第1章が「社会」(総論)だったところから、次は第2章「メディア」です。
この構成そのものに驚いたというのが第一印象です。
「メディア」と言った時に、「マスメディア」(テレビや新聞)について論じているのかと思えば、そうではなくいわゆるソーシャルメディア」について、利便性と注意点が端的に指摘されていることも特徴です。
民主制におけるメディアと独裁制におけるメディアとおいう視点は、日本では教科書に登場することはほとんどないでしょう。
そして、メディアを主体的に発信するものとして教えている点も重要な視点だと思いました。
今日では、誰でもニュースを流すことができます。ケータイなどで写真を撮り、コメントを書き込む。ほんの数分で、自分の友達をはじめとした多くの人にニュースを広めることができます。(中略)
メディアは情報を発信し、意見を述べ、私たちが何を考え、何をするのか、そして私たちが何を買うのかまで影響を与えます。(30ページ)
発信する側の視点で「誰でもニュースを流すことができます」という書き出しには、大学生も驚いています。ニュース=マスメディアが流すものという思考が、どうしても日本には深く根をおろしていますが、スウェーデンではそうではないことがわかります。
「私たちは、インターネットを使いすぎているのでしょうか?」という項目では、コンピューターは素晴らしい道具であると同時に、危険性として「座ったまま快適に過ごし、あまりお互い『IRL(リアル)』に会わなくなってしまうこと」と書いています。
それに続き「リアルに会うことには、どんな利点があるか」「その代わりにケータイで交信することにはどんな利点があるか」「ケータイではできないことは」ということを考える組み立てです。
これは、日本の中でも行われている部分がありますが、どちらかというと否定面ばかりが教育現場では論じられてるようにも思えます。
■メディアは「民主制の道具」
ここからは、スウェーデンの主権者教育の真骨頂です。教科書の内容を引用します。
ソーシャルメディアは、友達とどこで何をしているかについて連絡を取り合う時にもっとも使われています。それだけでなく、ソーシャルメディアは、スウェーデン、そして世界中の権力者に影響を与えるために使うこともできます。ツイッターのコメントが何千もの人々に広まり、最終的には権力者に影響を与えるのです。(中略)
あなたの意見が多くの人々に急速に広がるわけですから、あとからそれを取り消すことはとても難しくなります。また、はっきりと表現しなければ誤解されることもあります。 (32〜33ページ)
「権力者に影響を与える」というメッセージは、主権者として個人の力が政策決定に影響があるということを端的に示していると感じました。
そして、ソーシャルメディア(SNS)について、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムとそれぞれ解説しています。フェイスブックとインスタグラムは年齢制限が13歳。つまり、使うことができるようになる前から教科書で取り上げて教えているのです。そして「なぜ13歳が年齢制限として設定されたか」について考えさせる流れとなっています。
■メディアを通じてよくする
スウェーデンでは憲法と呼ばれる4つの法律があり、うち2つは「出版の自由に関する規則」「表現の自由に関する法」と情報に関わるものになっています。
ここから民主制におけるメディアと独裁制におけるメディアについて話が進みます。「ソーシャルメディアによって国をよりよくするためには、どうすればよいでしょうか?」を問い、考えるのです。
一方、「民主制における制限」についても記述があり、「何を書いてよいのか、何を書いてはいけないのか、についての規則」も教えています。
具体的には、①集団に対する憎悪の宣伝(ヘイトスピーチ)、②違法な暴力の描写、③中傷、④扇動、⑤裁判における不正──が細かく記述されているのです。
■あなたも影響を与えることができる
さらに話は発展していきます。
あなたも影響を与えることができる
メディアが、あなたやあなたの価値観、そしてあなたの意見に影響を与えるのと同じように、あなたも自分のためのメディアを利用することができます。
たとえば、学校のカフェや自由時間の遊び場が閉鎖されないように、あなたがだ誰かに影響を与えるためには「サポート」が必要です。そのような決定にうまく影響を与えるためいは、なるべく多くの人々から賛同を得なくてはいけません。
通例、このことを「世論を形成する」と言います。もし、あなたがオピニオンリーダーとなれば、より多くの人々があなたの考えを支持するようになるでしょう。
以下に、あなたが世論を形成し、それによって決定に影響を与えるためのコツを示しておきます。
・あなたの友人や親戚から、署名による支援を集めましょう。
・地方の新聞に投書しましょう。
・フェイスブックでグループをつくりましょう。
・人々を集めてデモを行いましょう。
・責任者の政治家に。直接連絡を取りましょう。(42〜43ページ)
何か変えたいと思っている人たちが、直ちに活かせるアドバイスです。日本ではいわゆる「運動論」として語られるものが、小学校の教科書に出てくるのです。しかも実際に小学生がプラカードを掲げたデモ行進の姿が教科書には掲載されています。
学生の感想の中でも「政治家任せではなく、自分の意見を発信して誰かに影響を与えることから、国民一人ひとりが政治に参加することができるんだというメッセージ性を感じてしまう」と話しています。投票の練習をすることが主権者教育ではないのです。
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