この8型の時計可愛いでしょ。スイスのCHRONOMETERですけど、ちょうどPEN-Sのフィルター径と同じぐらい。これらのジャンクは殆ど中の部品を抜かれていますが、欠品を追加して注油をしたところ調子よく動き出しました。合間を見てオーバーホールしてやろうと思います。で、きれいに管理されたPEN-S 2.8とPEN-D3が来ています。どちらもシャッター羽根の固着と粘りが発生していますが、基本的に同じ形式のシャッターですから原因は同一で、定期的なオーバーホールが必要なんですね。では、PEN-S #2659XXから作業を始めることに致します。
一見「きれいに管理された」と見える個体なのですが、じつはちょっと悩ましいのです。ダイカスト本体はかなり初期の仕様に見え、外観の黒塗装部分は自然乾燥塗料で塗装されています。また、ファインダーの対物レンズやミラーは新品か複製品でやり直されています。トップカバー#2659XXとシャッター「37.6」はう~ん、という気はしますが、まぁ、納得したとしてその頃の個体でファインダーをやり直す必要があるのだろうかという疑問を持ちます。一番納得出来ないのはターミナルのリード線が半田付けだということ。この頃はすでにネジ留め式になっている頃です。半田付けを使用したのは10万台も前半ですね。推理が困難な個体です。
この個体は、過去の修理で軸受けや画像のシャッター内部にまで、非常に重いグリスが塗布されています。このシャッターに軸受けと同じグリスを使用することは私はしませんよ。本来は、シュー下に記載の数字が製造時期を特定する手がかりとなるのですが、この個体は記載がありませんので推理を困難としています。拭き上げで消されたとしても、加工の挽目溝に入り込んだ赤鉛筆は消えないと思いますが、PENなどからの流用かも知れません。まぁ、あまり疑っていても仕事になりませんから、これからは完成させる努力をしますよ。
問題のシャッターユニットのハウジングですが、内部の黒いプレートはシャッター羽根と摺動する部分ですが、それを留めている皿ビスのスリ割りが壊れてプレート面より飛び出しています。これでは羽根と干渉してしまいます。工場での組立を見てもスリ割りを傷めているものもありますが、これは後の作業でしょうね。どうもこのハウジングはあやしいのです。
スプール軸を見るとね。ピントが甘いのではっきりとしませんが、じつはヤスリで削られています。駒数板の上に乗るキー付きワッシャーも取り去られています。そこまでして軸の飛び出し量を抑えたかったのでしょうね? 画像はありませんが、巻き戻しダイヤル部分のダイカストは変更前のものですから、当然巻き戻しダイヤル下には調整ワッシャが入るのですが、この個体には見当たりません。これらのことから、このトップカバーはこの本体のものではなくて、勘合が合わないところを加工により取り付けたのではないか? という気がしますが断定は出来ません。
その他、PEN-Sの場合は、レンズのヘリコイドねじの規格が二種類ありまして、初期のものはピッチが細かく、その後は粗いピッチになりますが、この個体のピッチは細かいのですねぇ。どういうことかな? ヘリコイドグリスが劣化して抜けてくると、前中期以降のピッチの粗い個体は距離ダイヤルの回転がスカスカに抜けやすいのですが、初期の個体ほど、意外にしっかりとしているのです。どちらが良いのやら、変更された理由を聞かないと分かりませんね。しかし、レリーズボタンのバネは初期の弱いタイプではなくて強く変更されたものになっていたりで、考えるとますます分からなくなる個体ですね。まぁ、工場を出たままの組み合わせでないことは、沢山の個体を見てきた私には一目で分かるのです。しかし、しっかりと機能していますので、これはこれで良いとも思います。
次はPEN-D3 #2141XXですが、こちらは何の疑問も無いと思いますよ。PEN-Sと同じようにシャッター羽根の開閉不良ですから、すべて分解洗浄の後に組立てて行きます。基本的にはPEN-Sと同じシャッターですが、1/500を実現するためにメインのスプリングが強化されています。ピンセットのスプリングはレリーズレバーのリターンスプリングです。このレバーの形状はPEN-Sとは変更されて細かな部品が追加されています。
で、こんな感じでシャッターユニットは完成しています。PEN-Sと異なり、シャッターの下に絞り機構を持つ二階建て構造ですから巨大なシャッターです。
この個体の電池室は従来の水銀電池ではなくてLR44などのボタン電池仕様となっていますね。電池室の外形に比べてスペーサー部分が大きいでしょ。しかし、先日オーバーホールをしました#2511XXは水銀電池仕様でした。先に生産された個体がボタン電池仕様というのは変ですか? 水銀電池の生産終了に伴ってメーカーSSではボタン電池が使えるようにメーカー改造を行っていたようですので、この個体は後天的に改造を施された個体かも知れませんね。水銀電池仕様をお持ちの方で、ボタン電池仕様に改造されたい方は右側の絶縁プレートを自作すれば良いと思いますね。
PEN-D2やD3を分解するたびに感じるのですが、矢印のように露出計のスイッチがボタンのセンターと随分ずれていますよね。左端に辛うじて掛かっている感じです。寸法的な制約かなぁ? とも思いますが、もう少し何とかならなかったものかと思います。米谷さんの設計は、他の機種でも、組立のドライバーが真っ直ぐに入らないとか、私が組立屋上がりなので感じるところが多々あります。
最後に駒数ガラスとメーターガラスが曇り気味でしたので研磨をして、ファインダー前面角の塗装はげをタッチアップをして完成です。