2008/2月上旬 八ヶ岳東面・旭岳東稜
原点
八ヶ岳東面にはいくつかの想い入れがある。
権現東稜の敗退から始まり、その後の再訪完登。
天狗尾根の速攻登攀から一転、稜線でのバテバテであったり、ツルネでのヘッデン下山であったり。
それは悲喜交々、一夜を過した地獄谷の出合小屋に終結すると言っても過言ではない。
四年前の権現東稜登攀時に出合小屋のノ-トに記した一文を見る。
ホンの短い一行に当時の感激を思い出す。
そして時計型薪スト-ブは健在。夜な夜な宴に酔いしれたのもこのスト-ブが中心にあった。
地獄谷の三本。残るは旭岳東稜。
もっともだから何なのだというわけではないが、冬のバリエ-ションにおいては この地獄谷を語らずには始まらない、原点としての想い入れがあるのだ。
工作
美しの森から沢筋に入るとトレ-スは消え、早くもラッセル。
出合小屋から先は痕跡すら見当たらず、記憶を辿りながら尾根の末端。
権現沢に入り、二本目のルンゼ、左俣を詰める。急登のラッセルに汗する所だ。
尾根に乗れば幾分足元も安定する。とはいえ、時には膝下ほどのラッセル。
しかししかし、このたびの力強いパ-トナ-はそれでもグイグイ急登りをこなしていく。
非力なさかぼうにとっては羨ましくもあり、ありがたくもあり。
細いリッジに出る。
すこし躊躇するが、ここはクライムダウン。
あとはリッジの側壁を慎重に伝っていく。
そこからはひたすら登る。時に傾斜は落ち、そしてまた急登。
幕場跡を発見。
時間はまだ余裕がある。この先まだまだありそうだったが、整地時間の短縮にもなるし、ここから空身で ラッセルしておけば翌朝楽でもあるはず。ということで幕を張ったら、ル-ト工作。
目標を岩壁取り付きまでと考えていたが、そこまでは至らず、その手前のルンゼ下までで時間切れ。
コレが翌日の奮戦のプロロ-グでもあった。
期待
さすがに夜は長かった。
一眠りして起きたら21:30。また寝入り、次に起きたら0:30。
この調子で行くとまた三時間後に起きるんだろうなあと想像しながら三度眠りに就く。
と思ったら、4:00。起床のベル。
モ-ニングコ-ヒ-の後、朝食のラ-メンを作ったら丁度、ガスが切れた。
最後にテントの中をあっためようと思ったのに残念。
定刻に10分遅れ、6:10発。
昨日のラッセル工作の甲斐あって、ルンゼ下までは特に問題になるところはなかったが、 そこからの急登ラッセルが思った以上の重労働。
ここさえ超えれば五段の宮という期待だけが今の自分を突き動かしているのかもしれない。
稜に出れば五段の岩場が意外にこじんまりと横たわる。
地味
取付きで準備を整えたら登攀開始。
正面を少し触ってみたが、一段上がってからの一手。雪をのいてのホ-ルドにはそれでも未だ氷がつまっていた。
持てるような持てないようなで踏ん切りがつかない。
そんなこんなを繰り返すうちに手が凍える。
時間は9:30。残念ながらここまで。素直に左にトラバ-スし草つきへとまわる。
とはいえ、この草つきも決してよくは無い。
ピッケルとバイルを駆使するも、あまり手応えがないとなると雪を退けながら手がかりを探す。
そうして地味に地味に高度を稼ぐ。
草つきを2ピッチで五段の宮上。
発見
そこから切れた雪稜を2ピッチ。ここばかりは先行の無いきれいな雪面にトレ-スをつけることにシアワセを感じるのだ。
最後の岩塔は左から回り込めばあとはピ-クまで雪稜を一投足。
感激もそこそこに、ヘッデン覚悟の共通認識をした上で下山に取り掛かる。
ツルネ東稜もトレ-スは見当たらず。
赤布を頼りに、時に雪の踏み抜きに没しながら何とか道を外さずに、尾根から沢に降り立ち、 昨日の自分たちのトレ-スを発見したときには、これでようやくラッセルしなくてすむと心底嬉しくなってしまったものである。
そうして闇に浮かんだ、何の変哲もない質素な小屋。
いろんなことがここであった。
しかし、これで終わりではない。まだまだ、先はある。
この先の幾多の出来事もあの夜を想えば、いつかきっと叶うと信じている。
あの日、あの夜の苦悩と歓喜を。
sak