2010.2/13 648回
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(63)
こうつっぱねられて夕霧は、いくら何でも、いつまでもこんな風では、人が噂するのも尤もで気まり悪く、ここの侍女たちの手前も恥ずかしくてなりませんので、
「内々の御心づかひは、この宣ふさまにかなひても、しばしは情けばまむ。世づかぬ有様のいとうたてあり。またかかりとて、ひき絶え参らずば、人の御名如何はいとほしかるべき。ひとへに物を思して、幼げなるこそいとほしけれ」
――内輪のこと(御息所の喪中)では、おっしゃる通りにいたしましょう。世間並みの夫らしくないこの私の有様は、まことに奇妙でこまります。またこのようなお扱いを受けたからといってお伺いしなくなれば、私に捨てられたということで、宮の御名にも関わりましょう。ただひたすら物を思いつめられるお心で、とかくご分別もなく幼げでいらっしゃるのが、おいたわしい――
と小少将をお責めになります。小少将もたしかに尤もなこととも思い、夕霧にも気の毒になってきていましたところでしたので、
「人かやはし給ふ塗籠の、北の口より入れ奉りけり。」
――女房を出入りさせる塗籠の北の口から夕霧をお入れしてしまいました――
落葉宮は、
「いみじうあさましうつらしと、侍ふ人をも、げにかかる世の人の心なれば、これよりまさる目をも見せつべかりけり、と、たのもしき人もなくなりはて給ひぬる御身を、かへすがへす悲しう思す」
――まったく情けないひどい事をする女房たちだとお恨みになります。世の中の人々はみなこのような考えで進めていくのですから、これからもっと辛い目に合わされることになるのでしょう、と、頼りにする人も無くなってしまったわが身の上を、かえすがえす悲しく思われるのでした――
夕霧は、宮がご納得ゆくような道理をお話申し上げ、言葉を尽くしてあわれ深く、かき口説かれますが、宮はただただ辛くて、心ない人だとばかり思っていらっしゃる。
◆情けばまむ=情けが深いように振る舞おう
ではまた。
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(63)
こうつっぱねられて夕霧は、いくら何でも、いつまでもこんな風では、人が噂するのも尤もで気まり悪く、ここの侍女たちの手前も恥ずかしくてなりませんので、
「内々の御心づかひは、この宣ふさまにかなひても、しばしは情けばまむ。世づかぬ有様のいとうたてあり。またかかりとて、ひき絶え参らずば、人の御名如何はいとほしかるべき。ひとへに物を思して、幼げなるこそいとほしけれ」
――内輪のこと(御息所の喪中)では、おっしゃる通りにいたしましょう。世間並みの夫らしくないこの私の有様は、まことに奇妙でこまります。またこのようなお扱いを受けたからといってお伺いしなくなれば、私に捨てられたということで、宮の御名にも関わりましょう。ただひたすら物を思いつめられるお心で、とかくご分別もなく幼げでいらっしゃるのが、おいたわしい――
と小少将をお責めになります。小少将もたしかに尤もなこととも思い、夕霧にも気の毒になってきていましたところでしたので、
「人かやはし給ふ塗籠の、北の口より入れ奉りけり。」
――女房を出入りさせる塗籠の北の口から夕霧をお入れしてしまいました――
落葉宮は、
「いみじうあさましうつらしと、侍ふ人をも、げにかかる世の人の心なれば、これよりまさる目をも見せつべかりけり、と、たのもしき人もなくなりはて給ひぬる御身を、かへすがへす悲しう思す」
――まったく情けないひどい事をする女房たちだとお恨みになります。世の中の人々はみなこのような考えで進めていくのですから、これからもっと辛い目に合わされることになるのでしょう、と、頼りにする人も無くなってしまったわが身の上を、かえすがえす悲しく思われるのでした――
夕霧は、宮がご納得ゆくような道理をお話申し上げ、言葉を尽くしてあわれ深く、かき口説かれますが、宮はただただ辛くて、心ない人だとばかり思っていらっしゃる。
◆情けばまむ=情けが深いように振る舞おう
ではまた。