著者はノンフィクション書き下ろしのために「シルバーヴィラ向山」の取材をしていた。そしてそこに自分の母親を入居させることになった。
この本は介護としての者著者の想いと、シルバーヴィラという有料老人ホームのあれこれ、人間模様を書いたモノで、美談的体験談とはちよっと違っている。
在宅介護に限界を感じて入居するところから始まり、在宅介護の大変さにはそれほどリアルに触れていない。
入居にあたっての手続きやら家の整理、その時の兄姉との関係(著者は末っ子)、あるいは、80代の父親とのあれこれ…そんなことが書かれているので、「しんみり」というより「ゼーゼーハーハー」という感じ。
介護していると、サービス一つ使うにもアレコレと段取りがあり、ドタバタがあり、そしてメイン介護者以外との確執もあり、サービスが始まってもしばらくは安定せず…と、感傷的なこととは別な、息切れしそうなことがたくさんある。
このシルバーヴィラは介護保険導入前からあり、「高齢者専用長期滞在型ホテル」という看板が掲げられている。
道路を挟んだ向かいに「アプランドル向山」という自立型の施設も建っていて、著者の父親はこちらに入居し、著者本人は近くにアパートを借りるという形でスタートし、後に、実家を処分し、シルバーヴィラの近くに家を購入、父親との同居生活に戻る。
この施設は、とても対応がフレキシブル。門限もないし、地域にも開放され、人の出入りも自由(1990年代のことなので今だったらセキュリティーが問われそう)
介護の必要な人も、そうでない人も一律で月に17万円←今ならもっと高いんだろうし…この金額を払える人でなきゃ入れないのよね……。
介護のあるなしでも金額が同じというのは、相互扶助の意味合い。入居後に要介護状態になっても支払いが多くなることはない。
介護保険導入後も、あれこれ知恵を絞って今までの形を崩さないようにしていたけど、介護保険前からある施設等は、それまでうまく機能していた自分たちのやり方がバツになるわけで、行政に振り回されてることになり、それがヨイのか悪いのか……。
このホームは東京にある。
お金の問題はともかくとして、これを読んでいると、こういうホームなら入ってもいい…と想った。
そこに親を入居させ、近くに中古で家を購入し…という著者は介護環境としては恵まれているほうだと思う。
著者の母親は脳疾患で介護度5、失語症がある。「母の言葉が聞きたい」という文がちょっと胸に響く。