永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(758)

2010年06月07日 | Weblog
2010.6/7  758回

四十五帖 【橋姫(はしひめ)の巻】 その(19)

薫のご容貌や高貴なお振舞いのご様子に、この使用人は恐縮しながら、

「人聞かぬ時は、明け暮れかくなむ遊ばせど、下人にても、都の方より参り、立ち交じる人侍るときは、音もせさせ給はず。大方、かくて女達おはしますことをば、隠させ給ひ、なべての人に知らせ奉らじと、おぼし宣はするなり」
――(こちらの姫君たちは)人が聞いておりません時は、朝夕こうして音楽をなさいますが、たとえ下人でも、都からこちらへ参っている者がおります時は、楽器に手もお触れになりません。だいたいに、宮はこうして姫君たちがおいでになる事さえ、秘密になさって、世間の人にはお知らせ申すまいというお心で、また常々お口にもなさっておられます。――

薫は、

「あぢきなき御物隠しなり。しか忍び給ふなれど、皆人あり難き世の例に、聞き出づべかめるを」
――それはまた、つまらぬお隠しだてをなさるものですね。そのように隠されても、自然に漏れて世間では珍しい噂として、誰も皆知ってしまっているでしょうに――

 つづけて、

「なほしるべせよ。われはすきずきしき心などなき人ぞ。かくておはしますらむ御有様の、あやしく、げになべてに覚え給はぬなり」
――(懸念はもっともだが)かまわず姫君達のところへ案内されよ。私は好色がましい心など少しも無い男ですよ。こんな所に姫君達がこうしてお暮しとは、なるほど八の宮のご心配通り、並みの方々ではないように思えてならない――

 と、熱心におっしゃるので、宿直人は、

「あなかしこ。心なきやうに後のきこえや侍らむ」
――恐れいります。お断り申しては物の風情を解せぬ者と、後々まで非難をうけましょうから――

 と、姫君たちのお居間が、竹の透垣をめぐらして特別厳重に境をつけてある別の一所にご案内申し上げます。

◆写真:貴族の別荘が多かった宇治川辺り。

ではまた。