![天皇と儒教思想 伝統はいかに創られたのか? (光文社新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41wLY1KsYHL._SL120_.jpg)
お田植えと養蚕から始まり、祈年祭などの祭祀、誰を天皇として認め、代数をどうカウントするかという皇統、太陽暦の導入、そして昨今問題になっている元号と、天皇にまつわる伝統の多くが近代に創られたものであったということと、その「創られた伝統」の根源に儒教思想があるということを見ていく。「儒教に支配されている」のは悲劇かもしれないが、それを自覚できないのは喜劇ではないか、そんなことを考えさせられた。
読了日:06月04日 著者:小島毅
![日本人はなぜ存在するか (集英社文庫 よ 31-1)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41RYxgptR%2BL._SL120_.jpg)
日本人は集団的であるとされている、そういう評価を真に受けて日本人が本当に集団主義的に振る舞いはじめるというような「再帰性」をキーワードとして見ていく日本人論だが、それと同時に哲学、社会学、歴史学、カルチュラル・スタディーズなど、人文科学系の諸分野の良い導入にもなっている。『中国化する日本』は発想の奇抜さの陰で綿密さを犠牲にしているが、こちらは堅実な論調になっているように思う。
読了日:06月06日 著者:與那覇 潤
![初期室町幕府研究の最前線 ここまでわかった南北朝期の幕府体制 (歴史新書y)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/510U1OznqlL._SL120_.jpg)
第一部では尊氏と直義による「二頭政治論」など佐藤進一の学説を検証し、第三部では今谷明による足利義満の位置づけを検証するといった具合に、研究の現状の提示とともに、これまで一般の読者にも広く受け入れられてきた大家の学説の克服という性質が強い。本を書く側からすると、こんなニッチな分野(失礼!)で一般書でここまで突っ込んだ議論ができているのが羨ましい。
読了日:06月09日 著者:
![シリーズ<本と日本史>2 遣唐使と外交神話 『吉備大臣入唐絵巻』を読む (集英社新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51Y5yTInVHL._SL120_.jpg)
副題に「『吉備大臣入唐絵巻』を読む」とあるが、絵巻はあくまで遣唐使にまつわる資料のひとつという扱い。阿倍仲麻呂・吉備真備らの話と新羅の崔致遠の話や、あるいは現代の香港・パリで消えた花嫁の都市伝説とを対比し、海外に出た者のイメージを追ったり、彼らの話を外交にまつわる起源としての「外交神話」と位置づける視点が面白い。
読了日:06月11日 著者:小峯 和明
![人はなぜ戦うのか - 考古学からみた戦争 (中公文庫)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51amSKit8ZL._SL120_.jpg)
主に考古学の知見から、日本古代の戦争のあり方を探る。日本の古代はアジア的な専制国家よりは、ポリスが林立し、かつそれにも関わらず人々が生活様式などの面で一体性を持っていた古代ギリシアに似ているという話や、武器の実用性・機能性よりは装飾性を増す方向で発達した期間が長く、騎馬戦対のような新しい軍事技術の導入には消極的な態度を取ったようで、そこから日本人の軍事思想に対する保守性が読み取れるのではないかという話が面白い。
読了日:06月13日 著者:松木 武彦
![漢倭奴国王から日本国天皇へ――国号「日本」と称号「天皇」の誕生 (京大人文研東方学叢書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41s0wiRYVDL._SL120_.jpg)
中国学者の立場からの日本・天皇号に対する観点を提示するということだが、倭国=倭奴(わど)国説などいくつかの説を除いては、一般的な話を手堅くまとめていという感じ。白村江の戦いは日本側にとっては唐との全面戦争であるが、唐側にとってはあくまで百済の残党との戦いであり、両者の認識にずれがあるという話は面白い。ただ、昨今流行の「東部ユーラシア」の観点からの外交論と比べると、全般的に物足りなさを感じる。
読了日:06月15日 著者:冨谷 至
![歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51durvBnqWL._SL120_.jpg)
本書で用いられている「自然実験」とは自然科学での操作的実験とは異なり、類似した条件設定をもつ過去の事象を比較する研究法で、社会科学の分野ではよく用いられているとのこと。俎上に挙げられているのは人類学的な題材ばかりなのかと思いきや、第7章のフランス革命の拡大やナポレオンの侵略がドイツ各地の都市化や経済成長に与えた影響のようなテーマも含まれている。本書の論考は試論的な性質が強いが、ほかの題材ではどのようなアプローチが可能か考えさせるようなものになっている。
読了日:06月18日 著者:ジャレド・ダイアモンド,Jared Diamond,ジェイムズ・A・ロビンソン,James A. Robinson
![「神国」日本 記紀から中世、そしてナショナリズムへ (講談社学術文庫)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51GiGn9FrgL._SL120_.jpg)
中世日本の「神国」思想とは、日本は仏・菩薩が垂迹した神が国土を守っており、仏・菩薩が直接守る天竺・震旦といった「仏国」とは異なるというもので、他国への優越性ではなく特異性を主張したものであるという主張を軸に、鎌倉新仏教の弾圧や蒙古襲来について議論を進める。この著者の見立てが正しいとすれば、「ナンバーワン(=優越性)よりオンリーワン(=特異性)」という発想が案外日本の伝統に則っているのではないかということになりそうだが…
読了日:06月24日 著者:佐藤 弘夫
![帝国議会―西洋の衝撃から誕生までの格闘 (中公新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51aFuRPNcbL._SL120_.jpg)
幕末の「公議」の主張から第一議会閉会までの帝国議会開設史。大日本帝国憲法に議会の役割として「協賛」の語が用いられた経緯、元老院の果たした役割、そして当初は元老院がスライドして上院となると見られていたが、結局閉院に至ったという経緯などを面白く読んだ。
読了日:06月25日 著者:久保田 哲
![図説 室町幕府](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/61-8c%2BsLlnL._SL120_.jpg)
将軍・管領・鎌倉府などの役職・機構を解説する第1部、政策・制度について扱う第2部、観応の擾乱や応仁・文明の乱など各時期の合戦・政争を紹介する第3部の三部構成。簡潔かつ一定の水準を保った内容で、室町幕府を理解するうえで良い解説書となっている。人物伝に頼らず機構や制度の解説に徹する構成は他の地域・時代史の入門書の優れたフォーマットになりそう。
読了日:06月27日 著者:丸山裕之
![知の古典は誘惑する (岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51Ml7jjtG5L._SL120_.jpg)
東西の古典をその分野の研究者が紹介するという趣旨だが、知名度のある『古事記』『論語』『老子』よりも、中村元による和訳がわかりやすすぎて批判されたという『真理のことば(ダンマパダ)』、挿話の中に挿話が入るという形式が現代インド人のおしゃべりにそっくりという『ヒトーパデーシャ』、書物の形態から説き起こす『トーラー』、ソクラテスやデカルトへの批判の比重が大きい『ゴルギアス』『方法序説』の紹介のしかたが興味を引くものになっている。
読了日:06月28日 著者: