阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

『民主化支援』を切り口として日本の可能性を切り開く

2016年01月31日 16時16分16秒 | 政治

 日本が果たし得る『民主化支援』の在り方について、このブログでは再三問題提起をしてきました。具体的なアプローチとして、カンボジアの選挙支援に長年関わった経験から、『カンボジアにおける有権者登録の電子化』にターゲットを絞り、日本、カンボジア双方の関係者、政策決定者に説得を続けました。

 今回、カンボジア選挙委員会(NEC)が行う選挙人名簿のホストコンピューターを日本が管理することが決まり、私の提案が実現することになりました。

 昨年11月、カンボジアでの事業展開について調査に行った際、在カンボジア大使からこの件の進捗について報告を受けました。12月には詳細をヒアリングするためカンボジアに出張。実施機関であるJICA、カンボジア内務省、そして自由公正な選挙の実施について意見交換を続けてきた最大野党救国党を訪問。それぞれの責任者からヒアリングを行った結果、この支援の今後の方向性について明らかになりました。

 具体的には、内務省から国民データの提供を受けて選挙管理委員会が選挙人登録カードを作成します。独自のテータベースを構築する選挙管理委員会(NEC)のメインサーバーの技術的支援を日本が担当します。郡、およびコミューンにおける端末コンピュータでの登録についてはEUが支援を担当する予定です。

 今、内務省はオーストラリア、ユニセフ、そしてノルウェーのNorway Registers Development ASという民間会社のサポートを受けて、国民IDカードの電子化を推進しています。国家戦略10年計画として国民情報のIT化を進めています。この情報をもとに、内務省からは独立した組織である選挙管理委員会が選挙人登録カードを作るのです。

 実は内務省は政権中枢に直結している省庁であり、カンボジア国民の中には内務省が担当するのでは信頼できないとの根強い声もありました。そんな声に基づき、私は当初、内務省が行う国民IDの電子化プロセスを日本が取りに行くべきと提案していました。あるいは、国民ひとりひとりの有権者登録を選挙管理委員会が行い、そのデータを内務省と共有すべきというのが私の考えでした。

 しかし、内容を細かくヒアリングすると、これまでのような二重投票などの不正が入り込む余地が排除されたものとわかりました。

 選挙人登録カードは内務省管轄化の国民IDを共用するものの、その登録やデータ管理は、選挙管理委員会による完全に独立したものとなります。内務省から提供されるデータはID番号、名前、指紋、名前、性別、生年月日、出生地、現住所となりますが、選挙人登録の際には、ID登録情報の再確認とともに、改めて選挙管理委員会が独自に指紋を登録することになります。また、データは毎年更新されることになっており、同一人物の二重登録と、死亡届の不備による幽霊有権者の二大問題が解決できるとされています。

 正直、外務省とJICAが民主化支援の新しい大きな一歩を踏み出したことには驚きました。私自身、1992年に国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の一員として、カンボジアでの選挙実施に関わって以来、平和構築、特に自由公正な選挙の実施を通した民主化支援をテーマにしてきました。日本政府は、法整備支援や良い統治の支援には熱心に取り組み
成果を挙げてきたと思います。一方、当該国の政治体制の変更に直接つながる抜本的な改革は、内政干渉と受け取られることを恐れ、積極的に踏み込むことを避けてきました。

 私はこれまで11か国で18回にわたって選挙支援や選挙監視を行い、日本政府の関与について詳細に見てきました。日本政府は紛争後の平和構築プロセスにおける選挙支援に関しては、短期間の選挙監視員を派遣したり、投票箱の提供、投票用紙の印刷、夜間の開票作業を行うためのソーラーランタンの提供など物品の提供を行ってきましたが、抜本的な改革に踏み込む意志を示したことはなかっただけに、今回は日本政府としては英断と言えます。

