選挙ポスターの品位は SNSで偽情報拡散は 「2馬力」は?

2025年03月06日 23時25分07秒 | 社会・文化・政治・経済


そしてSNSで拡散される偽情報。

去年の東京都知事選挙や兵庫県知事選挙などをきっかけに、選挙運動をめぐる新たな課題が生じています。

対策に向けて、今、国会が動いています。

(ニュースウオッチ9ディレクター 中村幸代)

「ニュースウオッチ9 ポスター・SNS…公選法どうなる」
2月25日 放送
3月4日(火) 午後10:00まで NHKプラスで配信
↓動画はこちらから↓
去年7月の東京都知事選挙をきっかけに浮上した、選挙ポスターの問題。

候補者ではない女性の顔が印刷されたポスターに、さまざまな動物のイラストが描かれたポスターも。いずれも1か所に20枚以上貼られていました。
政治団体の「NHKから国民を守る党」などが擁立した候補24人の掲示板の枠が事実上、販売される形となっていました。

「2馬力」への対応も課題に

 
「2馬力」への対応も課題に
もうひとつ、課題とされているのが、いわゆる「2馬力」への対応です。

去年秋の兵庫県知事選挙では、当選の意思のない候補者の選挙運動がほかの候補者のために行われたのではないかと指摘されました。

動き出した国会

公職選挙法で想定していなかった事態が起きている中…。
動き出した国会
2月25日、与野党7党が提出した公職選挙法の改正案が衆議院の特別委員会で可決されました。

改正案のポイントは

 
改正案のポイントは
改正案のポイントは「選挙ポスター」「SNSで偽情報拡散」「2馬力」の3つです。
選挙ポスターについては、

▼他人やほかの政党の名誉を傷つけるなど品位を損なう内容の記載を禁止すること
▼営利目的で使用した場合は100万円以下の罰金を科すこと

などが盛り込まれています。
さらに、改正案の付則では

▼SNSで選挙に関する偽情報などが拡散しているような状況に対応すること

それとともに、
▼いわゆる「2馬力」と呼ばれる状況を念頭に候補者間の公平を確保するため、施策のあり方を検討し、必要な措置を講じるとしています。

「SNSで偽情報の拡散」と「2馬力」なぜ付則?

 
「SNSで偽情報の拡散」と「2馬力」なぜ付則?
改めて、今回の改正案のポイントを見てみると、「選挙ポスター」については、一定の規制が設けられることになったものの、「SNSでの偽情報の拡散」と「2馬力」については、付則にとどまっていて、具体的な措置については今後、検討となりました。

なぜ付則なのでしょうか?

取材すると、与野党の議員からは、次のような懸念の声があがっています。
「規制を強化すると表現の自由を制約しかねない」
「どこまでがセーフでどこからがアウトか線引きは難しい」

つまり、慎重に議論を進める必要があるということなんです。

今後、どのような対応が求められるのか?専門家に話を聞きました。

今後 どんな対応が求められる? 専門家は

 
今後 どんな対応が求められる? 専門家は
日本政治に詳しい東京大学の牧原出教授です。

焦点となっている、選挙でのSNS利用自体は否定すべきではないといいます。
東京大学 牧原出教授
「SNSによって我々が関心を持ち、注目していくわけで、それによってやはり投票率は支えられている面はもう既にある。ただ問題はそこにフェイクがあるかっていうことで、これは必ずあるんですよ。まずはファクトチェックをきちんとやる体制を作って、あまりにも変なものについては『これは駄目だ』というべきだと思います」
Q.偽情報や誹謗中傷などの悪質な動画などに対して、公職選挙法で必要な措置を講じることは可能だと考えるか?
東京大学 牧原出教授
「ある程度はできると思うんですけど、例えば根絶するってことはできないんですよね。公職選挙法の規制はやはり何が駄目だということをはっきり言うことに意味があるわけで、グレーゾーンまですべて規制することはできないし、やるべきではないと思う」

カギは“収益”と“アルゴリズム”への対応

SNSでの偽情報の拡散をどう防いでいくか。

自民党が2月に与野党の協議会で示した案では対策として「情報流通プラットフォーム対処法」を改正してSNSの運営事業者の責任をより明確化するよう求めています。

具体的には、候補者へのひぼう中傷や偽情報を含むコンテンツが投稿された場合、事業者が収益の支払いを停止できる仕組みを導入すべきだとしています。
牧原さんは、こうした「収益を上げる目的でのSNS利用」を規制していくことが対策の1つになると指摘します。
東京大学 牧原出教授
「おそらく関心を集めるものは、ややフェイクに近かったり極端なものであることが多いわけですが、仮に収益化できないとなると、そういうものに対する過剰な関心が少なくなる。いくら、閲覧回数はあがっても収益にならないように働きかけていくっていうことは、私は不可能ではないと思うんですよね」
また牧原さんは、SNSでの偽情報の拡散の防止について、利用者の情報に応じて興味を持ちそうな情報を次々と表示させる「アルゴリズム」への対応も求められるといいます。
東京大学 牧原出教授
「フェイクに近い投稿があったとき、それを1回見てしまうと似たような投稿が次々に並んで、なんとなくフェイクに信頼感が出てしまう。そういう『アルゴリズム』にしてはいけない。これはプラットフォーム企業の側の対応の問題ですが、そうならないように働きかける、場合によって規制が必要だと思います」

有識者のリテラシーと既存メディアの役割も重要

もう1つ、改正案で付則に盛り込まれた、いわゆる「2馬力」への対応については、規制の強化だけでは限界があり有権者のリテラシーも重要だと指摘します。
東京大学 牧原出教授
「注目を集める選挙活動をすることは意味があって、これまでも自分が当選するかどうかはちょっとわからないけれども、選挙のために自分の政治的主張をするという候補ってたくさんいたわけですね。しかし良質な選挙のための討議の場が作られるかどうか、そこを見ていかないといけない。仮に公職選挙法に違反していない、そういう選挙活動をしている候補がいたとしても、『あの候補のやり方はやはりおかしい。あの候補が言ってることはあまり真に受けてはいけないんだ』っていうことが、まずは浸透することが大事です」
Q.ひるがえるとNHKも含めて既存のメディアの役割も問われていると思うが、どうあるべきだと考えるか?
東京大学 牧原出教授
「特に選挙期間中にやや自己抑制をかけすぎているのはこれまでの反省だと思います。これまでよりもっと踏み込んだ報道をしていいと思うんですね。悪質な動画や画像、誹謗中傷が激しいもの、あるいは(論理が)首尾一貫していないものが流れてきてるときにはオールドメディアも含めて『こういうような流し方がよくない』と、しっかりと声をあげていくことが大事だと思います」

取材後記

「2馬力」への対応については、鳥取県の選挙管理委員会が独自の対策として、県が執行する次回の選挙から、候補者に「みずからの当選を目的とする」という趣旨の宣誓書の提出を求めることを2月26日に決めるなど、地方からの動きも出てきています。

一方で、牧原さんが何度も強調していたのが「良質な議論」の重要性でした。

選挙運動で発信される情報のなかで何がよくて、何が駄目なのか、有権者や我々既存のメディアも含め議論していくことが大事だと話していました。

夏には東京都議会議員選挙や参議院選挙も控えています。表現の自由を確保しながらどこまで実効性ある対応をとれるのか、不断に考えていかなければならないと思います。
ニュースウオッチ9ディレクター
中村幸代
2015年入局
北九州局、福岡局、おはよう日本を経て政治番組班に所属
労働問題や働き方、政治改革などを取材

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