関係が悪化し、「日米」対「中国」といった構図が出来てしまったことです。アジアの時代が、日米の時代に逆回転したようです。

 もう1つは、国内の将来不安です。最大は高齢化に対する過剰認識でしょう。高齢化はいずれにしても日本全体として対応しなければならない問題で、絶対に避けられません。ならば、国民が協力して 最も凌ぎ易い方法で、乗り切るしかないのです。

 そのためには国民が互いに協力し合わなければならないのですが、そのための手立てが、どうにも巧く出来なかったということでしょう。その原因として、安倍政権が対話が不得手(嫌い)ということもあるようです。
 円安政策の結果発生した格差社会化(実は失われた20年の中でも進行していた)を「是正しますよ」という納得できる明確な政策がなかったことは致命的です。

 国際的な風潮かもしれませんが、最近の政策の主なもの、法人税率の引き下げ、所得税の累進化の軽減、消費者物価2%上昇の目標設定、株価上昇での景気判断を助長、消費増税に使途の不明確と今回の延期、年金原資を株式市場で稼ぐ、非正規雇用の固定化、などなど。これらは格差社会化の増幅に役立つようです。

 国際的に見て、「割安」になった日本の賃金ですから、国際企業は当然日本国内の雇用を増やすでしょう。求人倍率の高さは、割安になった日本の雇用コスト(非正規労働者と新卒労働者)の反映です。そしてこれが、アベノミクスの成果として喧伝されています。

 今、改めて円安時代が終わる様相です。政府、日銀に1ドル=120円に戻す戦略はあるのでしょうか。
 日銀短観も停滞を示し、消費者物価はコアコアでも上昇はコンマ以下、財源のない高齢者・子育て対策、ゼロ金利でも貯蓄は増え消費性向は低下・・・・・、今回の選挙で国民の将来不安が少しでも軽減されるような結果を期待したいと思います。