永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(28)

2008年04月23日 | Weblog
4/23  
【末摘花】の巻 (3)

 源氏は、今しがた尋ねて来たように戸を叩きます。
侍女たちは「そそや」――それ、お客様です――といってお入れになる。
源氏の目には、なんとも今までに見たこともない家の中の様子で、女房たちといえば、変に田舎びた女ばかりだと思うのでした。

この夜は、迷惑にも雪がひっきりなしに降っていました。

  ようやく空が明け初めた頃、源氏は自ら格子戸を開けて庭の雪をごらんになります。このまま振り捨てて帰るのも気の毒なので、末摘花に、
「おかしき程の空も見給へ。つきせぬ御心の隔てこそ理なけれ」
――雪の後の趣ある夜明けの空でもごらんなさい。いつまでも他人行儀は困ったものだ――
 年老いた侍女たちも
「はや出でさせ給へ。あじきなし。心うつくしきこそ」
――早くいらっしゃいませ、尻込みなさるのはつまらないことです。女は素直なのが一番ですよ――

 末摘花は承知しないわけにはいかず、にじり出て来られた。源氏は外を眺めるようにして、見ない振りをしてはいらっしゃいましたが、横目使いでしっかり見られたのは、普通ではありませんでした。

 作者のことば「そうして打ち解けてみて、少しでも見勝りするなら、うれしかろうに、それは無理な了見というものよ」

 作者の描写が、克明に意地の悪いほど容赦なく続きます。例によって、筆が躍動しています。
 末摘花を観察した源氏の心
「まず、座高が高い。きっと胴長なのだ。その次に、なんとまあ変わっているのは鼻よ。普賢菩薩がお乗りになっている象の鼻のように、あきれるばかりに高くのびたその先が、少し垂れて赤くなっているのは、まことに嘆かわしい。顔色は青白く、ひどいおでこで、そのまま下ぶくれのご面相では、とてつもなく長いお顔かと。
痩せていて肩の骨まで着物の上からも分かるほどで、長い黒髪だけはまあまあだが、着ている衣装は不似合いのうえ時代遅れ……」
などと、ことごとく源氏はあきれてしまって、物もおっしゃれず、無口になってしまわれるのでした。
 末摘花は歌の返しもされず、「むむ」とすこし笑まれているだけでした。

 源氏は気の毒にも、興ざめにも思いつつお帰りになります。

 源氏にこれから姫君の面倒を見てもらえることは、侍女たちにとっても生活上、有り難いことでした。一握りの貴族たち以外の人々は、自分たちで生活の手段を考え、食べていかなければならないのでした。
ではまた。