2010.6/1 752回
四十五帖 【橋姫(はしひめ)の巻】 その(13)
「中将の君なかなか、親王の思ひすまし給へらむ御心ばへを、対面して見奉らばや、と思ふ心ぞ深くなりぬる」
――(年齢のお若い)薫の方が却って、八の宮の仏道に専念されるとおいうご態度を、ぜひお逢いして拝見したいものと思う気持ちが深くなって――
阿闇梨がお帰りになるときに、薫は、
「必ず参りて物習ひ聞こゆべく、先づ内々にも、気色たまはり給へ」
――(八の宮)様に必ず参上いたしまして、お教えを頂きたいと、あらかじめ内々にでも御意向をを伺ってください――
と、お願いなさいます。
阿闇梨は、冷泉院の御使いの者と一緒に、八の宮の山荘に参上します。使者は冷泉院が、風流な八の宮の御生活ぶりをお聞きになったことなどを申し上げて、
(院の歌)「世をいとふ心は山にかよへども八重たつ雲をきみやへだつる」
――俗世と厭うわたしの心は、貴方のお山へも通う程ですが、身を運べないのは、貴方が幾重の雲をもって私を隔てておられるせいでしょうか――
と認めてありましたようです。
どなたも訪問されないようなこの山奥に、ご立派な院のお使いがお出でになりましたので、八の宮はたいそう嬉しく感じて、宇治ならではの御馳走などを調えてお迎えになります。
(宮の返歌)「あとたへて心すむとはなけれども世をうじ山に宿をこそかれ」
――世に隠れて悟りすまして居る訳ではありませんが、ただ世を憂きものと観じて、この宇治山に住んでおります――
と、使者より受け取られた冷泉院は、宮の仏道修行の点は卑下してのお歌に、
「なほ世にうらみ残りける」
――今も、あの時の怨みが残っているのだ――
と、お気の毒な思いで、ご覧になるのでした。
ではまた。
四十五帖 【橋姫(はしひめ)の巻】 その(13)
「中将の君なかなか、親王の思ひすまし給へらむ御心ばへを、対面して見奉らばや、と思ふ心ぞ深くなりぬる」
――(年齢のお若い)薫の方が却って、八の宮の仏道に専念されるとおいうご態度を、ぜひお逢いして拝見したいものと思う気持ちが深くなって――
阿闇梨がお帰りになるときに、薫は、
「必ず参りて物習ひ聞こゆべく、先づ内々にも、気色たまはり給へ」
――(八の宮)様に必ず参上いたしまして、お教えを頂きたいと、あらかじめ内々にでも御意向をを伺ってください――
と、お願いなさいます。
阿闇梨は、冷泉院の御使いの者と一緒に、八の宮の山荘に参上します。使者は冷泉院が、風流な八の宮の御生活ぶりをお聞きになったことなどを申し上げて、
(院の歌)「世をいとふ心は山にかよへども八重たつ雲をきみやへだつる」
――俗世と厭うわたしの心は、貴方のお山へも通う程ですが、身を運べないのは、貴方が幾重の雲をもって私を隔てておられるせいでしょうか――
と認めてありましたようです。
どなたも訪問されないようなこの山奥に、ご立派な院のお使いがお出でになりましたので、八の宮はたいそう嬉しく感じて、宇治ならではの御馳走などを調えてお迎えになります。
(宮の返歌)「あとたへて心すむとはなけれども世をうじ山に宿をこそかれ」
――世に隠れて悟りすまして居る訳ではありませんが、ただ世を憂きものと観じて、この宇治山に住んでおります――
と、使者より受け取られた冷泉院は、宮の仏道修行の点は卑下してのお歌に、
「なほ世にうらみ残りける」
――今も、あの時の怨みが残っているのだ――
と、お気の毒な思いで、ご覧になるのでした。
ではまた。