永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(824)

2010年09月21日 | Weblog
2010.9/21  824

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(1)

薫(中納言)    24歳8月~12月
匂宮(兵部卿の宮) 25歳
大君(おおいぎみ) 26歳 逝去
中の君(なかのきみ)24歳
明石中宮(今帝の后、匂宮の母君)43歳
女一宮(冷泉院の姫宮)
女一宮(今帝と明石中宮の姫宮)
夕霧(左大臣)   50歳
六の君(夕霧と藤典侍の娘)
弁の君(宇治の姫君たちをお世話する老侍女)
宇治の山寺の阿闇梨

「あまた年、耳馴れ給ひにし川風も、この秋はいとはしたなくもの悲しくて、御はての事いそがせ給ふ。大方のあるべかしき事どもは、中納言殿、阿闇梨などぞ仕うまつり給ひける」
――(故八の宮の姫君たちが)長年聞き馴れてこられた宇治の川風も、この秋は殊にどうしてよいか分からぬほど物悲しい中で、父君の一周忌の御法事の用意をなさいます。法事に必要なおおよその事は、薫中納言と、山寺の阿闇梨がお支度なさっておられます――

「ここには法服の事、経の飾り、こまかなる御あつかひを、人のきこゆるに従ひて営み給ふも、いとものはかなくあはれに、かかるよその御後見ならましかば、と見えたり」
――姫君のところでは、僧たちへの御布施になさる法衣のことや、経机の覆いなど、こまごまとしたご用意を、侍女たちが申し上げるに従って取り行われるにつけましても、薫や阿闇梨など、こうした他からのお世話がなかったならば、どんなに心細いことでしょうと、察せられます――

 薫ご自身も宇治に参上なさって、今日を限りと喪服を脱ぎ捨てられる折りのお見舞いを、お心を込めて申し上げられます。阿闇梨もこちらにお詰め申しております。

「名香の糸ひきみだりて、『かくても経ぬる』など、うちかたらひ給ふ程なりけり」
――(姫君たちは、奥の方で)ご仏前にお供えする名香(みょうごう)の飾り糸をお作りになりながら、「父宮に後れては片時も永らえまいと思っておりましたが、古歌にあるように、『かくても経ぬる…』、こんな風にしてでも月日はめぐってゆくものですね」などと、語り合っていらっしゃる――

◆名香の糸ひきみだりて=一説には行香机の四隅に結び垂れる糸。二説には様々な香を紙に包んで五色の糸で結びかけたもの。

◆『かくても経ぬる』=古今集の「身を憂しと思ふに消えぬものなればかくても経ぬる世にこそありけれ」

◆総角(あげまき)=ひもの結び方の一つ。左右に輪をだし、中を石だたみを組むように結んで、房を垂らす。御簾、文箱などの飾りに用いる。あげまき結び。

では9/23に。

源氏物語を読んできて(結び)

2010年09月21日 | Weblog
◆結び
 
有史以前から人は「結び」を生活の中に取り入れてきました。日本では藤原時代以降急速に発展し、他の国に比べてその種類や用途、呼称も多種多様で、さまざまな「結び」があります。
 中でも「総角(あげまき)結び」は平安時代につくられた公家故実(くげこじつ:公家社会の礼法、装飾、調度などの慣習や取り決めを定めたもの)の中で、調度品の装飾、衣服の紐飾りとして数多く用いられました。源氏物語ミュージアムに展示されている几帳(きちょう)などの平安貴族の日用品にも、総角結びがふんだんに使われています。

 また、鎌倉時代以降の武家社会においても、武士の象徴でもある兜の後部の飾りとして使われるなど、弓馬、武具関係などの飾りにも多く用いられました。数多い結びの中でも「総角結び」はいわば、装飾結びの代表格と言えます。

◆写真:御簾の下に取り付けたあげ巻結び