人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

井上道義 総監督・指揮 ✕ 野田秀樹演出による モーツアルト「フィガロの結婚 ~ 庭師は見た!」を観る ~ こんなに楽しいオペラ公演はない!!

2020年11月02日 07時15分47秒 | 日記

2日(月)。わが家に来てから今日で2223日目を迎え、米大統領選は3日午前6時に投票が始まるが、全米の平均支持率でリードを保つ民主党のバイデン前副大統領に対し、共和党のトランプ大統領は南部や東部の激戦州で猛追し、10月31日から3日間の選挙運動で2016年の前回大統領選と同様の「土壇場の逆転勝利」を再現することに望みを託している  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     表立ってトランプ支持者と言えない「隠れトランプ」がどれほどいるか読めないな

 

         

 

昨日、池袋の東京芸術劇場コンサートホールで 井上道義指揮 野田秀樹演出 によるモーツアルトの歌劇「フィガロの結婚 ~ 庭師は見た!」を観ました これは2015年に初演されクラシック界の話題をさらった衝撃的なオペラ公演ですが、その時チケットを取りそこなってしまい、再演の機会を待っていたのです この日の公演は、9月19日でのミューザ川崎、10月18日での北九州シンフォニーホール、同月30日の東京芸術劇場での公演に次ぐ最終公演です

キャストは、アルマヴィーヴァ伯爵=ヴィタリ・ユシュマノフ、伯爵夫人=ドル二オク綾乃、スザ女(スザンナ)=小林沙羅、フィガ郎(フィガロ)=大山大輔、ケルビーノ=村松稔之、マルチェ里奈(マルチェリーナ)=森山京子、バルト郎(バルトロ)=三戸大久、走り男(バジリオ)=黒田大介、狂っちゃ男(ドン・クルツィオ)=三浦大喜、庭師アント二男(アントニオ)=廣川三憲、バルバ里奈(バルバリーナ)=コロンえりか、花娘=藤井玲南、花娘=中川郁文。管弦楽=ザ・オペラ・バンド、合唱=ザ・オペラ・クワイア、指揮・総監督=井上道義、演出=野田秀樹です キャストのうちアルマヴィーヴァ伯爵、伯爵夫人、ケルビーノの3役は、新型コロナウイルス禍の影響を受け、それぞれ代演となっています

自席は2階L列32番、センターブロック右から2つ目です 会場は1階のオーケストラピット部分を除いてほぼ満席です この公演は市松模様配置をとっていないので文字通り満席です コロナ禍の中、これほどの大ホールを聴衆が埋めているのを見たのは本当に久しぶりです

オーケストラピットに入る管弦楽の「ザ・オペラ・バンド」は、コンマスが東響コンマスのグレブ・二キティン、弦楽奏者と金管は各オケの混合、木管はフルート=神田寛明、オーボエ=青山聖樹、クラリネット=伊藤圭、ファゴット=宇賀神広宣といったN響の首席が揃っています 演奏者は総勢40名ですが、弦は左奥にコントラバス、前に左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対向配置をとります 管楽器は右サイドに集められ、右奥にティンパニがスタンバイします

ステージ上には3つの独立した部屋(箱)が置かれているだけのシンプルなもの。アントニ男(庭師でスザ女のおじ)が登場し、前口上を述べます

「時は黒船の世 ところは長崎 港が見える丘 そこに伯爵と伯爵夫人を乗せた黒船がやってまいります」

そして、伯爵がカブトムシのツノを思わせる肩当て姿で、伯爵夫人が白い花びらのような襟のドレスに身を包み、伯爵の小姓ケルビーノが黄色い衣装で登場します それと同時に井上道義指揮による序曲の演奏が始まります 井上の指揮は軽快そのもの 指揮台の上で踊っています

 

     

 

この公演は伯爵と伯爵夫人が外国から日本にやってきたという設定なので、2人の配役が外国人(伯爵役のヴィタリ・ユシュマノフがロシア出身、伯爵夫人役のドル二オク綾乃がドイツ人と日本人のハーフ)となっています このため、日本人同士が歌でやり取りする時は日本語で歌い、日本人と外国人がやり取りする時は原語(イタリア語)で歌うことになります 歌はすべて日本語の字幕がステージ上部に映し出されます よく日本語で歌っているのに何を歌っているのかさっぱり分からないということがありますが、これなら心配いりません

