向日葵の咲かない夏 道尾秀介
2007年作品
【絶対に読みたい】おすすめ面白ミステリー小説 20選【日本・最高傑作ランキング(自薦)】
↑からのチョイス2冊目。
絶賛真冬進行中にこの作品の感想を書くのは
タイミング的に非常に最悪だけどw
夏といえば大抵の人は開放的なイメージを持つはず。
しかしこの作品はタイトルから伝わるとおり、
セミの喧騒、暑さで弱る植物、夏休みの孤独といった
夏のネガティブな要素を序盤で徹底的に印象づけている。
小学4年の夏休みを迎えた「僕」は
終業式の帰りにS君の家へ夏休みのプリントを届けに行くと
そこで首を吊って死んでいるS君を発見する。
学校へ戻り担任の先生へ報告するが、
確認に向かったところ死体などなかったという。
しかし、警察の捜査では確かにそこでS君が死んだ形跡は存在した。
そして、自分の部屋へ戻った「僕」が見たのは
蜘蛛として生まれ変わったS君の姿だった。
「自分を殺したのは担任の先生」との言葉をもとに
シュールな凸凹少年探偵コンビの調査が始まる。
物語序盤で示された「夏の不気味さ」は
自分が殺されたにもかかわらず
あっけらかんとしているS君の態度にかき消されて
明るい雰囲気のジュブナイルミステリに様変わりする。
ちょこちょこ着いてくる天真爛漫な妹のミカも
非常に聡明で可愛らしく描写されていて
作中のマスコット的な魅力を放つ。
ところが。
ネグレクト気味の母親、近所に住む奇怪な風貌の老人、
異常性癖を持つ担任の先生、といった
子供が見てはいけない大人の闇が明かされていき
薄皮を一枚ずつ剥いでいくように
不気味な夏の雰囲気が再び露見していく。
そして、ページをめくるごとに
剥いではいけないところまで剥がし続ける作者の文章に戦慄しながら
最終的な「僕」の行動と事件の真相に驚愕させられる。
とにかく登場人物が個性的で、その理由も納得できて面白い。
「生まれ変わり」というオカルトも
ミステリの範疇としては決してタブーではなく
物語としては非常に楽しめた。
しかし、これが推理小説としてフェアかどうかと言われたら
明らかに9:1くらいでアンフェアと言わざるを得ない。
ミスリードも含めた伏線をしっかりと丁寧に敷いているので、
作者を叩くのは筋違いではあるのだけれど
やはり当時のミステリファンの評価も真っ二つだった模様。
読み終わったあとの余韻を噛み締めながら
最初から全体の回想をするだけでも
相当に考えられた作品だとわかるのだけれど
まあさすがにネタがネタだから好き嫌いは分かれるなー。
いや俺はけっこう好きだよ、うん。
夏が好きな人間なので夏を舞台にしたホラーミステリとして
良い意味で印象に残りました。