永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(820)

2010年09月13日 | Weblog
2010.9/13  820

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(39)

「御心にあまり給ひては、ただ中納言を、とざまかうざまに責めうらみ聞こえ給へば、をかしと思ひながら、いとうけばりたる後見顔にうち答へきこえて、あだめいたる御心ざまをも、見あらはす時々は、『いかでか、かからむには』など、申し給へば、宮も御心づかひし給ふべし」
――(匂宮は)ご自分の気持ちを持て余しては、ただ薫をあれやらこれやらとお責めになったり、恨んだりなさるので、薫は可笑しいのを我慢しながら、姫君達のことを全部取り仕切った世話役のような態度でお答えになっては、そのような浮気心では「姫君達をご紹介なんて、とてもとても」と、申し上げますと、匂宮もずいぶんとお心をお遣いなさるようです――

 「心にかなふあたりを、まだ見つけぬ程ぞや」
――(私の浮気も)気に入った女を見つけられない間だけのことですよ――

 と、苦しい言い訳をなさっています。

 その頃(匂宮25歳、薫24歳)

「大殿の六の君を思し入れぬこと、なまうらめしげに、大臣もおぼしたりけり。されど、『ゆかしげなき中らひなる中にも、大臣のことごとしくわづらはしくて、何事のまぎれをも見咎められむがむつかしき』と、下にはのたまひて、すまひ給ふ」
――夕霧左大臣家では、六の君を、かねてから匂宮に差し上げたいとお考えですのに、肝心の宮がどうも気に染まぬご様子なのを、全く心外なことと苦々しく思っていらっしゃいます。匂宮としては「六の君とは、今更心惹かれる間柄と言うわけでもなく(従兄妹同志)、その上夕霧は重々しくも鬱陶しく、ちょっとの浮気などまで咎められるのが厄介だ」と、内々ではおっしゃっておられて、ご縁組を辞退なさっていらっしゃるのでした――

◆うけばりたる後見顔(うしろみがお)=わがもの顔にふるまうお世話役

◆すまひ給ふ=辞まひ給ふ=辞退申し上げる

◆夕霧左大臣家の六の君=夕霧と藤典侍の姫君。評判の器量よし。

◆写真:忘れ草

では9/15に。



源氏物語を読んできて(萱草色)

2010年09月13日 | Weblog
 萱草色(かんぞういろ)とは、ワスレグサの花の色。やや淡い赤味の黄赤。
クチナシあるいはキハダの黄色と、スオウもしくはベニバナの赤色を掛け合わせて染めた色。 萱草の別名は忘れ草といい、別離の悲しみを忘れさせる花として喪の色とされた。ただし、クチナシとベニバナの組み合わせは禁色のひとつである黄丹と同じ配合であるため、喪の色である萱草色に使うのは避けられた。喪中の女子の袴はこの萱草色である。また表に萱草色裏に萱草色の重ねの色目は『萱草の襲』といって喪服に用いる。

 ◆写真:萱草色