博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『興亡の世界史12 インカとスペイン 帝国の交錯』

2008年07月22日 | 世界史書籍
網野徹哉『興亡の世界史12 インカとスペイン 帝国の交錯』(講談社、2008年5月)

インカ帝国の崩壊だけではなく、当時のスペインの状況も合わせて見てみようという構成になっていますが、面白いのはやっぱりインカ帝国の社会や制度について論じた部分だったり(^^;)

特に興味深かったのはインカ王の系譜に関する話です。実はインカ王の系譜やそれにまつわる伝承が固定化したのはスペインによる征服の後のことであり、スペイン側が系譜・伝承を現地人からの聞き取りによってまとめようとした際に、インカの王族と称する人々が自分達の権益を確保するための根拠として自分達に有利な伝承を作り上げ、スペイン側に提供したと考えられるとのこと。ですからこれまで通説とされてきた王朝史を必ずしも歴史的な事実として見ることが出来ないということになります。

先日紹介した落合淳思『甲骨文字に歴史をよむ』では、殷王の系譜も『史記』殷本紀に見えるような形にまとめられたのは殷王朝滅亡後で、殷王の系譜は時期によって変動したということなんで、こうした問題は古今東西どの王朝にもつきまとうものかもしれません。

あと気になったのはマチュ・ピチュの性質についてです。マチュ・ピチュはこれまで何となくインカ帝国滅亡後の、インカ族による抵抗の拠点となった場所だとされてきましたが、近年では第9代パチャクティ王及びその子孫の王族たちのための私領だったのではないかと考えられているとのことです。
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