この公演では、野田秀樹による演出が光っていました 時には登場人物に歌舞伎役者の見得を切らせたり、文楽の人形のような動きをさせたりと、外国人がこの演出でフィガロを観たら拍手喝采・狂喜乱舞するのは間違いないだろうと思います また、演劇アンサンブルの8人がいわゆる「黒子」の役割を果たし、ある時は動く舞台装置となって場を盛り上げます

可笑しかったのは第1幕でスザ女とマルチェ里奈が「どうぞ、お先に」と道を譲り合う場面です お互いに丁寧な言葉で相手に道を譲りますが、2人の本音が「黒子」が次々と開く傘に文字で表されます。スザ女に対しては「小便娘」、マルチェ里奈に対しては「厚化粧」といった具合です 最後に「ババア」と大きな文字が出てスザ女が勝つことになります

また、第2幕で伯爵がスザンナに迫る場面で、3つの部屋(箱)の上にパパラッチのような人物が現れ、不倫の証拠写真を撮って「週刊文春」に売り込まんばかりにカメラやマイクを向けていたシーンです

この公演では庭師のアントニ男がオペラの狂言回し役を担います アントニ男を演じた廣川三憲は歌手ではなく劇団の役者ですが、軽妙洒脱な口ぶりでオペラのストーリーを解説し、物語の進行をスムーズに進めていきます 面白かったのは、登場人物たちを1カ所に集めて、アント二男がカメラマンになって集合写真を撮るシーンです アントニ男がシャッターを押すマネをすると、フラッシュが焚かれ、ステージ上の字幕スペースに写真(あらかじめ撮影済み)が映し出されるのです

これらのギャグは、「なるほどこれが野田演出か」 と思わせます

歌手陣では、日本髪でスザ女を歌った小林沙羅が魅力的な歌と演技で楽しませてくれました この人は日本の真面目なオペラを歌っても、今回のスザンナのような少しコケティッシュな役柄を歌っても、役柄に相応しい歌と演技を披露してくれます

フィガロを歌った大山大輔は歌に力があり、演技力も申し分ありません

アルマヴィーヴァ伯爵を歌ったヴィタリ・ユシュマノフはイケメンでスタイルもよく、歌も上手いので伯爵にピッタリでした

伯爵夫人を歌ったドル二オク綾乃は2つのアリア、スザンナとの二重唱を中心に美しいソプラノを聴かせてくれました

予想以上に素晴らしかったのはケルビーノを歌った村松稔之です ケルビーノといえば通常はメゾソプラノで歌われるので、カウンターテナーで歌うのを聴いたのは今回が初めてでした 2つの有名なアリアをはじめ魅力的な歌唱でした この人は、これからあちこちの劇場から引っ張りだこになるのではないかと思います

バルバ里奈を歌ったコロンえりかは出番が少なかったものの、第4幕のアリアは透明感があり美しく響きました

特筆すべきは、井上道義指揮ザ・オペラ・バンドの演奏とザ・オペラ・クワイアの合唱です 「ラ・フォル・ジュルネ=狂おしき1日」を 歌手に寄り添いながら、時に木管が歌い、素晴らしい演奏を繰り広げていました

 

     

 

野田秀樹氏も客席からステージに呼ばれ カーテンコールが繰り返されましたが、野田氏でなければこれほどギャグに満ちた楽しいオペラ公演は実現しなかったでしょう

プログラム冊子に野田氏が次のように書いています

「当たり前のように『マスク』をして、当たり前のように『新しい生活様式』などと口走っている。いつの日か、そんなことが『当たり前ではない』ということが『当たり前』になる暮らしに一刻も早く戻りたい」「この『フィガロの結婚』が少しでも『当たり前』に戻っていく先駆けとなればと切に願う その願いが、この『フィガロの結婚』の歌手たちの『肉声』にのって、演者たちの『肉体』に宿って、マスクで埋め尽くされた客席に届くと信じている 私たちは、生の肉体を、肉声を、人々の前に届けてこそ、『舞台を生業とする者』と言える。それが私たちの『当たり前』なのである

われわれは、たしかに 今回の出演者をはじめ この公演に携わった人たちの生の肉体と肉声を通して野田さんの願いを受けとめました 素晴らしい公演をありがとうございました

 

     

コメント
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