新型コロナウイルス感染症の後遺症について

2020年08月13日 11時51分22秒 | 医科・歯科・介護
東京都医学総合研究所 文責:鈴木マリ

新型コロナウイルス感染後の後遺症が注目されはじめ、国内でも報道が増えてきました。急性症状が治った後にも、疲れや息苦しさなどの症状が2ヵ月以上も続く人がいるようです。

“コロナ後遺症”で検索すると多くの記事がヒットしますし、Twitterでも後遺症に悩む人々のつぶやきが “#コロナ後遺症”とともに多数掲載されています。

本稿では2020年7月にJAMA誌に発表された、イタリア・ローマのジェメッリ大学病院の調査結果を紹介します1

Angelo Carfi氏らの研究グループはCOVID-19回復後に退院した患者の追跡調査を行い、COVID-19発症から約2ヵ月の時点においても87.4%の患者が何らかの症状があることを発表しました。著者らは、退院後も継続的なモニタリングを行い、長期にわたる影響についてさらなる検証を進める必要があるとしています。

本研究では、2020年4月21日~5月29日までの間にCOVID-19から回復し退院した患者143例について追跡調査を実施しました。

    主な結果:
  • 患者143例(平均年齢56.5歳)、男性90例(63%)で女性53例(37%)、平均入院期間2週間。
  • COVID-19症状発現から平均60.3日後の評価時点で無症状だったのは18例(12.6%)、患者の32%は1~2つの症状があり、55%は3つ以上の症状が見られた。
  • 患者の44.1%でQOLの低下が見られ、特に倦怠感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)を訴える人の割合が高かった。咳、嗅覚の異常、ドライマウス/ドライアイ、鼻炎、目の充血、味覚の異常、頭痛、喀痰、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢といった症状を訴える患者もいた。

注意すべき点として、今回の調査ではCOVID-19で「入院した患者」のみを対象としており、「入院の必要がなかった軽症患者」では影響が異なる可能性があること、後遺症はCOVID-19に限らず一般的な肺炎にもあてはまる可能性があること2、が述べられています。

この論文で最も割合の多かった症状は倦怠感(53.1%)でした。実は、COVID-19と関連して、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS, Myalgic Encerphalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome)の発症増加の可能性も危惧されています(MEとCOVID-19の関連性についてはNPO法人筋痛性脳脊髄炎の会のサイト「COVIDとME」を参考にさせていただきました3)。

7月上旬、国際エイズ学会が主催した記者会見で、米国国立アレルギー感染病研究所のAnthony Fauci所長は、「長く続く疲労症候群がCOVID-19に伴う場合があり、その症状が、以前は慢性疲労症候群と呼ばれていた筋痛性脳脊髄炎(ME)患者の症状に似ている」と語りました4

ウイルス感染とME発症の関連性は以前から示唆されており、レスター大学の医療関連専門学准教授Nicola Clague-Baker氏は、「過去のSARSとEBウイルス(伝染性単核球症)の集団発生の際には、MEと診断された患者数がそれぞれ8~10%上昇したというエビデンスがあり、重篤なウイルス感染とMEが関連していることは明らかです」と話しています5

また、シカゴのデポール大学教授Leonard A Jason氏は、「過去の流行から学ぶウイルス感染後疲労とCOVID-19」と題する論文を発表しています6

  • COVID-19後の回復に関連しうる合併症の可能性を評価するために、過去の流行や感染症が与えた健康上の短期的・長期的影響についての文献をレビュー。
  • 感染後に発症するME/CFSは、ブルセラ症、EBウイルス、ライム病、Q熱、ウイルス性髄膜炎、デング熱などのパンデミックの後で増加するリスクがすでに報告されている。
  • 2003年、カナダのトロント市におけるSARSの流行の際には少なくとも273人が感染し、集中治療を受けた107名の患者の後遺症に関する調査が実施された。様々な症状はMEに非常に類似していた。感染1年後にも、17%の患者は持続的に症状が重く、仕事に戻ることができず、87%の患者には何らかの症状が残っていた。

日本でも、COVID-19の後遺症に関する厚生労働省の実態調査が8月から始まるとのことです。後遺症についての実態が明らかになり、適切な対処が可能になることを期待します。


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