いつしか春分の日も過ぎており、三月も下旬にさしかかっています。日も十分に伸びたレイキャビクですが、ここのところまた気温が下がり、雪が毎日のように舞っています。ただし積もりませんが。
今頃の日本は卒業式のシーズン?日本での季節感というものが失われてしまってから、もうずいぶん経ちます。Facebookで、卒業式に関するフィードは目にしているのですが、ユーミンのあの曲が頭の中に自動的に流れてくるようなことは今はないですえ。これって、哀しいことかな?
さて今回はアイスランド人の名前に関してです。こちらでの名前や名付け方の習慣に関しては、これまでも何回か書いたことがあります。ずいぶん前に書いたトピックなので、読んだことがない方が多いと思います。良かったらそちらも覗いてみてください。
アイスランド人の名前
二週間くらい前になりますが、モルグンブラウジズ紙に面白い記事が掲載されました。過去三百年ほどの間の、アイスランドでの主流な名前や、名付け方の変遷、さらには人気のある名前の地方ごとでの差異等についての解説記事です。
解説の手引きをしてくれたのは、アイスランド大学の引退教授のグビューズルン・クヴァーランさん。女性の方です。
アイスランドには特有の文字も散見する名前
Myndin er ur Visir.is
本題に入る前に、ちょっとだけこちらの名前について復習しておきます。アイスランドでは、日本やアメリカでの「姓名」の「姓」というものが原則としてありません。
そのかわりに「ヨウンの息子」(ヨウンスソン)、「ヨウンの娘」(ヨウンスドティール)のようにaettarnafnアヒターナブンと呼ばれるものを使います。一応「家族の名」が直訳なのですが、私たちの常識とは少し違います。
ファーストネームは、往々にしてkenninafnケンニナブンと呼ばれ硬い訳ですが「識別名」とすると、その性格がはっきりすると思います。誰であるかを示すための名前、ということです。
そして、アイスランドではほとんど、このファーストネーム -時々はセカンドネームも合わせて- でコミュニケーションが持たれます。日常の会話で、ファーストネームではなく、アヒターナブンの方だけを使うことはまず絶対にありません。
サッカーのアイスランド代表のユニフォームには、今はどこでもそうでしょうが、背のところに名前が入っています。これは多分国際的な決まりがあるのでしょうが、アヒターナブンが用いられます。
そのため、特に女子の選手などKristjansdottirのように、長―――い綴りを入れなければならず、ちょっと滑稽。しかも、私たちはいつも「ギルビ」のように前の名前だけを使っていますから、外国のアナウンサーなどがSigurdssonとか呼んでいるのを聞くと「誰?」と思ってしまったりします。Gylfi Thor Sigurdssonは男子代表のエースストライカーです。
ちょっと無理がある?背中の名前
Myndin er ur Ksi.is
さて、本題。
アイスランド人がどのような名前を子供達に付けていたか、というようなことは、1703年くらいまで遡って知ることができるのだそうです。1703年から人口調査というか国勢調査?のように名前とか人口数とかを統計に取り始めたからです。
その頃メジャーな名前で、今だに非常に良く使われている名前は、例えば男性のグビューズムンドゥル、ヨウハン、女性のアンナ等があります。
ですがそんな中でも、1703年から2019年にかけての316年間で、もっともよくある名前は、男性がJon ヨウン、女性がGudrunグビューズルンとのこと。
1703年当時には男性の四人にひとりはヨウンさん、女性の五人にひとりはグビューズルンさんであったそうな。そんなに同名があったら「識別名」にならないではないか、と思うのですが。
ちょっと脱線しますが、私は仕事でイスラムの文化圏出身の人たちと日常的に接します。すると誰もかれもがモハメドばかりなことがあり、どうも困ります。セカンドネームというか次の名前を使ったり、ニックネームを付けてしのいでいますが。
元に戻ります。アイスランド人の過半数である62%が、三つあるいは四つのパートで名前を構成しています。ファーストネーム、セカンド、サード、そして最後にアヒターナブンが来るわけです。
グビューズルン教授によると、これは19世紀になってから一般的になってきたもので、「1801年にはみっつ以上の名前を持ったひとは102人だけ。そしてその102人の中にはひとりの『ヨウンさん』もひとりの『グビューズルンさん』もいませんでした。
