永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(636)

2010年02月01日 | Weblog
010.2/1   636回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(51)

 落葉宮は悲しくて、

(歌)「のぼりにし峰の煙にたちまじり思はぬ方になびかずもがな」
――母君と一緒に死んでしまいたい。願ってもいない人に添うようなことにはなりたくない――

落葉宮は内心では強くご出家を望んでおられますが、

「その頃は御挟などやうのものは、皆とり隠して、人々のまもり聞こえければ、」
――その頃は、御髪を削いだりなさらないように、鋏のようなものはみな取り隠して、お側の者たちはみな守りを固めていました。――

宮はお心の内で、

「かくもて騒がざらむにてだに、何の惜しげある身にてか、をこがましう若々しきやうには、ひき忍ばむ、人聞きもうたて、おぼすまじかべきわざを、」
――こんなに大騒ぎして監視されなくても、何もかも惜しいとさえ思わぬわが身なのに、どうして子供っぽく人目を忍んで尼になどなりましょう。人聞きも悪く、同情されないことでしょうに――

 と、お思いになって、結局お望みのようにご出家もなさらないのでした。

 侍女たちは京へ帰る準備にそれぞれが、櫛、手箱、唐櫃、そのほかちょっとした袋のようなものまで、先に送り出してしまって大した物も残っておりません。宮が一人お残りになることもおできずになれず、泣く泣くお車に乗られました。

 宮は、小野へ移って来ましたとき、御息所がお具合が悪いにも関わらず、私の御髪を撫で繕われたことなどを思い出されて、目は涙に曇ってひどく悲しいのでした。守り刀に経箱を添えてお側に置いてありますので、このお形見をご覧になる度、空しい心地がなさるのでした。

 一條宮邸にお着きになりますと、お屋敷は喪中でありながら厳かな風情も無く、人々も忙しそうに立ち騒いでいて、まるで以前とは打って変わった様子に、落葉宮はご自分の元の住処の気がせず、お車からお降りになりません。

◆おぼすまじかべきわざ=思すまじかるべき業=同情されない事柄

ではまた。