小学生の頃、川辺の岩に座って身を乗り出して、魚を見ていた5歳の妹の由梨が足を滑らせて、約2㍍の水中に沈んだ。
それを徹はじっと見ていた。
その時、徹の目は現実を捉えていたのに、心はあらぬ方向にあった。
妹を救わなくてはならないという当然の感情が起こらなかった。
向こう岸の岩に座る同級生の松江のブルーのワンピースの陰の、白い三角に見えるパンツに目が釘付けになっていたのだ。
徹の友達二人が咄嗟に衣服のまま川にダイビングするのを、徹は他人事のように見詰めていた。
松江の悲鳴に徹は向こう岸を注視した。
妹は一度浮き上がってくると、体を上向にすると両足でバタバタと水面を蹴っていた。
その体は背泳のようにグイグイと川の中央に前進してゆく。
岩場の川幅は10㍍余だった。
妹は泣き叫んでいるようで、水間に口をパクパクさせていた。
口を開ける都度、川の水を飲み込んでいるのだろう。
友達二人は妹の体を両側からつかんだ。
その途端、二人は妹にしがみつかれて、身動きできなくなり、一つの塊となり、浮き沈みしながら下流へ流されて行った。
それはまさに徹にとって悪夢を見るようであった。
そこへ偶然、大人の男性が通りかり、妹を救ってくれた。
必死の妹は小学生の友だちの体から手を離し、体の大きな大人にしがみついたのだった。
徹はしばらく大人の男性と妹が流されてゆくのを小走りで岸に沿って追ってゆくだけだった。
水難事故:助けた人までが死ぬのはなぜか?
溺れた人からしがみつかれて、助けた人まで身動きがとれなくなり共に溺れることが要因。
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