ということはつまり、アヒターナブン以外に複数の名前を持つのは、同名の人たちからの識別を目的としていなかったことを示しています。ファッションだったんですよ。当時の宗主国であったデンマーク王国からの影響です。当時人気があったのは、Dorothea, Soffia, Jens, Hans等の名前です」
アイスランド人の名前 その4
またグビューズルン教授は、アイスランドの各地域ごとに「ご当地」で人気のある名前があるのだそうです。
t地域ごとに異なる人気の名前
Ur Morgunbladid
例えば、ウェストフィヨルド地方で人気があるのは、男性がアーロンやホイクル、女性がオイズル、空港の町ケフラビクがある南西部では男性がアレクサンダー、女性がハンナ。
南部では男性がアルトゥナル、女性がクリスティーンとラケル、北東部では女性はビルタとカリタス、男性はアーロン、北西部では男性がバルタザールとアルノール、女性がエンマだそうです。
ちなみにこのエンマEmmaですが、二十年前にとても人気のある名前でした。「閻魔」ではないですよ。
グビューズルン教授は「私が思うには、当時の人気のテレビ番組で『フレンズ』というのがあったのですが、そのドラマの中でレイチェルとロスが娘にEmmaと名前を付けたんです。それでにわかにエンマが人気の名前となったと考えています」
ちなみに昨年2018年に最も人気のあった名前は、男性がAronアーロン、女性がHeklaへクラでした。
最後に、逆に不人気になった名前は?
「最近不人気の名前は、男性がソルケットゥルThorkell、女性がスリーズルThridurでしょうか?スマートじゃないんですよね、今風には。
短くて、ポジティブで、国際的に通じるようなものが今は上昇気流に乗っています。できるだけ広く世界中で受け入れられる、ということは命名の際の重要なポイントになっているようです」
なるほど。それはよくわかります。私も子供たちに名前をつけた時、「アイスランドでも、日本でも通用する名前」ということを非常に重んじて考えましたから。
でも逆に言うと、国それぞれでの名前の独自性というか、お国柄が失われていくことになるかもしれませんね。それはちょっと残念な気がします。
アイスランドに関して言えば、ある時点でまた「伝統を守ろう」という方向へ転換する可能性はあると思います。Thorkell とThridurが再びトレンドになる日もないわけではないでしょう。ここ、面白い国ですから... (^-^;
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
今頃の日本は卒業式のシーズン?日本での季節感というものが失われてしまってから、もうずいぶん経ちます。Facebookで、卒業式に関するフィードは目にしているのですが、ユーミンのあの曲が頭の中に自動的に流れてくるようなことは今はないですえ。これって、哀しいことかな?
さて今回はアイスランド人の名前に関してです。こちらでの名前や名付け方の習慣に関しては、これまでも何回か書いたことがあります。ずいぶん前に書いたトピックなので、読んだことがない方が多いと思います。良かったらそちらも覗いてみてください。
アイスランド人の名前
二週間くらい前になりますが、モルグンブラウジズ紙に面白い記事が掲載されました。過去三百年ほどの間の、アイスランドでの主流な名前や、名付け方の変遷、さらには人気のある名前の地方ごとでの差異等についての解説記事です。
解説の手引きをしてくれたのは、アイスランド大学の引退教授のグビューズルン・クヴァーランさん。女性の方です。
アイスランドには特有の文字も散見する名前
Myndin er ur Visir.is
本題に入る前に、ちょっとだけこちらの名前について復習しておきます。アイスランドでは、日本やアメリカでの「姓名」の「姓」というものが原則としてありません。
そのかわりに「ヨウンの息子」(ヨウンスソン)、「ヨウンの娘」(ヨウンスドティール)のようにaettarnafnアヒターナブンと呼ばれるものを使います。一応「家族の名」が直訳なのですが、私たちの常識とは少し違います。
ファーストネームは、往々にしてkenninafnケンニナブンと呼ばれ硬い訳ですが「識別名」とすると、その性格がはっきりすると思います。誰であるかを示すための名前、ということです。
そして、アイスランドではほとんど、このファーストネーム -時々はセカンドネームも合わせて- でコミュニケーションが持たれます。日常の会話で、ファーストネームではなく、アヒターナブンの方だけを使うことはまず絶対にありません。
サッカーのアイスランド代表のユニフォームには、今はどこでもそうでしょうが、背のところに名前が入っています。これは多分国際的な決まりがあるのでしょうが、アヒターナブンが用いられます。
