博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2021年2月に読んだ本

2021年03月01日 | 読書メーター
中国史学入門 (研文選書)中国史学入門 (研文選書)感想
正史をはじめとする史書、経学など旧時代の学問の展開、近代的な考古学と文献史学との結合など、中国史学を学ぶうえで一通り知っておくべき要諦をまとめてくれている。『左伝』の成立に関する見解や「中華民族」に関する事項など、問題点も内包されているが……
読了日:02月01日 著者:

暗殺の幕末維新史-桜田門外の変から大久保利通暗殺まで (中公新書)暗殺の幕末維新史-桜田門外の変から大久保利通暗殺まで (中公新書)感想
桜田門外の変から紀尾井坂の変まで幕末維新の暗殺総ざらいという感じの内容だが、暗殺の政治的な評価、特に第六章で触れられている井伊直弼の顕彰とその反発をめぐる話が面白い。それが事実なのかどうか考えず暗殺に突っ走る刺客たちの姿は、同じ中公新書から出ている『民衆暴力』の問題意識ともつながる。本書の最後に触れられているように、若年の頃にそうした暗殺に関与し、さして反省すらしていなかった伊藤博文の末路には因果応報めいたものを感じる。
読了日:02月03日 著者:一坂 太郎

社会を知るためには (ちくまプリマー新書)社会を知るためには (ちくまプリマー新書)感想
社会学というか、社会学も含めた社会科学の世界に入るための導論。「緩さ」と「意図せざる結果」がキーワードとなっており、それに関連して陰謀論も俎上に挙げられいる。社会科学研究者は社会についての医者のようなものということだが、人文科学に対してその実践性が社会科学の特徴なのかととも思った。
読了日:02月05日 著者:筒井淳也

高校生からの韓国語入門 (ちくまプリマー新書)高校生からの韓国語入門 (ちくまプリマー新書)感想
ハングルの読み方から初歩的な文法、基本語彙、日本語との類似点と違いまで、韓国語がどんな言語なのかをザックリと教えてくれる。今年韓国に行く予定(だけは)あるのでハングルの読み方や片言の挨拶ぐらいは知りたいと思って読んでみたが、それ以上の役割を果たしてくれそう。
読了日:02月06日 著者:稲川 右樹

ウィリアム・アダムス: 家康に愛された男・三浦按針 (ちくま新書, 1552)ウィリアム・アダムス: 家康に愛された男・三浦按針 (ちくま新書, 1552)感想
ウィリアム・アダムスが日本にやってくる前の前半生も含めて、その生涯と歴史的な役割を描き出す。イギリス、オランダ側との関係の逐次的な変化や、家康の死後に幕府から冷遇されていくさまをじっくりと描いているのが面白い。本書を読むと家康が外交面で大変な見識を具えていたように見えるのだが、アダムス側あるいはオランダ側の史料による過大評価という可能性はないのだろうかとやや疑問に感じた。
読了日:02月07日 著者:フレデリック・クレインス

現代中国の秘密結社 -マフィア、政党、カルトの興亡史 (中公新書ラクレ, 716)現代中国の秘密結社 -マフィア、政党、カルトの興亡史 (中公新書ラクレ, 716)感想
歴史的な背景とともに探る現代中国の秘密結社。会党・幇会篇と邪教篇の二部構成。洪門が民主党派のひとつ中国致公党という形で取り込まれているという話、外売の配達員が結成するのが近代的な労組ではなく伝統的な結社になってしまうという話、中国政府の宗教弾圧が国民のキリスト教の教義への理解を不十分なものにしてしまい、却ってカルトの布教に有利な状況を作ることにつながっているという指摘が面白い。現代中国を理解するうえでなぜ秘密結社のことを知る必要があるのかというオチというか締めの言葉もよい。
読了日:02月10日 著者:安田 峰俊

