ご常連さんからハミルトンのミリタリーウォッチが来ました。リュウズの巻真が抜けてしまったとのこと。この時計はワンピースケースなので、巻真は前後でジョイントされているのでリュウズ側(後)は強く引っ張れば抜ける構造ですから問題ないのですが、前側も一緒に抜けています。と言うことは「オシドリ」が磨耗をしている可能性がありますね。まぁ、とりあえず機械を取り出しますが、ワンピースなので風防を絞って外します。セイコーのオープナーS-14では、丁度中間のサイズで使えませんのでこの工具を使います。しかし、文字盤と針の劣化が激しいです。
針は完全に表面が腐食しています。秒針はオリジナルでは無さそうです。このモデルは、523-8290 W10-6645-99で、イギリス陸軍のNATOで使われた個体のようです。↑はイギリス政府官給品。○にTは、夜光塗料に放射性物質のトリチウムが使用されている印だそうです。あまり触りたくないですね。
問題のオシドリと巻真(前)。それほど磨耗が進んでいるようにも見えませんけど、抜けたのは事実ですからね。どちらも新品部品の入手が出来ませんので再使用とするしか方法がありません。
で、すべて分解洗浄しました。この機械は、ハミルトンでは「649」ですが、スイスのETA Cal.2750です。
スペックは手巻きの17石で6振動です。香箱のフタの外周が削られていて組立で圧入をしても開いてしまいます。作動中に開いてしまうと地板と接触をして止まりの原因になります。少しずつ位置を変えて何とか止まるところを探します。しかし、なんで外周を削ったのだろう?? 意味が分かりません。
何度も分解を受けた機械で傷が多いです。ETAの機械は、ピンセット先の真鍮の部品でテンプの天輪を接触させて秒針停止をさせますが、すごく華奢な部品です。
分解前の測定で片振りが6以上とありえない調整がされていました。そこで仮に調整をしておきましたが、組立後ではかなりデータが異なります。ゼンマイは一杯に巻かれていないので振りは小さめ。完全に油切れだったようです。これから片振りと歩度を調整して行きます。
ほぼ調整を終えました。少しエージングをして様子を見ながら微調整を繰り返します。
片振りの修正から試みてこんな感じですかね? 平置き(文字盤上)でも殆どデータは変化しませんので、天真の磨耗は少ないようですね。
ケースも洗浄したおきます。一番下の数字は左側は個体番号で/右側は製造年1973年でしょうね。良く知らないけど・・
詳しいサイトを見ると、バネ棒部分ははめ殺しとなっていますが、この個体ではバネ棒です。良く観察すると、シャフトを打ち込んだ痕が残っていますね。と言うことは、通常のバネ棒式に改造されたってことかな?? 事の真偽は分かりません。
完成した機械をケーシングします。巻真はジョイント式なので角度を合わせて繋げます。風防はテンションリング付きですが、非防水のドーム風防とあまり変わりませんね。
ワンピースケースは防水性能を狙っているのでしょうけど、風防の構造やリュウズの防水を見ると、それほど意味はないように思います。セイコーの56系にもワンピースケースが多いですが、歩度調整が困難で、後期のモデルでは、一般的なツーピースケースになっていますね。まだ風防は圧入していません。この状態でゼンマイの巻き量や姿勢差の変化を見て、良好であれば風防を圧入して完成します。
http://www6.ocn.ne.jp/~tomys800/