そのため、特に女子の選手などKristjansdottirのように、長―――い綴りを入れなければならず、ちょっと滑稽。しかも、私たちはいつも「ギルビ」のように前の名前だけを使っていますから、外国のアナウンサーなどがSigurdssonとか呼んでいるのを聞くと「誰?」と思ってしまったりします。Gylfi Thor Sigurdssonは男子代表のエースストライカーです。
ちょっと無理がある?背中の名前
Myndin er ur Ksi.is
さて、本題。
アイスランド人がどのような名前を子供達に付けていたか、というようなことは、1703年くらいまで遡って知ることができるのだそうです。1703年から人口調査というか国勢調査?のように名前とか人口数とかを統計に取り始めたからです。
その頃メジャーな名前で、今だに非常に良く使われている名前は、例えば男性のグビューズムンドゥル、ヨウハン、女性のアンナ等があります。
ですがそんな中でも、1703年から2019年にかけての316年間で、もっともよくある名前は、男性がJon ヨウン、女性がGudrunグビューズルンとのこと。
1703年当時には男性の四人にひとりはヨウンさん、女性の五人にひとりはグビューズルンさんであったそうな。そんなに同名があったら「識別名」にならないではないか、と思うのですが。
ちょっと脱線しますが、私は仕事でイスラムの文化圏出身の人たちと日常的に接します。すると誰もかれもがモハメドばかりなことがあり、どうも困ります。セカンドネームというか次の名前を使ったり、ニックネームを付けてしのいでいますが。
元に戻ります。アイスランド人の過半数である62%が、三つあるいは四つのパートで名前を構成しています。ファーストネーム、セカンド、サード、そして最後にアヒターナブンが来るわけです。
グビューズルン教授によると、これは19世紀になってから一般的になってきたもので、「1801年にはみっつ以上の名前を持ったひとは102人だけ。そしてその102人の中にはひとりの『ヨウンさん』もひとりの『グビューズルンさん』もいませんでした。
ということはつまり、アヒターナブン以外に複数の名前を持つのは、同名の人たちからの識別を目的としていなかったことを示しています。ファッションだったんですよ。当時の宗主国であったデンマーク王国からの影響です。当時人気があったのは、Dorothea, Soffia, Jens, Hans等の名前です」
アイスランド人の名前 その4
またグビューズルン教授は、アイスランドの各地域ごとに「ご当地」で人気のある名前があるのだそうです。
t地域ごとに異なる人気の名前
Ur Morgunbladid
例えば、ウェストフィヨルド地方で人気があるのは、男性がアーロンやホイクル、女性がオイズル、空港の町ケフラビクがある南西部では男性がアレクサンダー、女性がハンナ。
南部では男性がアルトゥナル、女性がクリスティーンとラケル、北東部では女性はビルタとカリタス、男性はアーロン、北西部では男性がバルタザールとアルノール、女性がエンマだそうです。
ちなみにこのエンマEmmaですが、二十年前にとても人気のある名前でした。「閻魔」ではないですよ。
グビューズルン教授は「私が思うには、当時の人気のテレビ番組で『フレンズ』というのがあったのですが、そのドラマの中でレイチェルとロスが娘にEmmaと名前を付けたんです。それでにわかにエンマが人気の名前となったと考えています」
ちなみに昨年2018年に最も人気のあった名前は、男性がAronアーロン、女性がHeklaへクラでした。
最後に、逆に不人気になった名前は?
「最近不人気の名前は、男性がソルケットゥルThorkell、女性がスリーズルThridurでしょうか?スマートじゃないんですよね、今風には。
短くて、ポジティブで、国際的に通じるようなものが今は上昇気流に乗っています。できるだけ広く世界中で受け入れられる、ということは命名の際の重要なポイントになっているようです」
なるほど。それはよくわかります。私も子供たちに名前をつけた時、「アイスランドでも、日本でも通用する名前」ということを非常に重んじて考えましたから。
でも逆に言うと、国それぞれでの名前の独自性というか、お国柄が失われていくことになるかもしれませんね。それはちょっと残念な気がします。
アイスランドに関して言えば、ある時点でまた「伝統を守ろう」という方向へ転換する可能性はあると思います。Thorkell とThridurが再びトレンドになる日もないわけではないでしょう。ここ、面白い国ですから... (^-^;
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます