2021/10/30 金山沢鉱山道・赤岩第一スラブ
遺構と 敬意と 登攀と
行動食にチョコレート。
甘みとコク。香り、とろける食感。
ひとたび口にすれば体中に広がる幸せ。
何より、わずかな苦みがいい。
越後駒ヶ岳の北面、佐梨川の源流にある金山沢奥壁。
高距は六百~七百メートルある大岩壁。
スラブを主体とした岩壁群でプロテクションの乏しいルートは、グレ-ド以上の充実感を伴うものとなろう。
加えて、この大岩壁の只中にはかつての銅試掘の遺構が残り、今も当時を偲ぶ場所となっている。
遺構×登攀
魅力的なキーワ-ドが相乗し「いつかきっと」の場所であった。
偵察行も兼ね、奥壁に通ずる鉱山道が横切る「赤岩スラブ」の計画にisiさんが乗ってくれた。
彼も金山沢奥壁に興味があったと聞く。
赤岩第一スラブを選んだのは、山岳会の先輩Nさんの名が初出記録として日本登山大系に記されていたからだ。
遺構×敬意×登攀
時代を遡る山旅。
今の自分に何を感じることができるだろうか。
駒の湯第二駐車場から、林道を歩く。
朝露の草を掻き分け行くので、早々に濡鼠。
桑ノ木沢出合から沢沿を行きかけるが、isiさんの進言もあり右岸道を行く。
沢沿いも可能らしいが、沢靴がいいだろう。
径は草に隠れて気を使う。
近年、地元山岳会諸氏により鉱山道の刈払いが実施されていると聞くが、病禍による影響で近年は行われていないのかもしれない。
いづれにしても、この踏み跡は大変な労苦により成り立っており、敬意を表したい。
やがて、径は桑ノ木沢を横断し家ノ串尾根へ取付く。
尾根を回り込むと山の神。
金山沢、雪山沢が見えてくる。
ここからは尾根の中腹を緩く登っていく。
足元は草木に隠れ、加えて金山沢側は急激に落ち込んでいるため滑落には十分注意。
岩を穿った水平歩道が現れ、この岩壁が「赤岩スラブ」だ。
眼下、吸い込まれるように金山沢。
「これは、滑ったら止まらないね」というのが一目瞭然。
慎重に足元を探り、行く先に奥壁を垣間見ながら進む。
第三スラブ、第二スラブを通過し、第一スラブ。
各々の要所にスラブ名が記されている。
第一スラブを通過し水場ルンゼ脇の広場(以下、広場)で小休止したら、金山台地まで偵察。
顕著に並ぶ五つのスラブ。
その中間部に走る鉱山道。そして坑口。
いやはや、よくあの場所を穿つ気になったな、と先人の偉業を称えたい。
往路を戻り、広場で装備を付けたら第一スラブを俯瞰。
取り付きから、白いS字のように見える岩を目指していくことにする。
懸念は下山路だが、広場から上の尾根に↑マークを発見。
おそらく、鉱山道から郡界尾根までの踏み跡というのがこれであろう。
家ノ串尾根まで詰めたらこの支尾根を下ろうということで落ち着いた。
所々、濡れてはいるがヤスリのようなザラザラ岩にフリクションは良く効く。
概ねどこでも登れそうではあるが、支点はない。
見立て通りS字白岩を目指すと、しっかりしたボルトがあった。
その先でロープいっぱいとなり、灌木で支点をとるが先ほどのボルトでとった方がプロテクションとしては安全だ。
2ピッチ目はisiさん。
傾斜も少し立ってきて、面白い。
途中ハーケンで支点をとりながら行き、終了点は2個目のボルト。
3ピッチ目は次第に傾斜も緩んできて中間バンド。
ハ-ケン連打で支点とする。
そこからは岩と草付きのミックスを尾根に向かうが、ヌルベタで結構悪い。
と、不意に〇のペイント。よく見ると↑ペイントも散見。
どうやら、広場からの踏み跡は支尾根から水場ルンゼ(中間バンド)を横切って第一ルンゼ上の尾根に続くらしい。
ここで登攀は終了し、ロープを解く。
ペイントに従って下山するが、際どい場面も少なくない。
広場まで戻って装備を解きながら、これからのことなど話していると山道に人影。
ガイドさんをはじめ数名のパーティ-で、今日は金山台地で幕とし、明日は坑道探索をするという。
なかなか魅力的なプランだなと思い、後続の方々を待つ間、ガイドさんに坑道探索の事や金山沢奥壁第四スラブについてなど聞く。
大変詳しく教えていただき、楽しい寸暇を過ごす。
パ-ティ-を見送り、我々も下山にかかる。
たとえ数人でも人の通過した後の道は往路よりだいぶ歩きやすくなっている。
しかし、足元には要注意。
明るいうちの下山だから良いものの、ヘッデン下山となれば恐ろしいレベルだ。
桑ノ木沢で小休止。
チョコレートを口にする。
体中に広がる幸せと、わずかな苦み。
日常の些事は、時に苦い。
苦悩。それは重力のようなもの。
私たちは、それに抗い次の一手を延ばしていく。
昔も今も。
-後日談-
ネット検索していると、当日お会いしたガイドさんは篠原達郎さんでした。(HPガイドスケジュ-ルで判明)
どこかで会った方のような気がしていたのですが、その時には気づきませんでした。
篠原さんとは2020年末に南伊豆(吉田海岸・魔王)で前後していて、「山の世界は意外と狭い」を実感。
勝手に親近感を抱くのでした。
またどこかで、お会いするかもしれないですね。
おわり
↓動画
越後・金山沢鉱山道~赤岩第一スラブ
sak