永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(816)

2010年09月05日 | Weblog
2010.9/5  816

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(35)

 薫がさらに、

「ほのかに宣ふさまも侍めりしを、いさや、それも人のわき聞こえ難きことなり。御かへりなどは、いづかたにかは聞こえ給ふ」
――匂宮から中の君にちょっとお便りされることもおありだったようで。さあ、それも(ご姉妹のどちらが目的か)はたでは判断申しにくいことです。ご返事などはどなたがなさるのでしょう――

 と、思いがけない薫のお問いかけに、大君はお心の内で、

「ようぞたはぶれにも聞こえざりける、何となけれど、かうのたまふにも、いかにはづかしう胸つぶれまし」
――よくぞ迂闊にもお返事申し上げないでいたことよ。格別どうということもないけれど、もしお返事していたならば、どんなに恥ずかしく胸つぶれる思いであったことよ――

 と、思われてお返事もお出来になれません。そこで歌を、

(歌)「雪ふかき山のかけはし君ならでまたふみかよふあとを見ぬかな」
――雪深い山の道に人が通わないように、私は貴方以外にはほかにお文を通わせたことはございません――

 と書いて差し出されますと、

「御ものあらがひこそ、なかなか心おかれ侍りぬべけれ」
――そのご弁解が、却って気にかかりますけれど――

 と、つづけて、

「(歌)『つららとぢこまふみしだく山川をしるべしがてらまづや渡らむ』然らばしも、影さへ見ゆるしるしも、浅うは侍らじ」
――(歌)「氷が張って、駒が踏みしだく宇治の山川を案内しながら、まず私が渡りましょう。」(匂宮を仲立ちするついでに、私は先に貴女と結ばれたい)それでこそ、こうしてお伺いする私の志も浅くはないのです――

 薫の思いをお聞きになって大君は、思いの外の成り行きに疎ましく、不愉快な気分になられて、これといったご返事もなさいません。

◆写真:大君に思いを告げに宇治の山荘を訪る薫

では9/7に。