あの頃の自分を含めて、友人、知人たちは青春時代を謳歌していた。
24歳で結婚していた水野晃、23歳で結婚していた本橋一郎は共に大学時代の同期生との恋愛結婚であり、彼らには既に子供も居た。
足立幸雄も大学生の同期生に恋をしていたが、惚れた彼女には既に彼氏がいたのである。
その彼女は大学内ではマドンナのような存在であった。
さらに、面食いの足立は、高校生時代には映画女優であった同期生にも惚れていた。
彼女は当時、若者に人気のアイドルに容貌が似ていたことが、皮肉にも裏目に出たとされていた。
そして、寡黙な人であり、彼が講堂で話しかけても、微笑むだけであった。
彼女について、「高貴な雰囲気で気品があり、近づきにくいな」と同期生の一人が言っていた。
「女は愛嬌」とは言ったものだ。
彼女の微笑みは、モナリザを想起させたのだ。
水野晃はハンサムで、女にもてていた。
東京駅の八重洲地下街の居酒屋「ホタル」で足立は酒を度々飲んでいた。
ある日、水野をその「ホタル」に誘う。
店の娘のが、水野に心を動かされる。
「あの人は、どんな人なの?」足立は春香に問われた。
「未だに、文学青年ですね」
「そうなの。どんな小説の好みなの?」
「ドイツ文学ですね」
「ドイツ文学なの。私、読んだことないわ」
足立は彼が結婚していることを春香には明かさなかった。
春香が水野を求め、二人は深い中となる。
そしてある日、「足立さんのこと、信頼していなのに、何故、彼が結婚していたことを私に隠していたの」
涙を流す春香は、八重洲地下街の喫茶店で足立を責めるのである。
彼は言葉を失うばかりであった。
足立はその後、二度と「ホタル」へ足を向けることがなかった。
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