(写真はイラン。テヘラン博物館の『アイスマン』
ずいぶん時を経て、氷の中から発見されたという。)
『身毒丸 』 折口信夫 7 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。
「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
1954(昭和29)年11月
「折口信夫全集 27」中央公論社
1997(平成9)年5月
踊り手は、一様に手を止めて、音頭の絶えたのを訝しがつて立つてゐた。
と切れた歌は、直ちに続けられた。
然しながら、以前の様な昂奮がもはや誰の上にも来なかつた。
身毒は、歌ひながら不機嫌な師匠の顔を予想して慄へ上つてゐた。
あちらこちらの塚山では寝鳥が時々鳴いて三人を驚かした。
思ひ出したやうに、疲れたゞの、かひだるいだのと制多迦(せいたか)が独語をいふ外には、対話はおろか、一つのことばも反響を起さなかつた。
家へ帰ると、三人ながら くづほれる様に、土間の莚の上へ、べた/″\と坐り込んだ。
源内法師は、身毒の襟がみを把つて、自身の部屋へ引き摺つて行つた。
身毒は、一語も上つて来ないひき緊つた師匠の脣から出る、恐しいことばを予想するのも堪へられない。
柱一間を隔いて無言で向ひあつてる師弟の上に、時間は移つて行く。
短い夜は、ほの/″\あけて、朝の光りは二人の膝の上に落ちた。
芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。
かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。
『身毒丸 』 折口信夫 1 信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。
『身毒丸 』 折口信夫 2 此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。 / 父の背
『身毒丸 』 折口信夫 3 父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。 身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」
『身毒丸 』 折口信夫 4 身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。
『身毒丸 』 折口信夫 5 あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
『身毒丸 』 折口信夫 6 身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
『身毒丸 』 折口信夫 7 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。
ずいぶん時を経て、氷の中から発見されたという。)
『身毒丸 』 折口信夫 7 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。
「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
1954(昭和29)年11月
「折口信夫全集 27」中央公論社
1997(平成9)年5月
踊り手は、一様に手を止めて、音頭の絶えたのを訝しがつて立つてゐた。
と切れた歌は、直ちに続けられた。
然しながら、以前の様な昂奮がもはや誰の上にも来なかつた。
身毒は、歌ひながら不機嫌な師匠の顔を予想して慄へ上つてゐた。
あちらこちらの塚山では寝鳥が時々鳴いて三人を驚かした。
思ひ出したやうに、疲れたゞの、かひだるいだのと制多迦(せいたか)が独語をいふ外には、対話はおろか、一つのことばも反響を起さなかつた。
家へ帰ると、三人ながら くづほれる様に、土間の莚の上へ、べた/″\と坐り込んだ。
源内法師は、身毒の襟がみを把つて、自身の部屋へ引き摺つて行つた。
身毒は、一語も上つて来ないひき緊つた師匠の脣から出る、恐しいことばを予想するのも堪へられない。
柱一間を隔いて無言で向ひあつてる師弟の上に、時間は移つて行く。
短い夜は、ほの/″\あけて、朝の光りは二人の膝の上に落ちた。
芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。
かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。
『身毒丸 』 折口信夫 1 信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。
『身毒丸 』 折口信夫 2 此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。 / 父の背
『身毒丸 』 折口信夫 3 父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。 身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」
『身毒丸 』 折口信夫 4 身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。
『身毒丸 』 折口信夫 5 あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
『身毒丸 』 折口信夫 6 身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
『身毒丸 』 折口信夫 7 芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。