 国連ボランティアとして1年間かけて制憲議会選挙実施のサポートをした5年後、日本政府が派遣する選挙監視員として再び活動したことがあります。当時の南東アジア1課長は、任地に展開する前のブリーフィングで、選挙結果の落とし所はフンセン首相の勝利だと考えていること、フンセン首相が負けて再び混乱が起これば、約束している支援が行えなくなってしまうので困るとの趣旨の発言をされ、驚いたことがあります。同僚だった中田厚仁さんが銃撃によって命を落とすなど、私たちが文字通り命がけで実施した選挙結果を覆した軍事クーデターで前年(1997年)に政権を奪取したフンセン首相。公正な立場での選挙監視で来ているのにその勝利が落とし所とは、政府派遣の選挙監視員の役割は、クーデター政権に日本政府公認のお墨付きを与えることではないのか…!?と、強く憤慨しました。

 ブリーフィングの意図はカンボジア情勢を外務省の立場から解説することであり、考え方としては理解できますが、民主的とは言えない政府であっても、その国の政府与党との関係を大切にしたいという日本政府の姿勢を象徴していると感じました。そして、政治体制を大きく変え得るような改革には決して踏み込まないことは、それ以降も基本姿勢として継続されました。

 では、何が抜本的な改革か? 民主化が進んでいない多くの国において、選挙人登録が政府によって恣意的にコントロールされ、国民から信頼されていないことが一番の問題であり、この問題を解決することです。カンボジアでは、UNTACが実施した1993年の総選挙では、自ら選挙人登録を行ました。私も当時活動していたラタナキリ州ボケオ郡で32の村を全て回ってひとりひとりをヒアリングし、選挙参加資格を確認し、登録証を作成する作業を行いました。



ところが、そのUNTACの情報はその後の選挙には反映されず、1998年以降、選挙のたびに野党が選挙結果を認めない状況が続いています。特に大接戦の末野党が敗れた2013年の総選挙では、多くの国民の怒りに後押しされた野党・救国党が一年にわたって選挙結果を認めず国会をボイコット。国政は大きく停滞しました。

 こんな状況を背景に、今こそ抜本的な制度改革に踏み込むべき!と国会でも再三問題提起しましたが、外務省(本省)からは、全く前向きな意志は伝わりませんでした。従って、今回の決定は、嬉しい驚きでした。

 国民の声が反映される政治・行政システムを機能させることは公平な社会サービスが実施する上での必要条件です。従って、自由公正な選挙を行う基盤作りに日本が本格的に取り組むことには大きな意義があります。欧米諸国が陥りがちな押し付けではなく、領土や資源、軍事的プレゼンスへの野心を持たない日本が、その国の文化、宗教、歴史を踏まえた民主主義の在り方を一緒に考えるスタンスで臨むことができれば、この分野での日本の可能性は大きく広がると確信します。また、IT化の支援によって国民情報の管理に関与することは、今後、様々な持続可能な社会福祉政策や、教育政策を日本がサポートするビジネスモデル構築の可能性にもつながります。

 実はカンボジア、そして紛争国の平和構築、そして民主化支援は、私が国会議員を目指した理由でもあります。従って、カンボジアにおける有権者登録のIT化については、関係者に「またその話題?」と驚かれるほど徹底的に要望しました。カンボジアにも再三行って、この政策決定に影響力のある、与野党のあらゆる有力者、政府関係者、ジャーナリスト、学者、王室の方にまで働きかけを続けました。もちろん日本の国会でも、外務委員会を含め、あらゆる場で問題提起しました。落選してしまったこともあり、制度設計のプロセスを綿密にフォローできなかったのは痛恨でしたが、この決定は日本の民主化支援における大きな新たな一歩につながることを確信しています。また、有権者登録の電子化は、同様の問題を抱えるミャンマーなど多くの国の民主化支援でも展開可能と考えています。


カンボジアの民主化支援について、ブログで報告した主な活動です。

 民主化支援の戦略的実施についての考察-日本にとってもチャンスを生み出すために

 小さな国益追求よりも、地球社会の課題解決に貢献できる日本を目指そうーカンボジアでの選挙制度改革支援

日本が果たし得る紛争仲介外交-カンボジアの選挙制度改革支援を切り口に! 

カンボジア総選挙では野党が躍進! 


