時は巡り、たとえ道が変わったとしても魂は消えない。
そして、萌える。
鹿岳一ノ岳南壁を初めて知ったのは、2009年。
山登魂山岳会・鮎島さんの記録だ。
初出記録は「クライミングジャーナル2号」(1982年7月号)
富岡労山により拓かれ、”西上州岩場調査隊ルート”として発表されたとあった。
2022/11/12 西上州・鹿岳一ノ岳南壁
道の駅で合流して、南牧村鹿岳登山口(下高原)手前の駐車場へ。
立派なトイレがあり、すでに数台の車が止まっていた。
そこから少しだけ車道を歩いて、標に従い登山道へと入る。
杉林を30分ほど行くと、右手の樹幹越しに岩壁が見えてくる。
その基部目指して登山道を離れガレをトラバース。
岩壁基部には祠が二つあり、取付きはそこから20mくらい先で立木に水色のスリングが巻いてある。
そして被った岩壁にボルトラダー。
さらにその奥10mにメスねじアンカーがある。
偵察でボルト径も確認しており、これに持参のボルトを差し込んでいくことも検討していた。
しかし、不確定要素も否めないことから確実に上まで繋がっているリングボルトで登攀することにした。
とはいえ、状態は良くない。
3本目はリングの腐食がひどく、色褪せた3mmスリングが垂れている。
4.5本目はリングが飛んでいる。
しかし、それも想定内。
あとは踏ん切りがつくかどうかだ。
◆1P(sak)15m A1
3手目はリングに錆びが目立つものの、テスティングしてリングを使う。
4手目はリング欠損用ハンガ-(「PIKA」と刻印がある)をセット。
リング穴にステンレスカラビナを入れて外れ防止策とする。
5手目はリング穴にちぎれた金属片が詰まっていて外れ防止策が取れないので、件のハンガーを引っかけて祈るように立ちこむ。
スピーディーに6手目に支点をとって一安心。
そしてフォロー用に3mmスリングをセットしておく。
後は比較的状態のいい支点を繋いでリングボルトが3つ打たれたビレイステーション。
手数は10手と記憶。
◆2P(sak)8m Ⅳ-
ビレイステーションからトラバースして直上。
足場が脆いところもあるので要注意。
途中の立木下までトラバース。支点をとって、立ち木を手がかりに一段上がる。
フェイスをさらに直上し、テラスまで。
ここで、右からフリールートが合流する。
◆3P(sak)35m A1 Ⅳ-
左上の小ハングを人工で越える。
1手目は目の前にあるが2手目が見つからない。
ピナクル状の岩に上がって上の様子を窺うと小ハングを乗越した岩上にリングボルトとアングルハーケンが見える。
状態は悪くない。
2手目は完全にアブミにぶら下がる。
安定体制を保つには足が遠くて苦労した。
人工登攀は4手で終了。
スラブ状を行くとリングが3本。(A1後、ここまではⅢ)
本来、ここで切るのかもしれないけど、先に見えるリッジのテラスまで伸ばす。
リッジ手前は傾斜も増してきて、岩も所々で不安定。
支点もなく、脆岩ゾーンに入り込んでしまいハマりかける。
この辺りはルーファイによっては、苦労するのかもしれない。
ちなみにこのテラスに支点はない。(ハーケンで構築)
◆4P(isi)40m Ⅳ-
リッジを右上。
しかし、岩が脆く支点は灌木以外は少ない。
頭上にハング。途中でハーケンの連打がありここで切る。
ハーケンは錆がひどいので、キャメで補強。
グレード以上に悪さが際立つピッチ。
◆5P(sak)40m Ⅳ
右斜上するハング下のフェイスを右上。
岩は安定、支点も散見。
途中、支点に誘われ右のリッジへ回り込むが、最終的にフェイスに戻る。
フェイスへ復帰するトラバースでA0。
この辺はハング上に鳥(ハヤブサ?)の営巣があって、フンが落ちてくるので要注意。
フェイス上部で再度右に回り込んで凹角を松の木右脇のテラスまで。
支点はないので、ハーケンとキャメで構築。
◆6P(isi)45m Ⅲ+
頂上まですっきりとしたフェイスが広がる。
比較的岩は安定しているが、時に浮岩もあるので要注意。
スタンス、ホールドは豊富。フリクションも抜群。
だけど、灌木以外に支点はなく、小さめのキャメ、ボールナッツ、ハーケンで支点構築。
◆7P(isi)40m Ⅳ
夕暮れを迎える。
日暮れまでにリードは上まで抜けておきたいので、登攀巧者のisiさんにリードを託す。
彼はオーダーに応えてくれて闇に巻かれる前にトップアウト。
流石だ。
岩は安定していて、ホールドスタンスも状態はいい。
しかし、残置なきリードは心理的タフさが要求される。
支点は小さめのカムデバイスでとれるが、ランナウトする場合は十分に注意したい。
ヘッデンを灯して、フォロー。
途中でロープがイワヒバにハマり、ザイルアップに苦労しているのがロープの動きでわかる。
日暮れに追われながらの登攀でも、パートナーは適宜カムで支点をとっていた。
寡黙な彼の冷静なる登攀に敬意を表す。
闇中の壁は高度感が薄れて大胆に行けるが、最後まで岩のテスティングに気を配る。
藪が出てきたら、実質登攀は終了。
isiさんと再会の挨拶。
あとは、一ノ岳の肩(展望場)まで10mくらいの藪岩歩き。
肩がらみでisiさんを迎えて握手。
パートナーに感謝。
しかし、時間がかかりすぎた。
慎重さは必要だが、遅延は大きなリスクだ。
支点構築などスピーディーに対処できないと厳しい。
反省。
前半、不安を覚える支点でのエイド。
後半は心理的なタフさを要求される登攀。
様々な要素を併せ持ったクライミング。
こういうのも悪くない。
山登魂山岳会・鮎島さんは、登攀を終えこう締めくくった。
「いい山登りの良し悪しの基準とはビビるかどうかだ」(黒部の怪人、和田城志氏による言葉)としたら、
今回のクライミングも間違いなく、「ビビったクライミング」=素晴らしいクライミング=「魂のクライミング」だったのです。
登攀後、互いの無事に安堵しながら暗闇をヘッデンで切り裂いて歩く。
時は巡り、たとえ道が変わったとしてもこの日は決して変わらない。
そこに、言葉は要らない。
sak
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