永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(827)

2010年09月27日 | Weblog
2010.9/27  827

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(4)

 大君のお話は、

「げにかかる住ひなどに、心あらむ人は、思ひ残すことあるまじきを、何事にも後れそめにけるうちに、この宣ふめる筋は、いにしへも、さらにかけて、とあらばかからばなど、行く末のあらましごとにとりまぜて、宣ひ置くこともなかりしかば、なほかかる様にて、世づきたる方を思ひ絶ゆべくおぼし掟てける、となむ思ひ合せ侍れば、ともかくも聞えむ方なくて」
――こういう山里の住いなどでは、多感な人ならば、なるほど物思いの限りを尽くしましょうが、私は何事にも気が利かぬ生まれつきでございまして、その中でも特に、あなたがおっしゃる男女間のことは、父上の在世中も決して、こんな時にはこうしなさいなどと、将来のあり方に合せて教えてくださることもございませんでしたので、私はやはりこのまま一人でいるように、人の妻になることなど、思い断つようにお指図されたのだと思いますので、とにかく申し上げる言葉もございません…――

「さるは、すこし世籠りたる程にて、み山がくれには心苦しく見え給ふ人の御上を、いとかく朽木にはなしはてずもがな、と、人知れずあつかはしく覚え侍れど、いかなるべき世にかあらむ」
――ところで、まだ年も若く、このような山里には可哀そうに見える人(中の君)のことを、何とか朽木にしてしまいたくないと、ひそかに気になっているのですが、いったいどんなご縁に決まることでしょうか――

 と、心乱れてのご心配の様子は、たいそうはかなげに痛々しい。
まだお若い女の身で、どうしててきぱきと大人っぽく利口そうなお返事ができようかと、薫は大君のお話を尤もともお思いになるのでした。

それから後、例の弁の君を呼び寄せて、お話をなさいます。

「年頃は、ただ後の世ざまの心ばへにて、進み参りそめしを、もの心細気におぼしなるめりし御末の頃ほひ、この御事どもを心に任せてもてなし聞こゆべくなむ宣ひ契りてしを、おぼしおきて奉り給ひし御ありさまどもにはたがひて、御心ばへどもの、いといとあやにくにもの強げなるは、いかに、思しおきつる方の異なるにやと、疑はしき事さへなむ」
――(私は)今まではただ後生を願う目的で、こちらに参上し始めたのだが、八の宮が心細げにおなりになった御晩年の頃、姫君方のことを思い通りお世話申すようにと御依頼になったのですよ。宮がお考えになられたのとは違って、姫君方のご意向が全く実に具合悪く強気でいらっしゃるのは、いったいどのようなお積りなのか、疑わしい気さえしましてね――

 さらにお続けになります。

◆朽木にはなしはてずもがな:朽木には―無し―果てず―もがな。朽木に果てるようなことはさせたくない。

では9/29に。