収蔵庫
「過去物」と銘板を填め込んだ部屋にそれらは在る
絶え間なく消去されてゆく時間の中で
”その時”として残存させた過去たちが
所狭しと収納されている部屋
記憶として箇条書きできる生来のトピックスや
フラッシュバックして幾度となく甦る瞬間の数々まで
それは,当に膨大な数量なのだが
部屋は数センチ四方の広さも無い
必要不可欠な過去物の収蔵庫は
我が胸腔の不可視の空間に存在し
ほんの少しの重量も無い
完全無欠の個人所有物なのだ
それ故,他人には無価値
盗難の恐れも無い代物で
大層な錠前も取り付け不要
但し,自動取捨選択機能が作動し
どうも容積はほぼ一定のようなので
ココロの過重負担も無い
そうして,それらの遺物は
僕と伴に当たり前の様に自動消去されるから
誰の迷惑にもならない
誰にも迷惑を掛けない
特筆ものの極秘貯蔵庫なのだ
それは,自己の要請によってのみ開帳される秘物
特別拝観料無料の
過去物専用博物館でも在る