 このプロセスと、民主化支援が生み出す可能性については、3月にワシントンで行われる国際シンポジウムでも報告することになっています。



ソー・ケーン副首相兼内務大臣との会談。2時間にも渡って私の提案に耳を傾けてくれました(2014年8月)


プラム・ソカー内務長官と警察大将でもあるマオ・チャンダラーIT総局長に具体的な制度についてヒアリングしました(2015年12月)


ケム・ソカー救国党副党首は、ボイコットを解消し、国会に復帰した当日の忙しい時間を割いて、制度設計の改善点について熱心に話してくれました
(2015年12月)


サム・リャンシー救国党党首(右)も有権者登録の電子化には強い関心を示し、2度にわたって長時間、制度設計について話し合いました。今、8年前の名誉棄損が罪に問われ、逮捕状が出ており帰国できない状況です。政治的策略と国内外の人々が疑問を持つこの問題の早期解決が望まれています。


JICAの安達所長からヒアリングをしています



再び政権交代を可能にした若者との連携―台湾・民進党の躍進を考える

2016年01月28日 16時32分50秒 | 政治

 1月16日、台湾では選挙が行われ、総統選挙では民進党の蔡英文候補がダブルスコアに近い大差で圧勝。立法院(国会)選挙でも、定数113議席のうち民進党が40議席から68議席へと躍進し、8年ぶりの民進党政権へと政権交代が実現した。

 民進党の勝利は、中国への接近を強める国民党・馬英九政権に対して台湾のアイデンティティ、主体性を守ろうと訴えたことが主な要因だったと分析されている。また、2014年3月には、馬政権が中国とのサービス貿易協定について国民への丁寧な説明と国会での十分な議論もなく審議を打ち切り、国会を通そうとしたことに国民の怒りが爆発。学生が立法府を占拠して異議申し立てをした『ひまわり学生運動』を国民が一致結束して応援した。民進党がその思いを受け止める役割を果たしたことも大きな要因だ。

若いハートが変える社会ー台湾の『ひまわり学生運動』から改めて学ぶ 
 
 私は50万人の大集会で運動が頂点に達した3月30日に、民進党前立法委員・陳瑩氏の案内で学生が占拠した立法院周辺を視察し、対話する機会に恵まれた。また、今回の立法委員選挙に際しては、再び立候補した陳瑩氏を激励に行くとともに、選挙運動を見学させて頂き、民心の掴み方を勉強させてもらった。(陳瑩氏は原住民枠で当選)

 その視点で、『どうすれば野党が再び政権交代を実現できるか』台湾の例から学ぶべき点を挙げたいと思う。

1.『ひまわり学生運動』が変えた若者の政治意識と社会の『空気』

 実は今回の選挙の投票率は2012年の74.38%から66.27%と10%近く落ちている。通常は、投票率が落ちるとより強い組織票を持った方が有利だが、台湾のシンクタンク「台湾智庫」の調査によれば、今回の選挙において20~29歳の有権者の投票率は74.5%。そのうち、総統選では、20~29歳の有権者の54.2%が蔡英文候補に投票し、国民党の朱立倫候補には6.4%。30~39歳の投票者のうち、蔡候補には55.5%、朱候補には5.0%だった。若者たちはSNSなどで連絡を取り合い、また広く情報発信をして「帰省して投票しよう」と呼びかけ合って行動した一方、既得権を守る側の中高年層が諦めて投票せず、結果的に投票率は下がったけれど若者票を掴んだ民進党が圧勝する結果になった。若者のエネルギーや明るさ、また純粋さが社会の空気を変え、既得権に染まった古い政党としての国民党を駆逐する力を発揮したと言える。

2.民進党と第三極の選挙協力

 『ひまわり学生運動』の主力になった学生たちは、『時代力量』や、分派した『緑党社会民主党連盟』など、新しい政党を立ち上げた。政策的に近い民進党と協力した政党、そうでない政党があるが、結果的には時代力量が選挙区における候補者調整などの協力を行ったことで、ひまわり学生運動によって燃え上がった『台湾のアイデンティティーを守る』という意識を持った有権者を味方につけることができたように思う。実際には、2014年3月の段階ではひまわり学生運動は民進党とそれほど強く結びついていたわけではない。学生たちは、当時はまだ不人気だった民進党の影が背後に見え隠れすることを望んでいなかったし、民進党関係者も私が知る限り抑制的な行動を取っていた。しかし、反馬政権、反国民党の『国民的合意』は民進党を確実に後押しし、2014年11月29日に行われた地方選挙では民進党が圧勝。今回の躍進に繋がった。

