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【夕顔】の巻 (3)
源氏は忍び遊びの末の夕顔の突然の死に動転します。頼りの惟光を捜しますが、
「ありか定めぬものにて」――惟光も居場所定まらぬ浮気者で、――
まんじりともせず夜を明かします。
「かかる筋におふけなくあるまじき心の報いに、かく来し方行く末の例となりぬべき事はあるなめり」
――この方面に不謹慎でいる報いに(藤壺への恋慕)、過去将来の話の種に必ずなりそうな事が起こるのだ。――
実際起こってしまったことは隠しきれないだろうとか、宮中や、口やかましい京童のうわさにされるだろうとか、これからの自分の身が心配になります。
やがて惟光が来て、こっそりと目立たないように明け方夕顔を筵に押し包んで東山の知り合いの家に移します。
源氏は二条院に帰ったものの、悲しみのあまり起きあがることも出来ずにいるので、人々は不審がります。夕顔のことは伏せつつも、東山にて葬送をおこなったあと、二十日ばかり患います。源氏はこの巻ではよく泣きます。
夕顔の世話をしていた右近と話をする中で、夕顔の正体があきらかにされてきます。
「頭中将なむ、まだ少将にものし給ひし時、見初め奉らせ給ひて、三年ばかりは志ある様に通ひ給ひしを、去年の秋頃、かの右の大殿より、いと恐ろしき事の聞え参で来しに、物おじを理なくし給ひし御心に…」
――頭中将がまだ少将でいらした時に、見初められて、三年ほどは熱心にお通いでしたが、去年の秋頃、あの右大臣家の四の宮(頭中将の正室)から、恐ろしい脅迫が参りまして、極端に恐怖なさるご性分でしたので…――
隠れた方角が悪かったのでしょう、このような有様になるとは…と二人は嘆きつつ思い出を語るのでした。
源氏はここで、あの「雨夜の品定め」で頭中将がしんみりと語った内気な女とは、この人だったのかと思い当たります。娘がいたはずだがどこに行ったのか…と嘆いていた頭中将を知りながら、右近に
「さて何処にぞ。人にはさとは知らせで、われに得させよ。」
――さて、その娘はどこにいるのか、人にはそうとは知らせないで、養女として私にくれないか――
源氏は右近を自邸に引き取り奉公させます。右近は思いがけなく上流階級での奉公勤めに喜びます。
おそらく源氏は、右近を愛人にしたことだと思われます。物語には描かれていませんが、女房や下女は、ものの数に入らないのですから。
源氏は頭中将と知っていてこのように意地が悪いです。この後を読んでいくと、この時代は「娘」は大切な出世の道具でした。美しく、教養を身につけさせて、ゆくゆくは入内させ、外戚になるという栄誉に預るために娘や姫に磨きをかけます。
源氏はそこまで見越していて、頭中将には特に内密にしていきます。
紫式部も、一条天皇の中宮彰子に仕え、彰子に白氏文集などを進講したようです。
ではまた。
【夕顔】の巻 (3)
源氏は忍び遊びの末の夕顔の突然の死に動転します。頼りの惟光を捜しますが、
「ありか定めぬものにて」――惟光も居場所定まらぬ浮気者で、――
まんじりともせず夜を明かします。
「かかる筋におふけなくあるまじき心の報いに、かく来し方行く末の例となりぬべき事はあるなめり」
――この方面に不謹慎でいる報いに(藤壺への恋慕)、過去将来の話の種に必ずなりそうな事が起こるのだ。――
実際起こってしまったことは隠しきれないだろうとか、宮中や、口やかましい京童のうわさにされるだろうとか、これからの自分の身が心配になります。
やがて惟光が来て、こっそりと目立たないように明け方夕顔を筵に押し包んで東山の知り合いの家に移します。
源氏は二条院に帰ったものの、悲しみのあまり起きあがることも出来ずにいるので、人々は不審がります。夕顔のことは伏せつつも、東山にて葬送をおこなったあと、二十日ばかり患います。源氏はこの巻ではよく泣きます。
夕顔の世話をしていた右近と話をする中で、夕顔の正体があきらかにされてきます。
「頭中将なむ、まだ少将にものし給ひし時、見初め奉らせ給ひて、三年ばかりは志ある様に通ひ給ひしを、去年の秋頃、かの右の大殿より、いと恐ろしき事の聞え参で来しに、物おじを理なくし給ひし御心に…」
――頭中将がまだ少将でいらした時に、見初められて、三年ほどは熱心にお通いでしたが、去年の秋頃、あの右大臣家の四の宮(頭中将の正室)から、恐ろしい脅迫が参りまして、極端に恐怖なさるご性分でしたので…――
隠れた方角が悪かったのでしょう、このような有様になるとは…と二人は嘆きつつ思い出を語るのでした。
源氏はここで、あの「雨夜の品定め」で頭中将がしんみりと語った内気な女とは、この人だったのかと思い当たります。娘がいたはずだがどこに行ったのか…と嘆いていた頭中将を知りながら、右近に
「さて何処にぞ。人にはさとは知らせで、われに得させよ。」
――さて、その娘はどこにいるのか、人にはそうとは知らせないで、養女として私にくれないか――
源氏は右近を自邸に引き取り奉公させます。右近は思いがけなく上流階級での奉公勤めに喜びます。
おそらく源氏は、右近を愛人にしたことだと思われます。物語には描かれていませんが、女房や下女は、ものの数に入らないのですから。
源氏は頭中将と知っていてこのように意地が悪いです。この後を読んでいくと、この時代は「娘」は大切な出世の道具でした。美しく、教養を身につけさせて、ゆくゆくは入内させ、外戚になるという栄誉に預るために娘や姫に磨きをかけます。
源氏はそこまで見越していて、頭中将には特に内密にしていきます。
紫式部も、一条天皇の中宮彰子に仕え、彰子に白氏文集などを進講したようです。
ではまた。