永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(814)

2010年09月01日 | Weblog
2010.9/1  814

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(33)

 薫はつづけて、

「ここになむ、ともかくも聞こえさせなすべき、と頼むを、つれなき御気色なるは、もてそこなひ聞こゆるぞ、と、たびたびゑんじ給へば、心より外なる事と思ひ給ふれど、里のしるべ、いとこよなうもえあらがひ聞こえぬを、何かは、いとさしももてなし聞こえ給ふらむ」
――(匂宮が)君こそ、何とか私のことを姫君達にご紹介申すだろうと頼みに思っていたのに、姫君達がつれないご様子なのは、君が姫君たちのお気持を損ねているからだ、と度々私をお恨みになりますので、とんでもない事と思っておりますが、宇治の里への導き手として何もはっきり反対申しませんのに、どうしてまあ、貴女はそのようにも匂宮をおあしらい申されるのでしょう――

 薫はなおもつづけて、

「好い給へるやうに人は聞こえなすべかめれど、心の底あやしう深うおはする宮なり。なほざりごとなど宣ふわたりの、心軽うて、なびきやすなるなどを、めづらしからぬものに思ひおとし給ふにや、となむ、聞くことも侍る」
――(匂宮が)好色でいらっしゃるように人は取り沙汰申すようですが、お心の底は珍しいほど思慮深いところがおありなのです。宮の冗談ごとなどにすぐ乗ってくる靡きやすい女などには、珍しくもないものとして軽蔑なさるご様子を伺うことがあります――

「何事にもあるに従ひて、心をたつる方もなく、おどけたる人こそ、ただ世のもてなしに従ひて、とあるもかかるもなのめに見なし、すこし心に違ふふしあるにも、いかがはせむ、然るべきぞ、なども、思ひなすべかめれば、なかなか心長き例になるやうもあり」
――何事も成り行きに任せて我を張ることもなく、鷹揚な女こそ、ただ世間の仕向けに従ってどのような事も大目に見逃し、少し気に入らない点がある場合にも、どうしたらら良いか、これもそうなる運命か、などとも諦めるらしいので、却って長く添い遂げる例になることもあります――

「崩れそめては、龍田の川のにごる名をもけがし、いふかひなく名残りなきやうなる事ども、皆うちまじるめれ」
――(けれども)そういう人は、一旦崩れ折れますと、濁った浮名を流したりと不名誉な事が次々と起こり、取り返しようがなく跡形も無いような事なども、よくあるようです。(時には不縁になることも)――

「こころの深うしみ給ふべかめる御心ざまにかなひ、ことに背くこと多くなど、ものし給はざらむをば、さらに、かろがろしく、はじめをはり違ふやうなることなど、見せ給ふまじき気色になむ」
――(それに引き換え匂宮の)物事に深くご執心なさるらしいご性格に叶い、あまりお心に背くことのないお方には、決して軽々しく始めと終わりが矛盾するような(心変わりなさるような)御方ではございません――

 私は匂宮については、他の方がご存知ないことをも十分お見上げしておりますから、と、薫はさらにお話を進められます。

では9/3に。