3.カリスマリーダーではない蔡英文氏の人気

 今回の民進党の圧勝は、総統選挙における蔡英文氏の圧倒的人気が立法院選挙の候補者を後押しする結果になった。私が実際に会ったことのあるミャンマーのアウンサンスーチー氏や、ドイツのメルケル首相と比較すると強力なリーダーシップやカリスマ性を持っているわけではない。今回、陳瑩氏の応援に来た蔡英文氏の演説は道路の渋滞などで到着が遅れ聞き逃してしまったが、人々に聞くと学者のような淡々とした演説はあまり面白くなく、支援者を熱狂させる雄弁な政治家ではないようだ。一方、4年前の2012年1月の総統選挙で馬英九総統に惜敗した彼女の敗戦の弁は、大きな感動を与えたと言われている。

「みなさんは泣いてもいいが、落胆してはいけない。悲しんでもいいが、諦めてもいけない。明日からは、また以前の4年間と同じように勇気と希望を持つのです」

 淡々と、しかし確かな信念と強い意志をにじませて語ったとされる演説から、彼女の聡明さや誠実な人柄が広く伝わった。国民の覚醒によって民進党に寄せられたリードを守り切るには彼女のような守りに強いリーダーの方が良かったのかもしれない。

4.楽しい選挙運動が持つエネルギー

 ひまわり学生運動や陳瑩氏の選挙活動に参加して感じたこと、それは活動が楽しく活気にあふれ、清廉さが強く感じられたことだ。ひまわり学生運動では世界各国のデモと同じくレ・ミゼラブルの『民衆の歌』が歌われ、歌手であり、国会で歌を歌って質問したことでも知られる陳瑩氏の歌に原住民を中心とした支援者は喜び、みんなで歌って、踊り高揚感を共有する雰囲気だった。

 若い人々にとって『政治活動が楽しい』というのは重要な要素であり、また彼らが参加することで、若々しいエネルギーが生まれる。国民党に比較すれば若い民進党の候補者が彼らと協力することで生み出したエネルギーが国民にはより魅力的なものに映ったようだ。

原住民出身の候補者・陳瑩氏の歌に合わせて踊る人々 

5.では、日本の野党はどうすればいいのか?

 率直な私の感想を言えば、民進党は自分たちの魅力や政策で政権交代を実現したというより、国民の中国に対する警戒心、稀代の不人気政権であった国民党・馬英九政権の失策、学生たちの運動のエネルギーを結果的に上手く生かしたことが大きいと思う。

 今、安倍政権と自民党の支持率は、いずれも安定し、野党を圧倒している。しかし、私の実感では、よりマシな政権、政党として消極的に支持しているだけであり、野党がだらしないから相対的に高いだけだと思う。実際に、安倍政権の政策は掟破りの中身のものを強引に実行したものが多い。私たちの年金を、株価を釣り上げるために投機的に使うGPIFなどはその典型である。特定秘密保護法や安全保障法制を強行採決したプロセスは、国民から総スカンを喰った馬政権の『両岸サービス協定』のプロセスとそっくりだ。

 我々に必要なことは、自民党には決してできない明確な対立軸を示すことだ。特定の団体や、大企業の利益を守るためではなく、あくまで国民の側に立つ政党であること、若者の可能性を引き出す政党であること、そして、より持続可能性のある政策を実行することを市民社会と共有し、基本的な考えを共有できる野党同士もできる限りの協力をすることではないか。

 野球に例えると、やみくもに一発逆転のホームランを狙うのではなく、信頼という名の実力を少しずつでも高めていくことだ。敵失や四球でもいい、ランナーを出し、進めることによってチャンスは巡ってくる。そこでしっかりタイムリーヒットを打つこと。それが可能かどうかは、結局は日頃の地道な努力の積み重ねに尽きるのではと思う。

 以上は、あくまで今回の台湾の政権交代から学んだことに特化した報告と提案である。



会場に到着した陳瑩氏を迎える支援者たち


演説をする陳瑩氏


陳瑩氏を支援する原住民の方々と


ひまわり学生運動。雨の中、粘り強い活動を続ける学生たち(2014年3月30日)


医学書を読みながらデモに参加していた学生にインタビュー