永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(15)

2008年04月11日 | Weblog
【夕顔】の巻 (1)
 同じ夏の話しです。
「六條わたりの御忍びありきの頃、内裏より罷で給ふ中宿りに、大貳の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五條なる家尋ねておはしたり」
 源氏が六條御息所に忍んで通われるころ、内裏からの途中の休み所として、大貳という源氏の乳母の家がありました。ひどく煩って今は尼になっていますので、見舞おうと五條に尋ねてきました。
 
 大貳の隣家にすむ女主人が、どのような気持ちからか、扇に書いておくったうた
「心あてにそれかとぞ見る白露のひかりそへたる夕顔の花」
当て推量に源氏の君かと思ったことです。白露が光を一入加えた夕顔の花のような美しいあなた様を

源氏のうた「寄りてこそそれかとも見めたそがれにほのぼの見つる花の夕顔」
もっと近寄って見てこそ、その人とも分かろう。夕暮れ時にぼんやり見た夕顔の花の正体は

作者の挿入 
源氏は、自分を目指して歌をよみかける女の心を捨て置けず、例によってこの方面にまめなご性分と見えまして…
 源氏はこの女性の素性を惟光に調べさせ、通うようになります。
源氏が17歳の夏から秋にかけての頃です。

★六條御息所(ろくじょうのみやすんどころ)=桐壺帝の兄?(故前坊)の妃で六條に住んで居ます。未亡人です。源氏とどのように縁を結ばれたのかは、例のごとく高貴な方なので書かれていません。24歳。
★大貳(だいに)=源氏の乳母で、惟光の母。源氏と惟光は乳兄弟。惟光は常に源氏の付き人として、恋の道の無理難題にも身を粉にして働きます。
★夕顔は19歳。最後まで素性がわからず、遊女か?という解説書もあります。階級は下で、源氏は自分も身分を隠して逢います。
ではまた。

源氏物語を読んできて(14)

2008年04月11日 | Weblog
4/11
【空蝉】の巻 
 源氏は空蝉がつれない仕打ちをするので、なおのこと執拗に執着します。ある日、小君に手引きをさせ、中川の家に忍び入り、空蝉と軒端萩(紀伊守の妹)を垣間見ます。
 
  男たちは、思いを遂げる手段として、気心の知れた女房(女房と男女関係になっていることが多い)や、このように小者を使い、夜の闇に紛れて忍び込むのです。女たちは、どんなに身を固く守ろうとも、身内からも絶えず危険にさらされていたのです。
女房の手引きは、これからも、この物語の随所にほのめかされ、高貴な姫君たちの運命を思わぬ方向へ持っていきます。

源氏の様子に戻りましょう。
二人の女たちは夜更けまで碁を打っています。忍び入った透き間から源氏は空蝉の横顔を眺めます。
「目すこし腫れたる心地して、鼻などもあざやかなる所なうねびれて、にほわしき所も見えず」
目は腫れぼったくて、顔も目立つところがなく年寄りじみて、つやつやしい所もなく

じっくりと観察しています。

寝入ったとみて、空蝉と軒端荻の寝所に押し入ります。空蝉は、内心源氏との先夜が忘れられず、なかなか眠れずにいました。
と、
「かかるけはいの、いとかうぼしくうちにほふに、顔をもたげたるに、単衣うちかけたる几帳の透き間に、暗けれどうち身じろぎよるけはひ、いとしるし。あさましく覚えて、ともかくも思ひ分れず、やおら起き出でて、生絹(すずし)なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり」
衣ずれなどの音がして薫物の香が匂ってくるので、顔を上げてみると、単衣の帷子を几帳に引き上げてあるその透き間から、源氏が、暗い中をにじり寄ってくる様子がはっきりと分かる。空蝉は恐ろしく、どうして良いか分からず、しかし咄嗟に単衣を一つ着て逃げだしました。
空蝉の名は、ここからきているのですね。
 源氏は、そこに寝ていた軒端荻を空蝉と間違えてしかたなく、一夜を共にします。このあたり、大層滑稽です。帰ってからも源氏は、あんなに強情な女はめったにいない、癪にさわるとますます恨めしく思うのでした。

 空蝉は源氏を拒み続けるものの、人妻でなかった昔なら…とこらえきれずに、畳紙に書き付けた歌は、
「うつせみの羽におく露の木がくれてしのびしのびにぬるる袖かな」
蝉の羽に置く露が木にかくれて見えないように、私の袖はあなたを思って忍び忍びに涙にぬれることです。
身の程をわきまえている空蝉はこの後も源氏に逢うことをしません。

源氏が17歳の夏のことでした。ではまた。