永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(815)

2010年09月03日 | Weblog
2010.9/3  815

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(34)

 それから薫はつづけて、

「もし似つかはしく、さもやと思し寄らば、そのもてなしなどは、心の限り尽して仕うまつりなむかし。御中道のほど、みだり脚こそ痛からめ」
――もし匂宮を、似つかわしい夫君としてはどうかと思い立たれますならば、そのお取り持ちは私の力の及ぶ限りお骨折りもいたしましょう。またお仲人役としては、宇治と京の間を奔走いたしましょう。さぞかし脚が痛いでしょうが――

 と、真面目に話されますが、大君は、

「わが御みづからの事とは思しもかけず、人の親めきて答へむかし、と思しめぐらし給へど、なほ言ふべき言の葉もなき心地して、『いかにとかは。かけかけしげに宣ひつづくるに、なかなか聞こえむことも覚え侍らで』と、うち笑ひ給へるも、おいらかなるものから、けはひをかしう聞こゆ」
――このお話がご自分のこととは思ってはおらず、中の君の親代わりとしてお答えになろうと思い巡らしておいでになりますが、それでも何とお答えしたらよいものか、「何とお答え申し上げたらよいのでございましょう。お話がいかにも含みのある懸想じみた筋の多いおっしゃりようですので、却って申し上げる事もできませんで」と、慎ましげに微笑んでいらっしゃるご様子は、おっとりとした中に思慮深い才気のほどがしのばれるのでした――

 薫は、

「必ず御みづから聞こしめし負ふべき事も思う給へず。それは、雪を踏み分けて参り来る志ばかりを、御らんじわかむ御このかみ心にても、過ぐさせ給ひてよかし。かの御心よせは、また異にぞ侍べかめる」
――いえいえ今のお話は貴女が責を負われることではございません。貴女ご自身のことはといえば、雪を踏み分けて参上しました私の志だけを、ご理解になる御姉様のお心としてお過ごしください。匂宮が恋焦がれている方は貴女とは別の方のようでございますから――

では9/5に。