『論語』 孔子の言葉はいかにつくられたか (講談社選書メチエ)『論語』 孔子の言葉はいかにつくられたか (講談社選書メチエ)感想
『論語』はどう読まれてきたかの歴史。注釈を中心とした解釈史がメインなのかと思ったら、定州漢簡や海昏侯墓出土竹簡なども使用しつつ『論語』成立史に意外と紙幅を割いている。朱熹の新注を「あまりにも自らの体系に固執しながら、古典を解釈する」と批判し、古注にシンパシーを寄せるが、「孔子の本来の教え」は古注ともやや遠いところにあるのではないだろうか。
読了日:02月13日 著者:渡邉 義浩

第三帝国 ある独裁の歴史 (角川新書)第三帝国 ある独裁の歴史 (角川新書)感想
第三帝国の成立から崩壊までを教科書的、かつ簡潔にまとめている。社会民主党よりはヒトラーをという思惑から政権首班に選ばれ、ナチの敵対者もヒトラーは早晩政権に行き詰まって失敗するだろうと甘く見ていたこと、今でも喧伝されがちなナチ体制による経済的成功も、戦争が起きることによって初めて割に合う、負債による軍需経済が成功の要因であったこと、更には戦争が始まると、密かに国民の貯蓄が戦時資金調達に利用されたことなどをまとめる。
読了日:02月14日 著者:ウルリヒ・ヘルベルト

不老不死: 仙人の誕生と神仙術 (志学社選書, 003)不老不死: 仙人の誕生と神仙術 (志学社選書, 003)感想
『抱朴子』『列仙伝』などの伝世文献だけではなく馬王堆漢墓帛書なども駆使しつつ解説。読みどころは丹薬、導引、房中術などについて解説した第4・5章。丹砂の服用が血を飲むことの代用ではないかとか、『論語』の老彭から老子・彭祖が分かれ出たのではないかという議論が面白い。仙人・神仙術に関するわかりやすい入門書となっている。
読了日:02月16日 著者:大形 徹

中国の歴史8 疾駆する草原の征服者 遼 西夏 金 元 (講談社学術文庫)中国の歴史8 疾駆する草原の征服者 遼 西夏 金 元 (講談社学術文庫)感想
今となっては古松崇志『シリーズ中国の歴史3 草原の制覇』が完全にこちらの上位互換になってしまっている。契丹に関係する部分が多くを占めるという構成も同様。ただ第四章の現地調査記は、この手の通史としては異例の内容ながら今読んでも面白い。文庫版あとがき等、その後の研究に関するコメントがないのも物足りない。
読了日:02月18日 著者:杉山 正明

〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く (講談社学術文庫)〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く (講談社学術文庫)感想
前近代のムスリム自身の世界認識、近代ヨーロッパでの「イスラーム世界」認識、そして近現代日本での認識と、三段階を経て我々日本人のイメージする「イスラーム世界」認識がどのように形成されていったのかを追う。三段階目では東洋史あるいはアジア史という歴史学の枠組みについても問題にしている。補章では「イスラーム国」について取り上げている。「イスラーム世界」という枠組み自体がある種のバイアスという指摘は、『中東政治入門』の論旨とも重なってくるだろうか。
読了日:02月20日 著者:羽田 正

ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)感想
ヒトラーは選挙で首相になった、ナチ党は世論の支持によって政権を得たと単純に評価できるのか?ヒトラーの経済政策によりドイツは恐慌から脱したと手放しで評価してよいか?アウトバーンの建設についてはどうか?といった具合に、ヒトラーやナチ党について肯定的に評価されがちなポイントにツッコミを入れている。伝統的な保守派・右派の力がヒトラー政権を生み出す地盤となったと見ると、往時のドイツの状況は今の日本にとってなお大きな教訓となり得るのではないか。
読了日:02月22日 著者:石田 勇治

考古学はどんな学問か (ちくま学芸文庫)考古学はどんな学問か (ちくま学芸文庫)感想
標題作の第Ⅰ章で、文字通り考古学はどんな学問か、考古学ではどういう発想をするのかをザックリ語ってくれる。冒頭のトイレの種類と配置の例えが秀逸。実の所考古学にまつわるエッセー集という趣きだが、縄文時代の食料事情が意外と安定していたのではないかという評価、縄文土器から見出せる縄文人の数に対する意識、アメリカで先史考古学が人類学の中で扱われる背景などを面白く読んだ。
読了日:02月26日 著者:鈴木 公雄


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