永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(作者・紫式部)

2008年04月28日 | Weblog
作者について

 源氏物語の作者は、古くから紫式部ということになっている。しかし、これについては異説がないわけではなかった。 源氏物語の小説としての構成形成は、長編的な巻々と、短編的な巻々とから成っている。そして源氏物語の主流をなすものは長編的な巻々である。
 更級日記には、すでに短編的な性格の夕顔の巻と、長編的な性格の宇治の巻々とを共に認め、源氏物語の統一的な組織内のものとして取り扱っている。今主題・構想の点から見ても、また最も作者の本質を端的に顕示する語彙や文体の点からみても、式部以外の作家、もっと厳密にいうならば紫式部日記の筆者以外の作家、例えば、枕草子の清少納言、和泉式部集の作者、栄華物語の作者に擬せられる赤染衛門、その他の人々の所為とすることはできない。
  以上のように源氏物語は紫式部の作と断定して差し支えない。


紫式部の略歴(その1)

 紫式部は初めは籐式部と呼ばれたであろう。「籐」は藤原氏の略称で、式部は、父か兄が式部丞であったのによるものであろう。籐式部が紫式部と呼ばれるようになったのは、源氏物語中の若紫の巻が特にすぐれていたためとも、一条天皇が御乳母子の式部を上東門院に参らせられる時、わがゆかりの者ゆえ、あはれと思し召せと宣うたゆえとも、また、籐式部の名が幽玄でないとて、藤の花のゆかりに、紫の字に改めたとも諸説がある。私見では、この「紫」は、物語の女主人公の藤壺の名に関係があると考える。
 紫の上は「紫のゆかりの君」の意であって、若紫の巻の言辞の歌、「手につみていつしかも見む紫の根に通ひける野辺の若草」による。この「紫」は元来藤壺を指す。藤壺のゆかりの君というべきを、紫のゆかりの君と言ったのである。紫のゆかりという語は、源氏物語の随所にあらわれるが、すべて藤壺の血縁なる人の意に用いられ、常に紫の上を指している。
 そこで籐式部が紫式部と呼ばれるようになったのは、この藤壺のゆかり即ち紫のゆかりの物語りに由来すると思う。

 紫式部日記に藤原公任(きんとう)が、式部を探して「このわたりに若紫や侍ふ」と言ったと見えているのも、恐らく「紫の物語」、さらに言えば「若紫の物語の作者」という意味を象徴的に表現しているに相違ないと思われる。
(日本古典全書 池田亀鑑校注より)

源氏物語を読んできて(33)

2008年04月28日 | Weblog
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【紅葉賀】の巻 (4)

 紫の上は、源氏が御殿に居られながら、こちらに直ぐに来られないので、拗ねてむかむかしていらっしゃったのか、
源氏が「こちや」――こちらへいらっしゃい――
とお声をかけでも、知らん顔で、「入りぬるいその」(万葉集のうた)と、ただ口ずさんでおられるののが「いみじうざれてうつくし」――ひどく女っぽくて美しい――
源氏は「あなにく。かかる事口慣れ給ひにけりな」
――なんと憎らしい、こんなことが言えるようになったのですね――

 箏の琴を取って、いつものように笛を吹きつつお教えになり、また一緒にかき鳴らしていらっしゃいます。紫の上は、何事にも上達が早く、賢くていらっしゃいます。
源氏が、さあ、そろそろ…と言って例のごとく、夜の外出をされようとしますと、紫の上は心細そうにうつ伏してしまわれました。

 源氏は「外なるほどは恋しくやはある」
――私が留守にすると恋しいですか――
などと言って、この夜は「出でずなりぬ」
――今夜はどこにも行かないことにする――と言いますと、ご機嫌が直るのでした。

 源氏は、こんな風に御自邸に居られることの多いのを、左大臣方へ申し上げる人が居たようで、
左大臣邸の女房たちの話
「誰でしょう。もってのほかですこと。今までそんな女が居るとは聞いていませんし。殿を側に引きつけて、ふざけてるなんて、どうせ上品で奥ゆかしい人ではないでしょう。宮中でちょっと見かけて懇意になった女を、お隠しになっているのでしょう。なんでもまだ
物心つかぬおぼこだとのことですよ」

 帝の耳にも入られて
帝「いとほしく大臣の思ひ嘆かるなること……、おふなおふなかくわざとものしたる心を、……などかさ情けなくはもてなすなるぞ」
――気の毒にも、左大臣が嘆いているとのことだ。まだ物心つかぬ頃から、精一杯こうしてわざわざ世話をしてくれたものを、それ位のことが分からぬ年頃でもあるまいに、なぜそう無情な振る舞いをするのだ――

一方で帝は「心ゆかぬなめり、といとほしく思召す」
――さては、満足ゆかぬ夫婦仲らしい、気の毒だともお思いになるのでした。――
「この辺にいる女房にせよ、又方々の女達にせよ、素振りも評判もないようなのに、一体どこを遊び歩いてこんなに人にうらまれるのか」と言われます。 

 源氏は恐れ入った様子で、ご返事もおできになれない。

ではまた。