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【若紫】の巻 (7)
源氏は「かかる折りだに、と、心もあくがれ惑ひて、いづくにもいづくにも、参うで給はず。王命婦を責めありき給ふ」
――父帝のお嘆きを知りつつも、せめてこういう機会にでも藤壺にお逢いしたいものと、どこにも外出せず、藤壺の侍女の王命婦をお責めになります――
「如何たばかりけむ、いと理なくて見奉る程さへ、現とは覚えぬぞわびしや。」
――命婦がどう取りはからったのか、無理な首尾をして逢われたその間も、源氏には現実の事とも思われないのがわびしいことよ――
源氏は夢のような逢瀬に短夜を惜しみ、藤壺は恐ろしさに泣かれるのでした。
その年の七月から十月頃のことです。
藤壺は懐妊され七月になって、三つきの身体で内裏に戻ります。7月は初秋です。何の疑いも持たぬ帝は懐妊を喜ばれ、変わらず藤壺を大切になさいます。周りの女房たちは不可解なことと、ささめきあっています。源氏は藤壺の懐妊を聞き、悪夢にうなされたりし、もう一度王命婦に再会を頼みますが、命婦は恐ろしくなって取り次ぎません。
登場人物の様子。
源氏は、藤壺には一度きりしか逢うことがかなわず、若紫とのことも平行線、葵の上とは不仲のまま、適当に忍び通い所で紛らわしていました。
尼君は、一時身体を持ち直したものの、とうとう秋に亡くなります。若紫がもう少し大人びたら、源氏のお世話になるのもよいがと、実は周りにも言いながら。
若紫は悲しくて食事も喉を通りません。
若紫の父の兵部卿宮は、こうなったら私のところ(本邸)に引き取ろうと思うに付けても
「あやしう疎み給ひて、人も心おくめりしを、かかる折りにしもものし給はむも、心苦しう」
――妙にこの子が継母を疎まれて、継母も気兼ねする風だったので――
後日迎えに来ることを約束して帰ります。これを聞いた源氏は、惟光を上手く介して、若紫をひそかに迎え取り、二条院に連れ帰ります。(二条院は、亡き母更衣の私宅を立派に修理してもらい、今は源氏の私邸)
「君は二三日内裏にも参り給はで、この人をなつけ語らひ聞え給ふ。やがて本に、と思すにや、手習ひ・絵など様々に書きつつ見せ奉り給ふ」
――源氏の君は、内裏にも参内せず、若紫をなつけて、そのまま手本にと思われるのか、書や絵などさまざまに書いてお見せになります。――
若紫は源氏を父とも思い、だんだんうち解けていきます。
【若紫】の巻 (7)
源氏は「かかる折りだに、と、心もあくがれ惑ひて、いづくにもいづくにも、参うで給はず。王命婦を責めありき給ふ」
――父帝のお嘆きを知りつつも、せめてこういう機会にでも藤壺にお逢いしたいものと、どこにも外出せず、藤壺の侍女の王命婦をお責めになります――
「如何たばかりけむ、いと理なくて見奉る程さへ、現とは覚えぬぞわびしや。」
――命婦がどう取りはからったのか、無理な首尾をして逢われたその間も、源氏には現実の事とも思われないのがわびしいことよ――
源氏は夢のような逢瀬に短夜を惜しみ、藤壺は恐ろしさに泣かれるのでした。
その年の七月から十月頃のことです。
藤壺は懐妊され七月になって、三つきの身体で内裏に戻ります。7月は初秋です。何の疑いも持たぬ帝は懐妊を喜ばれ、変わらず藤壺を大切になさいます。周りの女房たちは不可解なことと、ささめきあっています。源氏は藤壺の懐妊を聞き、悪夢にうなされたりし、もう一度王命婦に再会を頼みますが、命婦は恐ろしくなって取り次ぎません。
登場人物の様子。
源氏は、藤壺には一度きりしか逢うことがかなわず、若紫とのことも平行線、葵の上とは不仲のまま、適当に忍び通い所で紛らわしていました。
尼君は、一時身体を持ち直したものの、とうとう秋に亡くなります。若紫がもう少し大人びたら、源氏のお世話になるのもよいがと、実は周りにも言いながら。
若紫は悲しくて食事も喉を通りません。
若紫の父の兵部卿宮は、こうなったら私のところ(本邸)に引き取ろうと思うに付けても
「あやしう疎み給ひて、人も心おくめりしを、かかる折りにしもものし給はむも、心苦しう」
――妙にこの子が継母を疎まれて、継母も気兼ねする風だったので――
後日迎えに来ることを約束して帰ります。これを聞いた源氏は、惟光を上手く介して、若紫をひそかに迎え取り、二条院に連れ帰ります。(二条院は、亡き母更衣の私宅を立派に修理してもらい、今は源氏の私邸)
「君は二三日内裏にも参り給はで、この人をなつけ語らひ聞え給ふ。やがて本に、と思すにや、手習ひ・絵など様々に書きつつ見せ奉り給ふ」
――源氏の君は、内裏にも参内せず、若紫をなつけて、そのまま手本にと思われるのか、書や絵などさまざまに書いてお見せになります。――
若紫は源氏を父とも思い、だんだんうち解けていきます。